復活のM

「お姉さん復活!」


 翌日、真白さんは完全に元気を取り戻した。熱も下がり頭痛もないようで俺自身とても安心したが、今日くらいはまだゆっくりしてもらいたい。基本的に家に居ることが多いので大丈夫ではあるのだが、二人っきりだとそういう空気になるので気を付けないと。


「たか君、ほらほら」

「……あ~」


 腕を広げて胸に飛び込んできなさい、そう言われているかのようだ。確かに昨日たくさん甘えさせるとは言われていたけれど、早速真白さんはそれをご所望らしい。


「それでは参ります」

「参られよたか君」

「とああああああっ!!」

「つっかまえたぁ♪」


 甘い囁きと共に抱きしめられた。

 体の感触を確かめるように縦横無尽に背中を真白さんの腕が這い、匂いも嗅がれついでと言わんばかりに首筋を舐めてくる。とはいえ、真白さんもあまり無理をしないでほしいという俺の気持ちが分かっているのか、あまり過激なことはせずすぐに俺を抱きしめた状態でソファに腰を下ろした。


「はぁ……やっぱりこうしないと生を実感出来ないわね」

「あなたはどこの人ですか」

「たか君を大好きなだけのお姉さんよ~♪」


 むふふと笑って真白さんは俺を好き放題するのだった。というかこれって俺が甘えるというよりは真白さんが甘えているだけな気もするけど……まあ、こうされて嫌ではないし真白さんが元気になった証拠でもあるのかな。


「せっかく一緒にGTやる予定だったのにね。まあでも、いつでも出来るし慌てる必要もないわね」

「ですね。俺としてはよちよちプレイを披露せずに済んで良かったなって気もしてますけど」

「ふふ、誰でも最初はそんなものだわ。大丈夫、私もそうだし頼れる先生がもう一人居るから安心して?」

「先生?」

「たか君~♪」


 もう一人の先生というのは気になるけど、俺としても真白さんとGTをやるのは望んでいることだし楽しみにしておこう。


「……それにしても」

「どうしたんですか?」

「昨日ね? 私変な夢を見たのよ」

「夢ですか?」


 そう聞くと真白さんは頷いた。


「たか君が寂しがってるんだけど私は何も出来なくて、代わりにお母さんが現れてたか君をこうしてるの!」

「むがっ!?」


 ひ、久しぶりのおっぱいサンドイッチ!? いや、別に久しぶりではないし間は一日しか空いてないが何だろうこの感覚、まるで故郷に帰ったかのような不思議な感覚を俺は覚えていた。

 もぞもぞと顔を動かすと真白さんの胸の柔らかさはもちろんなのだが、ニットのワンピースということで生地の感触もまた気持ちが良かった。

 別に抵抗とかしているわけではないが、俺は真白さんの抱擁に一切抗うことはせずに身を任せた。その直後、パシャっと音がしたのでおそらくはスマホで写真を撮ったのだろう。


「しっかり快復したって伝えないとね♪」


 いつぞやの写真と同じく、真白さんの胸に顔を埋めている俺の構図かな。前と同じなら真白さんの輝かんばかりの笑顔が写っているけれど、絶対そっちよりこっちの方が見られてしまうなぁ……。

 お胸様に顎の位置を支えてもらうように顔を上げると、真白さんがクスッと笑って顔の位置を下げてくる。そのまま額にキスをしたのと同時に、さっき撮った写真が投稿されたようだ。


「それじゃあイチャイチャしましょうかぁ!」


 イチャイチャとはいってもただお互いに引っ付いているだけだった。抱きしめられていた俺だったが、途中からは真白さんを抱きしめるように体勢が変わり、完全に甘えたがりモードに入った真白さんの相手をする。そんな中、俺としては少しでも真白さんの体調に変化がないかを注意深く見守っていた。


「……本当に大丈夫そうだな」


 まだ油断は出来ないけど本当に大丈夫そうだ。そんな俺の呟きは真白さんに聞こえていたらしく、ハッとするように真白さんはばつの悪そうな顔をした。


「そうよね、たか君は本当に心配してくれているのに私ったら……もうもう! いつもいつもたか君とイチャイチャすることしか考えてない私自重しろおおおお!!」

「あはは、贅沢な困りごとですね俺からすれば」


 本当に贅沢なことだと思うよ。


「ま、今日くらいは立場を逆転しますか」

「え? ……わっ!?」


 膝に真白さんの頭が来るように倒した。真白さんの綺麗な金髪を撫でるように、決して傷なんて付かないように細心の注意を払いながら。


「来週には旅行にも行く予定ですから、しっかり休んでおかないと」


 そうそう、ずっと前に真白さんが夏休みになったら旅行に行こうって言ってたけどそれは来週になっている。今住んでいる場所は普通と比べれば都会だけど、真白さんと向かう場所は風光明媚な静かな場所らしい。まあ静かとは言っても、そこの旅館などは凄く人気で旅行客も多いことから決して静かではなさそうだけどな。


