第167話 誤爆
「もう……女にあそこまでやらせるとか、ジオチンは、ジオチンチン越えて、ヤリジオチンチンじゃん」
「待て、俺はあいつに関しては手ぇ出してねーぞ?」
「いやいや、どーせ思わせぶりなことをして女の気を引いたんしょ? 一番タチの悪い女たらしじゃん」
月で激怒するフェイリヤに対して真っ向から対立するエイムとナトゥーラ。
そんな女たちの修羅場に、ギヤルは怪訝な顔でジオを見ていた。
「つか、何でこんな展開に……どーいうつもりだよ、オシリス!」
それも全てはこの異形のドラゴンの所為。
「いや~、僕様にそう言われても困りますね。全ては、面白……コホン、御主人様のためにとやっていることですから」
「何が御主人様だよ。つか、急にドラゴンになって現れるわ、鋼鉄だったり、月にフェイリヤを映したり、おまけにセクの兄貴だ?」
「そうですよ。僕様は、ナグダの誇る生体兵器。……進化した……次世代の生命体」
「けっ、ガキに頭の上に乗られている分際で、騒いでんじゃねーよ」
突如唐突に現れて、十賢者一位の舎弟になったかと思えば、面白おかしく場を混乱させるばかりか、フェイリヤやセクまで巻き込もうとする。
その真意がまるで分らず、ジオはただオシリスに怒鳴り声をあげた。
しかし、ジオの怒号にオシリスはまるで怯む様子はない。
それどころか……
「いや~、それにしてもジオ氏はモテモテだね~。エルフのエイム姫と従者ナトゥーラ……おまけにダークエルフとまで、お尻……お知り合いだなんてね~」
「あん?」
「そうそう、ここに来る前までは~、『メムス』という子と、『オシャマ』という子と、お尻合いになって、お尻を触って、お尻尽くしで楽しんだそうじゃないか!」
「……おい」
オシリスは、急に大げさに騒ぎ出し、ジオに向けるというよりは、ジオの傍らに居る「二人のエルフ」と「月に向かって」叫んでいるように見える。
そして、ハッとしたジオがハッとして両脇を見ると……
「ジオ殿~? めむすさん? と、おしゃまさん? とは誰ですか~?」
「なんと……ジオ様の愛人が既に他にも居らっしゃったとは……予想できたはずのこと……私としたことが、肉奴隷として不覚」
ジオをジト目で見るエイムとナトゥーラ。
「もう……どんだけなん?」
ついでにギヤルも少し引き気味。
だが、それよりも……
『ちょっと、オジオさん! どういうことですの!? メムス? オシャマ? どこのどいつですの、その人は! ハッ!? そういうことですのね! そのメムスとオシャマという人物こそ、ワタクシのオジオさんに手を出そうとした田舎娘ですわね! ムキーーーッ! 許せませんわ! ワタクシが心を広くしてオジオさんの旅を認めていますのに、ワタクシに会えず日々寂しい思いをしているオジオさんの心に付け込んで誘惑しようとする田舎娘!』
フェイリヤが月いっぱいに顔を近づけて癇癪を起した。
「っ、いや、ちげーよ! おい、フェイリヤ! お前、なんか勘違いしているぞ! 誰から聞いたか知らねーが、メムスともオシャマともそんなんじゃねーよ!」
『それは本当ですの? でも、その二人のお尻に魅了されたという噂は聞いておりますわ!』
「ちょ、ちょっと二人の尻を掴んだだけだ! そこまでだ! ……あとは……顔面騎乗されたぐらいか……」
『お、お尻を掴んだだけ?! ちょ、乙女のお尻を掴ん……!? ワタクシ、まだオジオさんにお尻を掴まれたことありませんわ!』
メムスとオシャマの名前まで出され、更には妙な話まで吹き込まれている様子。
上空ではオシリスがニヤニヤとしており、余計にジオをイラつかせるが、今は……
「うふふふふ~、あらあらあら~」
「ふぅ……まだ、お尻すら……そして、その二人はまだお尻だけ……そうですか。何も脅威に思う必要はありませんでしたね」
そのとき、ジオの両脇でナトゥーラとエイムが今のやりとりを聞いて呆れたように笑っていた。
『ちょ、何ですのそこのエルフのお二方。失礼ではありませんの? ワタクシを嘲笑するなど、無礼千億ですわ! たかが、オジオさんにお胸を触られたぐらいで勝ち誇るなど甘いですわ!』
そう、エイムとナトゥーラにとっては「たかが尻」なのである。
そのことをまだ分かっていない様子のフェイリヤ。
すると、エイムとナトゥーラは……
