第五章

第187話 魔界新時代

 惑星空洞説というものが存在する。

 人類が生息する地上。その地中奥深くは巨大な空洞となっており、そこにはもう一つの世界が広がっている。

 その世界は遥か昔より『魔界』と呼ばれ、地上世界各地に複数存在する地上と地下を繋ぐ『トンネル』と呼ばれる出入り口から地上世界と関わり、やがて二つの世界を交えた戦争が始まった。

 そして、数年前にその争いは、魔界を統治していた大魔王の死により終焉を迎え、友好条約を結ぶことによって人類に平和が訪れた。

 しかし、その平和は一つ間違えればまた過去の大規模な戦を再燃させるほどまだ危ういものであり、そして人類の平和とは対極的に、魔界の情勢自体は未だに不安定であった。


「取り囲め、奴らだ!」

「こんなチャンス滅多にないんだ!」

「名を上げるには、ここしかねえ!」


 激しく熱を帯びた声と共に、無数の魔族たちが平原を駆け抜ける。

 民族衣装のような布を基調とした服に、巨大な槍や斧を携えた二足歩行のトカゲ人間。

 それは、リザードマンと呼ばれ、多様な種族が存在する魔界でもポピュラーな種。


「コロセコロセコロセ!」

「ケケケ、オデ、コロス。オデ、ツヨイ」


 小さな短刀や棍棒等を携え、醜く邪悪な容姿をした半裸の魔族。

 それは、ゴブリンと呼ばれ、リザードマン同様にポピュラーな種。



「ちっ、こいつら……78位のゲロ率いる『ゴブリンスターズ』か。だが……獲物は譲らねえ。俺が60位台から抜け出すためにも、奴は俺たちが仕留める!」


「ゲヘ、ゲヘヘヘ、コロス、ズタズタ、シネ」



 異なる二種の魔族が、群れとなって駆け抜ける。

 一見、二種が抗争をしているように見えるが、そうではない。

 実際は、その二種が同じ獲物を狙っており、相手より先に仕留めようと争っているのだ。

 そんな二種に狙われるのは……


「だあああああああ、うざってー! なんなんだ、魔界に来て早々!」


 ある少数の男たち……いや……


「「「暴威の破壊神を仕留めろ!」」」


 一人の男を魔界の猛者たちは狙っていた。







 そして、場所は平原の少し先に位置する巨大な都市へと移る。


「おい、今週の『まろう』が張り出されてたのを見たか?」

「あん? 変動でもあったか?」

「ああ。数日前に登録された、あの半魔族が一気に上位に食い込んでるらしいぜ?」

「え? マジか?」

「ああ。ランキング保持者が狙っては返り討ちに合い、その流れでどんどん順位が上がってるってよ。今朝見たら、10位だった」

「おいおい、そんなのありかよ。つか、かつてはあの七天も討ったほどの男だろ? んなのを狙うとかバカじゃねーか?」

「噂じゃ、奴は四人組って話だからな。今のトップランカーはほとんど数百人とか、数千人以上の巨大組織のボスだから、狙いやすいんだろ」


 旧魔王都市にある寂れた酒場。

 獣人や悪魔や魔人。多種多様な種族が入り混じり、昼間から安酒を飲んでいる二人のオークが騒いでいた。


「まっ、俺らとしてはさっさと次期大魔王様を決めて、また戦争でもして欲しいもんだぜ。ジャレンゴク……ポルノヴィーチ、誰でもいいからよ」

「ああ。クッコローセ様には悪いがな。戦争無くなりゃ、俺らみたいな元軍人はつまんねーっての」


 飲んだくれてはいるものの、巨体に加えて全身に刻まれた無数の傷跡。歴戦の兵を思わせる風貌をした二人であった。

 だが、それはこの二人のオークだけではない。

 この酒場に昼間からたむろしている者たちは、皆何かしら常人とは違う空気を発していた。


「でよ、聞いたかよ。クッコローセ様……ついに、逃亡中だった『元七天』の、『あの方』を捕まえたみたいだぜ?」

