第24話 月曜日

日曜日は終わり、月曜日になった。昨日は琴葉を家まで送った後、母に近況を話して寝た。今日からは夜ご飯を共に食べることになっているし、出会って数日とは思えない進捗を見せていた。



母は今日の昼頃まで家にいるそうだが、普通に学校なので、今朝別れを済ませた。そんなわけで、俺はすでに学校に来ていた。




「おい、奏太。昨日の用事とやらを聞いてもいいか?」

「え、なんで?」

「他でもない奏太の用事だぞ?気になるだろ」

「お前は俺の彼女か?」



昨日に既読無視を仕返したからか、拓哉が興味を持って話しかけてきた。




「で、何があったんだ?」

「何がって言うほどの事じゃないぞ。母さんが帰ってきただけだ」

「あ〜なるほど。お前あの広い家に一人暮らしだったな」



一度だけ拓哉を自宅に招いた事があるので、俺の家の大きさや一人暮らしをしている事については知っていた。



言い訳に母が帰ってきたと言ったが、拓哉から連絡が来たときには、母はまだ訪問していなかった。だけど、結果として用事は出来たのだから問題はない。




「じゃあ、まだしばらく家にいる感じ?」

「いや、今日の昼には帰るって」

「そうなのか。……俺今日行っていい?」

「駄目」

「いいじゃんか。どうせ1人だろ?それとも他に連れ込む人でもいんのか?」

「いると思うか?」



昨日まではいつでも家に来てもらって構わなかったのだが、もう本日からは来られては困る。いくら親しい友人でもバレたくない。



それも相手が、クラス一の美少女となれば誰だって隠したくなる。琴葉自体が男との関わりを持っていないので、ここでバレたら絶対に誤解される。




「いないとは思うが、ここで拒否するような奴でもなかったと思う」

「………人は数日で変わる」

「何だよ。前俺が言った時は寒気がするとか言ってたけど、やっぱり変わってるじゃねぇか」

「……時々思うが、俺はお前が怖い」



完璧に的中しているわけではないが、それらしい事を数日で2回も当てるので、その的中率に鳥肌が立った。




「えー、駄目なの?」

「駄目だな」

「なっちゃんも連れて行くからさ」

「彼女を連れて友人の家に行く奴がどこにいるんだよ」

「目の前だな。ここにいるよ」



おちゃらける拓哉の肩を軽く叩いた。拓哉が話した"なっちゃん"こと赤野七瀬あかのななせは、拓哉の彼女だ。中学からの付き合いだそうで、それはそれは長い間続いている。



俺も数回会った事があるが、テンションの高さといい、拓哉のコミュ力の高さを思い知らされた。



さらに人の目を気にする事なくイチャイチャするので、学校中から嫉妬の視線を浴びていた。




「会いたいかなって」

「友人の彼女に会いたいとか思うわけないだろ」

「いーや分かんないね」



友人に自分の彼女を会わせたいと思う方も思う方だが、奏太にとっては赤野七瀬のテンションの高さは一緒にいて疲れるレベルだった。



以前数分話しただけで、ごっそりと体力を削られた記憶がある。




「とにかく、イチャイチャなら他所でやってくれ」

「羨ましいのか?」

「もう二度と家に入れてやらん」

「そんなに怒るなって、ごめんごめん」



背中をバシバシ叩きながら、悪びれた様子がないので、俺もスネを蹴り返した。




「奏太、おまっ!スネは、スネはやべぇ……」

「愛しのなっちゃんにでも癒してもらえ」

「薄情なやつ〜」



それでもニヤニヤしている拓哉は、何か考えている事があるように見えた。




「南沢さん、おはよう」

「おはようございます」



後方からそんな声が聞こえてきた。振り向いてみれば、クラスメイトと今登校してきた琴葉が挨拶を交わしていた。その姿は、土日で見たような表情ではなく、壁を作ったようなそんな姿だった。



俺と目が合っても微動だに反応しなかったのは、俺との関係や、自分の性格や人脈などを踏まえた上での行動なのだろう。



(何も変わってないな、)