「うふふふふ~、私たちは~、ジオ殿に~、耳も~、唇も~、脇も~、おっぱいも~、両手も~、おへそも~、お尻も~、ふとももも~、足も~、と・う・ぜ・ん……男女の交わりにおいて、もっとも重要な~ア・ソ・コも~、制覇していただいてます~」
『……な? え? な、ど、どういうことですの? み、耳? 唇? 脇? おっぱい? 両手? おへそ? お尻? ふともも? 足? あ、あ、アソコ? ど、どこですのそこは!?』
「ふ、既に何度の交わりになるのでしょうね……それこそつい先ほど……ナトゥーラは2回……私は3回……気持ち良かったものです」
『ッ!? に、に、二回三回なんですの!?』
二人の言葉に激しく動揺して「わざわざ復唱」するフェイリヤ。
「ちょ、お前らいい加減にダマレ!」
「うふふふ~、ちなみにジオ殿が~、もっとも好き態勢はですね~対面で~キスしながら~うふふ」
「ちなみに、私はジオ様の御体は全身くまなく舐めさせていただきました。そう、私もジオ様を制覇しています」
『お、オジオさんの好きな態勢は対面……なんですの!? 舐め? ど、オジオさんの御体をくまなく舐め!? ど、どういう!?』
月に映されているためにその声が非常に大声で響き渡っており、ジオも急に恥ずかしくなって慌てて二人の口を閉ざそうとする。
しかし、誇らしげにフェイリヤへ告げる二人と、激しいリアクションを見せるフェイリヤを止められそうにない。
ならば、どうするか?
その答えは……
「ッ、オシリスーーーーっ!」
「ん?」
「今すぐ、これを止めやがれ! ぶっ壊すぞ!」
この元凶を作っているオシリスを止めるしかない。
だが、オシリスは不敵に笑い、止める気は全くない。
「それはなぜですか~? せっかく、楽しい暴露大会……もっと、ジオ氏のことを、『世界中』のみんな尻たがっているんですよ~?」
「あーもう、じゃあぶっ壊す!」
ならば、力づくで止める。
そう決めてジオはオシリスに向かって飛ぶ。
だが……
「うふふふ、残念だけど……御主人様によって力を解放させてもらった僕様は……」
「うるあああああああああああっ!」
「もう、君様の想像を超えているよ!」
「ッ!?」
ジオの渾身の拳をオシリスドラゴンの眉間に叩き込む。
激しい轟音と振動で空気が弾ける。
だが、オシリスはまるで堪えていない様子で、笑みを浮かべていた。
「か、かたっ!?」
「ふふふふ、言ったでしょう? 僕様は次世代の生命体! マシン君とはランクが違うんですよ」
「何が! テメエなんかより、マシンの方が何千倍も強くて有能だろうが!」
想像を超える防御力。痺れて痛む拳に、ジオは思わず舌打ちする。
この巨体はただのハッタリではないということが、今ので十分に分かった。
更に……
「あなたは、想像以上にいやらしい人だったんですね! その所為でチューニは私以外の人に……」
「ッ!?」
「少し、真人間になったらどうですか!」
ジオにとっての敵は、オシリスだけではない。
オシリスの額に乗って、ジオを冷たく睨みつけるオリィーシ。
「メガ・エクスプロージョン!」
オリィーシは掌をジオに向け、魔法を放つ。
その魔法はジオにとっては予想外のもの。
まだ、少し幼さの残る可愛らしい少女が放つには、非常に殺傷能力の高い魔法。
「っ、そ、そういえば、十賢者紹介のところに……」
思えば、街で貼り出されていた十賢者紹介一覧で、一位の得意魔法に爆発系という単語があったような気がしたと、このときになってようやく思い出したジオ。
だが、思い出してももう遅く、弾ける魔法がジオに向かって……
「僕バリアーーーーーっ!!」
「ッ、えっ!?」
「おっ!」
そのとき、ジオを庇うように一筋の光が飛び込み、オリィーシの放った魔法を粉々に砕いてしまった。
思わぬ乱入者に目を大きく見開くオリィーシと、思わず笑ってしまうジオ。
「もももも、どど、どうなってるんでー!? っていうか、やってみたけど、やっぱこれ恐すぎなんで!」
その人物は、オリィーシの魔法に勇敢にも飛び込んで無効化しながらも、ガクガク震えた表情を浮かべていた。
「チューニッ!」
「リーダー、ほ、ほんと、どうなってるんで! 月にお嬢様やセクまで写ってるし、何が何だか!? しかもドラゴン居るし!?」
「へへ、まぁ……ナイスタイミング」
騒ぎを聞きつけて勢いよく飛び込んできたものの、今になって状況がまるで分からずに慌てふためくチューニ。