「え……あの方って……あの、人類との和平交渉の際も会談を襲撃したりして最後まで抵抗した……今じゃ、カイゾー様と同じで賞金首になっちまった、あの方か?」

「ああ。あれからも色々と暴れたりして、あの方も今じゃまろうでは4位まで上がったって話だったがな」

「へ~、五大魔殺界と元七天に頭を悩まされてたって聞いたが、結婚前に問題一つ片付いたってことかい」


 ゲラゲラと笑いながら酒を煽る二人のオーク。

 だが、そんな上機嫌に笑う二人オークに、別の客が二人の話に割って入った。


「随分と気楽だピョン……戦争が無くなって、お前らの脳みも退化しておるかピョン?」


 いかつく、渋みのある中年の空気を発した口ひげを生やした男。その頭の上のウサギの耳が色々と台無しにしている、旅人風の剣士が現れた。


「おっ、これはこれは兎剣士・オジウサ様じゃねーか。まろうの順位が少し上がったみてーだな。80位台に入ってたな」

「ブッタハム……トンジール……お前たちは順位が落ちていたようだピョン。最近、何も活動していないピョン?」

「るせ。最近は日雇い仕事を探すだけで忙しいんだよ。お前みたいに、冒険者仕事があるわけじゃねーし、戦って負けてこれ以上順位も落したくねーしよ」


 兎人族のオジウサが二人のオーク、ブッタハームとトンジールを見下すように溜息を吐きながらも、そのまま二人の席に座る。

 店員に酒を一杯頼んで、それを仕事終わりの一杯のように一気に飲み干して、オジウサは話を続ける。


「4位のあの方……『オカーマン』様は捕まった。これ以上順位が上がることもない。下手したら、死刑かもしれない。そうなると、どうなるピョン?」

「え? い、いや……4位が居なくなったぐらい、俺らには関係が……」

「馬鹿ピョン。トップ10の順位が崩れるということはだ、その空いた順位を目指す輩が増え、猛者たちが過激に動き出すってことだピョン」

「あ、あ~……」

「普通、10位以内はよっぽどのこと……それこそ、過去の大戦で人間の将軍クラスやランキング上位者を仕留めでもしないかぎり上がることはないが……今では、当時上位だった七天も崩壊し、更には今回オカーマン様まで……。となると、もっと荒れるぞピョン。この魔界は……」


 まるで、これから起こる魔界の行方を予知するかのように、威厳溢れた声で断言する、オジウサ。


「「はは、んなバカな」」


 二人のオークは酔っ払っていたこともあるのか、「そんな大げさな」と笑って流そうとする。

 だが、その予知が当っていたことは、すぐに誰もが分ることになる。

 そう、すぐにだ。


「いや、そんなことはないピョン。何故なら……ワシの得た情報だと……最近破竹の勢いで、まろう10位になった……あの、『暴威の破壊神』がこの街に向かっているという情報があったピョン」

「ッ!? な、ぼ、暴威の破壊神がこの街に!?」

「ああ。そのため、その首を狙いに、旧魔王軍の兵やランキング保持者が続々とこの街に集ろうとしているようだピョン。特に今は……あの学生たちも――――」


 そして、その時だった。


「まったく……魔王都市も廃れたもんだね。かび臭い。そして負け犬たちの匂いが漂っている。僕たちがかつての戦争に出ていればそんなことにはならなかっただろうに……悔やまれるね」


 嘲笑するような言葉と共に、酒場の扉が開いた。




――あとがき――

久しく! お世話になっております。


本日はご報告があります。


本作が本日4月7日、コミックス1巻が書店及び電子で発売されます。是非とも手に取っていただき、四人の男たちの躍動する姿を見ていただけたらと思います!


よろしくお願い致します!

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