第29話 テストとは

琴葉に抱きつかれた日から数週間が経過した。その最中も琴葉は奏太の家にご飯を食べに来てくれていた。



最初は恥ずかしさから来ないと思っていたが、約束を破る方が彼女にとっては苦だったらしい。初日はギシギシとした距離があったが、気がつけばその距離は無くなっていた。



お互いにあの日の事について触れなかったのも、両者に気まずさがあったからなのかもしれない。そんなこんなで、あの日の事は忘れたかのように頭から抜けていた。



結局、間宮からの接触は未だに無い。母からの置き手紙には、要約すると、琴葉と仲良くする事ときちんとした生活を送りなさいよ。との文章がつづられていた。




「今日も美味しかったです」

「そうか。良かった」



夜ご飯のおかずであるチキン南蛮が盛り付けてあった皿を台所まで持っていく。その後、琴葉はいつもソファに座る。




「そういえば、もうすぐテストがありますね」



数週間も経つと、すっかり奏太の家に慣れたのか、最近では琴葉からも話題を振ってくれるようになった。あの日以来、奏太に対する接し方は少し変わったような気がする。



大きな変化ではないが、心から安心して話しかけてくれているような、そんな感じ……。




「あー、けどこれといって何か変わるわけでもないしな」



奏太達の通う学校では、来週からテストが行われる。中間テストという名目で行われるテストは、学生達にとっては最悪の響きだ。



両親との約束に学力の維持も条件の一つだが、奏太は日頃ちょこちょこと復習は行っているし、元々地頭は良い方なので、成績面で困った事はほとんどない。



校内順位20位くらいの、良すぎず悪すぎないくらいの成績だ。




「私もこれといって変わらないですね」

「そんなもんだろ」



詳しくは知らないが、勉強を頑張れば褒めてもらえると思っていた時期があった琴葉は、その時の癖が抜けず、今でも勉強面にぬかりはないそうだ。



青春を謳歌する年頃の学生がこんな物で良いかと思うかもしれないが、特にする事もないので、これで良い。




「……勉強なんてした所で何か意味があるんですかね?」

「自分に聞いてみれば?」

「分からないから、奏太くんに聞いてるんですよ」



奏太自身も条件だから行っているだけで、好き好んで勉強している訳ではない。なので、理由を聞かれても分かるはずがない。




「……損はないから?とか?」

「そういう事なんでしょうか、」



勉強する意味があるのは当たり前なのだが、目標を持たないのに勉強して意味はあるのか。




「なんだ?勉強する意味でも欲しいのか?」

「そういう事じゃないです。今までの自分を振り返ってみた時に、行動の全てに意味があったのかな?って思ったんです」

「そうか」



親に振り向いてもらうための行動に、今更意味をつけるのは無理な話だ。




「勉強の意味、ね」

「どうかされました?」

「いや、ちょっと考え事というか…」



学生が勉強をする理由として、奏太の中には2つの考えがあった。1つは奏太と同じように何かしらの条件をつけられている場合。



2つ目は、友達と何かで競って勝負している場合。琴葉に意味を与えるとしたら、消去法で2つ目の方法になるが、いきなり勝負しようだなんて言い出しづらい。



言えたとしても、何をかければ良いのだ。奏太は、かけるほどの物を所持していない。そうなるとこの方法も没になってしまうが……。




「勉強する意味というのかは分からないけど、何かかけるか?」



具体的な思考はまとまらないまま、そう切り出していた。奏太と競う事で、琴葉の行動に後天的ではあるが意味がつくのなら、それで良い。



言葉を発言した後に、そう結論づいた。




「かける?というのは?」

「テストで勝った方が、何か言う事を一つ聞く」

「言う事を1つ……」



かけられる物を持っていないから、言う事を1つ聞くという案にしたが、側から聞いていればヤバイ提案だ。




「何でもですか?」

「本人ができるなら、何でも……」



何でもと言ったものの、奏太の願いはすでに決まっていた。もちろん不埒な願いでは無い。奏太の願いは、琴葉とまたどこかにご飯を食べに行く事だ。



以前看病した時に感じた、琴葉に色々と食べさせてあげたいという気持ちが、今でも残っていた。




「奏太くん、わたし頑張ります」

「俺も頑張ろうかな、」

「ちなみに奏太くんは、どんな願いなんですか?」

「それを言ったら面白くないだろ?」

「確かにそうかもです」



1人の女性として、男性から何でも言う事を聞くとなるといやらしい事をされるのではと心配になっているのだろう。



すでにいやらしい事以上の事はしているが、今の琴葉からは純白で純粋という雰囲気が出ている。



出会った当初とは違い、今は1人の人間として守ってあげたいと、そんな認識に変わっているので、またヤろうと言われても恐らく出来ない。



好きとは違うこの感情をどう表せば良いのか、自分でも分からなかい。元よりするつもりはないので、心配はしてもらわなくてもけっこうだ。




「私がどんな願いをするか、覚悟してくださいね……」

「あ、あぁ。分かった」



琴葉の頭の中身が見える訳ではないので、何を考えているかは奏太には到底分からないが、普段よりもちょっぴりと紅潮した頬に、一瞬ドキリとする。




「……じゃあ、私そろそろ帰ります。全力で取り組みたいので」

「忘れ物ないように荷物もしっかり持てよ」

「はい」



この日も、いつものように琴葉を自宅まで送っていった。








      -------あとがき-------



・勝敗はどちらになるか、ご想像しながら次話をお楽しみに!!


・応援コメントでモチベ上がります!過去の話にも、どんどんコメント書いて欲しいです!

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