第35話 海を渡る
居場所を無くして、世界を自由に生きることにした四人の男たち。
その目的地も明確ではなく曖昧なまま、とりあえずは北の方を目指して海の上を漂っていた。
「海賊現れないのぉ~」
見渡す限りが広大な海で、陸も島も全く見当たらない。
そんな海のど真ん中を漂いながら、時には全力でオールを漕いだりするも、一向に景色が変わることは無かった。
「問題ない。星の位置からも方角は間違っていない。地図上ではあと三日もすれば陸地に辿りつく」
「あと三日か。俺とガイゼンとマシンの三人全力で漕げば、もう少し早く辿りつくんじゃねえのか?」
「……僕が非力でほんと申しわけないんで」
意気揚々と海へ飛び出したものの、なかなか海賊との遭遇も、新しい陸地も見えてこないことに、ジオパーク冒険団も少し退屈していた。
「ん~~~! 暇じゃのう。酒も飲みたいし、暴れたいし、女も抱きたいもんじゃわい。のう、マシンよ。もしこのまま海賊に遭遇せずに辿りつく島なり大陸は、歓楽街ぐらいあるかのう?」
「この方角の先にある国は、辺境の小国家……小都市の規模だ。そういった、色街はないと思われる」
「かー、そうなると酒場の娘かなんかを口説くしかないか」
「魔族がそう簡単に受け入れられるとは思わないが……」
「そこは、ほれ、愛と気合じゃ! それに、リーダーとて半魔族ではあっても、人間のオナゴとまぐわった経験があるであろう? のう?」
「んまぁ、俺はほれ……一応、帝国の将軍っていう肩書があったからな」
「ほほう。モッテモテじゃったか?」
「そ、そりゃ~もう! 色々な女からお守り貰ったり、それこそ人間以外でもエルフとかからも……」
「ほ~、エルフか。あやつらは、白も黒も含めて皆が別嬪じゃから、羨ましいわい。それに、この間のウヌを連れ戻そうとした姫とやらも上玉じゃったしな」
退屈で品の無い話がガイゼンの口から出て、ジオもあまり思い出したくない過去でもあるので微妙な顔をした。
「しかし、ワシらの時代でも魔族と人間の血を引くハーフは確かにおったが、たいていが禄でもない扱いをされておった。それがよくもまあ、人間の国で将軍になったり、姫とイチャコラできたもんじゃわい」
「……けっ……よせよ。もう、昔の話だよ。それに、俺はもう『そういうの』はコリゴリなんだよ」
昔の話。数日前に切り捨てた過去だが、やはりまだ完全に忘れることは出来ず、ジオの心にほんの少し切なさが過る。
そんな自分が情けないと思いながらも、顔には出さないようにして笑って誤魔化しながら、ジオはガイゼンに話題を返す。
「そういや、テメエはどうなんだよ。大魔王に追放されたとはいえ、元七天ならそれなりに……つか、結婚ぐらい……」
「ガッハッハッハ、ワシは戦ばかりの人生。両親の記憶もなく……家族と呼べるものは生涯おらんかったの~」
「そうか……」
「代わりに、一夜のオナゴは六百人ほどおったがな」
「ちょっとしんみりした俺の気持ちを返せこの野郎!」
家族は居なかった。そんなガイゼンに、どこかシンパシーを感じたジオだったが、ガイゼンの尋常ならざる下半身事情に気分を壊され思わず怒鳴った。
ガイゼン自身は、そんな自分の過去を開けっぴろげに笑いながら話し、むしろ誇らしそうだった。
「まぁ、ワシやリーダーはさておき、チューニは……聞くまでもないか」
「やめて! ほんと悲しくなるんで! っというか、まだ十四だからそういう経験なくても珍しくないんで!」
「とはいえ、惜しいオナゴがクラスメートに居たようじゃが……アレとはそこまでの関係にならんかったんか?」
「…………別に………」
「やれやれ、拗らせ童貞じゃな、ウヌは」
話題はチューニに……となるかと思えば、「チューニにそういった話題はないだろう」とガイゼンは決めつけ、チューニも否定できずに不貞腐れる。
そして……
「じゃが、マシン。ウヌは分からぬな。色々改造されとるようじゃが……そういった、オナゴとの思い出はウヌには無かったのか?」
話題はそういったものについて未だに謎なマシンに向けられた。それには、ジオもチューニも少し興味を持って耳を傾ける。
すると問われたマシンは、海を眺めながら……
「自分にはそういう『恋愛』というものの感情までは芽生えなかったな。『仲間意識』と思われる感情は芽生えたりしたが……」
仲間意識。そうマシンが口にすると、ジオは舌打ちしながら鼻で笑った。
「けっ、何が仲間意識だよ。テメエはその仲間とやらに、封印されて閉じ込められたんだろ?」
「……ああ」
「で、こうして今は自由にフラフラしているテメエに対して、その仲間とやらはどうしてんだ?」
「さぁ、分からん。自分がこうして外を出歩いているのをまだ知らないのだろうが……」
「封印した仲間を気にすることなく、平和な世を満喫ってか? 大した仲間想いの勇者じゃねえかよ」
「……そう……だな。まぁ……色々と事情もあったが……」
どこか思わせぶりに、少し切ない雰囲気になるマシン。その過去は少し気になるところではあるが、ジオはそこで踏みとどまった。
余計な過去を特に詮索しないのが、自分たちのチーム。
マシンがあまり積極的に語ろうとしないのであれば、それ以上踏み込むことはないと、ジオはそれ以上は切り込まず、代わりに……
「そーいや、勇者で思い出したが……勇者って結局どこの誰のことなんだ? 俺が閉じ込められる三年前までは、そういった魔王軍と戦って一旗あげようっていう、自称勇者な冒険者が腐るほど居たからな」
「そーじゃな、ワシも少し興味あるぞ。ワシが封印されてから数百年なら、スタートのクソガキもソコソコ強くなっておったはずじゃ。それを倒したとなれば、ソートーなもんなんじゃろ?」
かつての自分が本来、大魔王を倒してなりたかった英雄の座に就いた存在。しかし、その勇者とは何者なのかをジオはよく知らなかったことに気付き、素朴な疑問を口にした。
ガイゼンも気になるようで頷き、マシンに尋ねる。
「……勇者の名は……『オーライ・クリミネル』……『ハウレイム王国』の辺境にある小さな都市の城主の家に生まれた男だ」
「……知らねーな。しかも、ハウレイム王国なんざ、連合でもほとんど発言権の無い弱小貧乏国家じゃねーかよ」
三年前の時点で特に名前の轟いていた人物でもない男が勇者。そして、その出身は帝国とは比べ物にならないほど小さく弱い国。その意外な経歴にジオも少し驚いたが……
「あれ? リーダー……そっか、知らないのか……」
「あん? なんだよ、チューニ」
「いや、ハウレイム王国って……この数年でスゴイ発展してるんで」
「えっ、そーなのか?」
ジオの知らない、空白の三年間の世界。それが、チューニからも語られた。
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