第85話 大人のお姉さん
「ぶりょふわああああああ!!??」
突如、建物の窓ガラスを突き破って、一人の男が投げ出された。
「い、痛いんだな! なな、なにするんだな!?」
「あぁ? もう、金がないんだったら客じゃないじゃにゃいですか。あんた、私たちの、にゃんこ喫茶ではもう遊べないにゃ」
頬に痛々しく付けられた刻み痕。肥えた豚のような肥満体型の貴族風の服をまとった醜い顔の男。
涙を流して怯えながら文句を言うその男に対し、店から出てきた女たちは、両手に鉤爪を装着して男に暴力的な罵声を浴びせる。
「ぼぼ、僕を誰だと思ってるんだな!? ぼ、ぼくは、ボッツラク家の長男、ヲターメンなんだな! ぱ、パパに言いつけたら、こ、こんな街なんか、かんたんんぶぎょおおおおおお!?」
男が見苦しくもまだ何かを言おうとするが、鋼の爪を携えた女たちは容赦なくその肉体を服の上から刻んでいく。
「好きにするにゃ~、その時はプロフェッサーPとフィクサ若頭に報告するにゃ。そうしたら、どうなるか……」
「ひっ……ひいいいいいっ!!??」
「それが嫌なら金を払うか~……売っちゃいますか♪」
「ま、待つんだな! ぱ、パパに言えば、ちゃ、ちゃんとお金は……いあああああああ!」
「それに、もう若頭からの情報で、ボッツラク家は先月に事業で大失敗して破産は確定。調べはついてるにゃ。お前はもう金を払えない。だから、未来は決まってるにゃ」
「そ、それなら、も、もういっかい、あ、あのことぶへぶひゅはあはああ!?」
血だらけにされた男が女たちに引きずられてどこかへ連れていかれる。
最後は恐怖におびえて泣き叫んで必死に助けを求めていたが、その声を誰も聞き入れず、女たちは連れていかれた男を涼しい顔で見ていた。
「……ひいい、な、なにあれ!? あの人どうなっちゃうんで!?」
チューニがそんな光景に、より一層恐怖を感じて悲鳴を上げてしまった。
「ウホッホッホ、あれは悪質な客に対する制裁です。大丈夫、ちょっとお金を稼ぐよう働いてもらうだけです。内容は……会員以外の方には教えられませんが」
「ほ~う」
「これも、プロフェッサーPで考えた、システムってやつでさ。プロフェッサーPはこういうアイディアを出したり、女の子たちに教育したりする、正にこの街の、いや、この国の顔のような人ですよ」
怪しく微笑むゴリコを見て、明らかに普通ではない街の空気を察してジオたちはほくそ笑んだ。
「ふ~ん。何者かは知らねーが……なかなか、刺激的じゃねえか」
「……どんな場所にも裏があるか……」
「確かに、裏もあり、更に奥も深いわい」
ただの田舎の小さくのどかな所だと思ったら、とんでもない場所だった。
それだけでなかなか興味深いのだが、ジオたちは『他のこと』にも感づいていた。
「それに……フィクサの依頼……想像以上にややこしそうだな……この街の女どもも、どういう経緯かは知らねーがな」
「リーダーも気付いたか? この街の女たちのことを……その正体も……ならば、ガイゼンも?」
「ぬわははは、当然じゃ。この街……甘ったるい香水の匂いを漂わせているが……ワシの鼻は誤魔化せん」
ジオ、マシン、ガイゼンの三人はこの街の「何か」に気付いたようで、互いにそのことを確認しあった。
「えっ!? リーダー、どういうことなんで? ねえ、この街がどうしたの? 想像以上に、お下品だとか!?」
「ん? あ~、まぁ、後で話すよ。今は……様子見だ」
一人だけ全く分からないチューニが焦ったようにジオに問いただすが、ジオは前だけを見て答えようとしない。
「ウホッ。あそこです」
ただ、不敵な笑みを浮かべるジオの様子がチューニは気になりつつも、四人が案内された先には、モクモクと煙突から煙を出す、瓦屋根の大きな建物に辿り着いた。
「ウッホホーーーイ! プロフェッサーPに客を連れてきた! 若頭から例の依頼に関する人だぞー!」
建物の前で大声を上げるゴリコ。すると、引き戸の扉がガラガラと開き、中から……
「ゴリコさん、プロフェッサーは今お留守にしていますが……ようこそおいでくださいました」
「「「「ッッッ!!??」」」」
こればかりは四人全員予想外だと驚いた。