しかしそれでも、仲間の危機に自分の特性を活かして飛び込んでくるあたり、やはりチューニも先ほどの自分との喧嘩で色々と変わってきていると感じ取り、ジオはそれが嬉しくて笑みを浮かべた。
そして……
『ま……すたー……』
月に映し出されたセクが、目を丸くして、しかし無表情ながらも激しく動揺しているのが分かるぐらい顔を真っ赤にしてガクガク震えている。
そして……
『ま、ますたー・チューニ……ま、マイマスター・チューニ……マスターが……バージョンアップしたスタイルに! ろ、録画します! 撮影します! 脳内デスクトップ画面の壁紙に! ジオ、邪魔です! マスターの写真にジオが写りこんでいます! マスター、マスター! マスター……なるほど、マスターがついに、パラディンになったのですね!』
「セク、ちょ、お、落ち着いて欲しいんで!」
「あいつ……なんで、チューニがパラディン意識してると理解した? パラディンってこういう恰好なのか?」
興奮して息を激しく乱しながら、「チューニがかっこよくなった」、「チューニはパラディン」と口にするセク。
新しい服装になったチューニが、ツボだったようだ。
両目を光らせて、「パシャ、パシャ」と妙な音を出していた。
「チューニ……この子も、私の知らない女の子……どうして? どういう関係?」
そんな一幕に、オリィーシはブスッとした表情で、まるで浮気した彼氏に怒る彼女のような態度を見せる。
だが、そんな態度を取られても、チューニは……
「えっ? いや、そ、そんなことあなたに言われても……」
そもそも、何故オリィーシに怒られるのかが意味不明だと首を傾げる。
((お、お前……))
そんなチューニの態度には、流石にオリィーシが不憫になり、ジオとギヤルは心の中で同情する。
「チューニ……私ね、あなたと会えない間……もっと素敵な女の子になろう……頑張って……あの時の指輪の約束を果たせる、立派な女の子になろうと思って頑張って……そして今では、十賢者一位になったの」
「え? は、はあ、十賢者一位とか……ほんと、すごい……と思いますんで。はい」
「でもね。そんな称号、成長したあなたを見て……色々な女の子に囲まれているあなたを見て、どうでもよくなったの。今の私が欲しい称号は……もっと別のもの。普通の女の子が望む、ありふれた称号。それが欲しいの!」
「……?」
己の切ない気持ちを訴えるように悲痛な叫びをするオリィーシ。
その気持ちは誰の目にも明らかである。
しかし、チューニにとっては、オリィーシの言葉は回りくどくて未だに意味が分かっていない様子。
すると、そのとき……
『そこの、マスターに群がる、十賢者一位という女……邪魔です。いかにマスターが優れた魔導士でカッコいいからといって、マスターに言い寄らないでください。マスターが迷惑がっています。それと、マスターに群がる色々な女という件を、もう少し詳しく』
「ッ、そ、そもそもあなたは何? チューニの何なの? トキメイキの女の子たちがチューニにいやらしいことをしようとしたり……それに、あなたまで……どうして! どうして、私とチューニの物語の邪魔をするの!?」
『……トキメイキの女たちがマスターに、いやらしいことを? ほう……。この、マスターの剣であり、盾であり、雷であり、翼であり、肉人形でもあるサーヴァントである私の目の届かぬところで……』
「えっ……?」
セクが額に青筋を浮かべて再び爆弾発言をする。
流石に想像以上の言葉に、オリィーシも思わず言葉に詰まる。
「ちょちょ、セクーーー! ななな、何を言ってるんだよー! ぼ、僕は、ほ、ほんとそういうんじゃないんで! っていうか、少し静かに! こ、この声、ひょ、ひょっとして世界中の人に―――」
顔を真っ青にさせてセクを止めようとするチューニ。
オシリスは大爆笑。
そして……
改めて世界が揺れ動いた。
――あとがき――
下記作品も是非お願いします! カクコン週間ランキング載れました~。読んでくださった皆様に感謝!
『天敵無双の改造人間~俺のマスターは魔王の娘』
https://kakuyomu.jp/works/16816700429316347335
まだ始めたばかりですので、フォローよろしくお願い申し上げます。
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