俺から友達になると言ったのに、生活面のサポートが出来る様になっただけだ。学校での生活は何一つ変わっていない。その事を実感させられた。




「南沢さん、おはよう」

「………月城さん、おはようございます」



友達という関係になっても周りにビビっている。挨拶を済ませた後、お互いに見向きもせずにすれ違った。




「かーっ、南沢さんは相変わらずだな」

「………別に接点もないし、気にする事ないだろ」

「奏太も奏太で冷たい奴だな」



自分でも何でこんなに冷たい事を言ってしまったのか分からなかった。




「たっくーん!!」

「おっ、なっちゃんか!」

「うげっ」



自分の不甲斐なさを思い知らされている時に、目の前に現れたのは拓哉の彼女だった。名前を呼ぶだけなのに、朝っぱらから凄まじい声量とテンションだ。




「あ、奏太だ。おはよ」

「おはよう。………俺はおまけみたいな扱いか?」

「なっちゃん、どうした?忘れ物でもしたのか?」

「いやいや、ちょっと喋りたくなったの」

「おいこら無視かよ」



無視した挙句にイチャつき始める2人に呆れる。呆れたのは奏太だけでなく、クラス中の人達も同じだった。中には嫉妬の目も混じっていそうだが。



嫉妬してしまうのも無理はなかった。友達贔屓なしでも赤野七瀬という少女はそれなりに整った顔立ちをしていた。



ショートカットヘアーが似合っていて、高校生とは思えないほどに幼い顔をしていた。髪色も金髪に近いので、視線を集めやすいというのもある。




「気持ちは嬉しいけど、もうすぐ朝礼だぞ?」

「本当だ。私、もう自分のクラスに戻るね!」

「帰りは俺が教室に行くから待っといてくれよ」

「うん!待っとくね!」



朝から吐きそうになる程にイチャつきを見せられては、この後の授業に影響が出そうだ。




「なんだ?やっぱり羨ましいのか?」

「……あんなん連れて来られたら、俺の平凡ライフに終止符を打たれる。よって二度と家には入れないわ」

「そこが良さでもあると思わないか?」

「全く」



思わずため息をつきたくなったが、とりあえずもう一発蹴りを喰らわしてやった。




「南沢さんも彼氏とかいるの?」



拓哉と七瀬のやり取りを見た女子達が、琴葉の周りに集まっていた。



(仲良くなりたそうな人もいそうだけどな、)



琴葉が言った、外観だけという言葉。それを聞いた時にはそう思い込んだが、実際に見てみれば、心から仲良くなろうとしている人も見るように見える。



琴葉に自ら話をしに行ってるのがその証拠だ。仲良くなりたいと思うから話しかける。そう考えるのは男だからなのだろうか。男と女では感性が違うので、認識の仕方も違うのか。



少なくとも、琴葉自身が受け入れようとしていないのは見ていて良く分かった。反対に、受け入れたくても受け入れ方が分からないというのにも気がついた。



受け入れ方といっても、俺と同じように接するだけでだいぶ変わるはずなのだが、それをしないのは何故なのか。




「それで、いるの?いないの?」

「………私にはそんな人いませんよ」

「………………。」



琴葉が発した言葉に対する返答が遅かったのは、琴葉が初めてクラス内で照れたような表情をしたからだった。



そうただ照れただけなのに、クラス中の視線を掻っ攫った。




「か、可愛い……」

「へ、急にどうされました?」

「やっぱり可愛いなぁ!!」

「あの、皆さん見てますし、恥ずかしいのでやめてください!」



慌てて手を解こうとする琴葉に、絶対に離さまいと必死に抱きついたり、頭を撫でている数人のクラスメイト。



(………俺と友達になって、少しは変わったのかな)



そう思うのはいけない事なのだろうか。しかし、先週の琴葉からすれば大きな変化があったと言えるはずだ。



だからといって自慢する気もないし、クラスで仲良いアピールもする気はない。




「奏太、」

「あ?なんだ?」

「あんなに可愛い反応を初めて教室内で見せたわけだろ?それなのに間宮が見向きもしないのは何故なんだ?」

「………確かに」



彼のキャラや教室の立場上、クラスの女子との交流は必要不可欠なはずなのに、しみったれた表情をしていた。




「失恋だな。あれは」

「拓哉、お前はやっぱり失礼だ」

「そんなに怒るな。ああいうのは見れば分かる」



いつもならだる絡みをしてくるのに、今日は話しかけても来ないので、間宮にも彼にしか分からない事情があるのだろう。



そんな間宮はどうでもよいが、少しでも琴葉が変わった。その事が、奏太の中には大きく響いていた。


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