「ぶっぼほっ!!??」
チューニなど、慌てて正座してしまった。
ブラウンのふわふわの長い髪。スラッとした身長でありながら体の肉付も良く、色気のある豊満な胸とムッチリとした尻……よりも男たちが目に入ったのは……
「なんだ、その恰好はッ!!??」
「……品がないと思うが……」
「うほっ! うっまそ~じゃわい!」
「ほげええええ!?」
ジオが怒鳴り、マシンは呆れ、そしてガイゼンはニタリと笑みを浮かべて涎を垂らす。
そう、中から出てきた女は……
「えっ? この格好? あっ、これはこの風呂屋の制服、紐ビキニアーマーです。プロフェッサーPの指示でして……」
「ひ、ひもあーまっ!?」
胸と下の一部だけを紐で括っているだけで、あとはすべて肌を露出し、裸同然のような姿の女。
妖艶な笑みと共に甘い臭いを醸し出して、女は微笑んだ。
「ようこそ、おいでくださいました。私はこの風呂屋の従業員兼プロフェッサーPの秘書……コンと申します。コン・パニョンです。以後お見知りおきを」
己の名を名乗り、ジオたち一人一人を嘗め回すように見て、そしてコンはもう一度微笑みながら、正座しているチューニに中腰で顔を寄せ……
「可愛らしい坊やまで来ていただいて……歓迎しますよ。ね?」
「うひゃっ!? む、むねちかはみでるだいさんみゃく!?」
チューニの眼前でこれでもかと己の豊満な谷間を寄せ、そして耳の穴に息を吹きかけ、小声で……
「もし、プロフェッサーの依頼を達成してくださったら……お姉さんが坊やに……おとなのいいことおしえてあげる♡」
「ぷっぴーーーなあああああ!??」
誘惑の言葉をささやいた瞬間、チューニは解読不能な奇声を上げてそのままのぼせてしまった。
「あらあら……かわい♡」
「……おい、あんまりガキをからかうなよな?」
「まぁ! 怖いお顔をなさらないで……あなた方にもぜひ歓迎を……任務が完了したならば、ですけどね」
いやらしい笑みを浮かべながらも、まるでジオたちを試すかのような目で見つめてくるコン。
それはただの風呂屋の女が醸し出すのとは明らかに異質な目であった。
その目を受けて、ジオもコンをにらみ返し、そして見定めた。
「……この女……」
ジオが感じたもの。マシンとガイゼンを横目で見ると、二人も小さく頷いた。
(……ツエーな……この女……)
(……それに、この街に居る女……全員が……)
(門番の女以外も……全員の雰囲気……それなりに戦える者じゃ)
そう、感じたのは、女たちの強さだった。
目の前のコンだけのではない。それは、門番のゴリコも含めたこの街に居る女たち全員を指していた。
「うふふふふ……なるほど、確かに若頭が送り込むだけありますね。全員……お強いですね。底知れないほど」
そんなジオたちの内心を感じ取ったコンは、嬉しそうに微笑んで尻を振りながら扉の奥へと入ってジオたちを誘う。
「どうぞ、こちらへ。あなたたちなら……プロフェッサーPの願いを叶え……あの男を倒せるかもしれませんね。そうすれば、あなたたちには天国を味合わせてあげますよ……こんこんって、させてあげますよ♡」
その誘いには色々な含みを感じさせ、改めてこの依頼がただ事ではないと感じさせた。
「こんこんってなんなんでぇ……」
チューニだけはそれどころではなかった。
――あとがき――
お世話になります。連休も本作の更新連打していきますので、よろしくです。
さて、現在カクヨムにも掲載している拙作の別作品『禁断師弟でブレイクスルー』ですが、こちらの漫画が【コミックシーモア 電子コミック大賞2022】にエントリーされました。何でか知らんけども。期間中はコミック1巻が会員登録なしでも無料で全部読めるようなので、まだ読んだことのない人やご興味ある方は是非に読んでみてください。また、これは全然まったくこれっぽっちもマジで本当に関係ないけど投票もできるみたいで……会員登録しなくても投票もできるみたいで……ま、全く何も関係ないですけども……応援してやってくださいませ。
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