「……たか君も大人ね」

「何を言ってるんですか」


 二人してクスクスと笑い合った。

 俺の頭を撫でられながら大人しくしている真白さんだけど、彼女の目線は常に俺の顔を見つめていた。ジッと見つめられるのが恥ずかしくて前を向いているものの、真白さんの視線をヒシヒシと感じてしまう。


「……………」


 チラッと顔を下に下げて真白さんを見ると、やっぱり彼女は俺を見つめていた。目が合っただけで嬉しそうに花の咲いたような笑顔を見せ、その笑顔のまま再び俺をジッと見つめだす。何たる無限ループ、何たる気恥ずかしさ……でもこんなやり取りが嬉しく思えてしまう。


「……ふむ」


 頬を撫でてみよう。


「~~♪」


 気持ちよさそうに目を細めた。次は顎を触ってみる。


「♪♪」


 くすぐったそうだけどやっぱり嬉しそうだ。それどころか、もっとしてと目が俺に訴えかけているみたいだ。その要望に応えるように、猫をあやすように顎を撫でるとなんと真白さんは猫になった。


「ごろごろにゃ~ん♪」

「……可愛い」


 やってることは他人から見たら笑われそうなことなのに、不思議といつまでもこうして居られそうだから何というか……恋人の存在って凄まじいんだなと思う。真白さんだからかもしれないけれど。


「こうやってたか君にされるのもいいけれど、やっぱり私はこっちがいいかな」


 起き上がった真白さんは俺の隣に座り、腕を抱くようにして身を寄せてきた。確かに真白さんにはこうされることの方が多いし、これこそ普段の光景みたいな気もしてしまう。隣を見るとにっこりと微笑む真白さんの姿、うん最高です。


「この時間ってどんな人が配信してるのかな」


 さて、しばらくイチャイチャしていた時のことだ。真白さんのそんな一言があって俺はスマホを手に取り動画サイトへアクセスした。有名な配信者たちがこぞって配信しており、何百人何千人という人が視聴していた。


「この人凄いね。もう十時間やってるじゃん」

「……うわぁ」


 クリアするまで眠れません、そんなタイトルで配信をしている人だが真白さんが口にしたように既に十時間もやっている。流石に俺も真白さんもそこまでの体力はないので素直に凄いと思う。

 もちろん、そんな風に色んな人が見ているのとは別に数人しか見ていない配信者も居た。


「見てみます?」

「うん」


 視聴者が七人、登録者は四十二人の女性の人だった。

 やっているゲームはクラフト系のゲーム、戦ったり建物を作ったり出来ることでかなりの有名なゲームである。


『……ここをこうして……よし、完成』


 二人ほどがコメントをしてくれているようで、この配信者――イズナさんという人も楽しそうに喋っていた。


「私にもこんな時があったのよね当然だけど。なんか懐かしいわ」


 昔を思い出すような目をした真白さんは自身のスマホを手に取り、今俺のスマホに映っているイズナさんの配信に飛んだ。そして、俺の見ていた画面でイズナさんが驚きの声を上げた。


『応援ありがとうございます~! えっとマシロさ……ん!? マシロさん!?』


 隣を見ると悪戯が成功した子供の様にニシシと笑う真白さんでしたとさ。


「偶にはこういうのもいいわよね」


 その言葉に俺は頷いた。

 結局その驚きの先を見ることなくスマホを置いたけど、あの後イズナさんはどんな反応をしていたのかちょっと気になるところだ。


 さて、そんなこんなで真白さんは完璧に快復した。

 時間は少し流れ、真白さんと二人で行く旅行の時間。


「……?」


 真白さんの車でいざ出発して街中を走っている時にコンビニの近くで屯する集団を見つけた。彼らは俺の同級生であり、あの上川を含めた連中だった。

 歩道を占領するように歩く彼らの姿、もう少し列を作れよと言いたくなるけどめんどくさいので何も言いはしない。信号が赤から青に変わり、車が動いたその瞬間彼らと目が合った。

 驚いた上川たちの顔、今真白さんはサングラスをしているけどしっかりと運転をしている姿も見えたことだろう。


「同級生かしら?」

「はい」

「ふ~ん」


 聞きはしても全く興味はないのか真白さんは視線を前に戻した。俺も真白さんに続くように視線を逸らし、彼らから視線を外してこれからのことに思いを馳せる。


「温泉の効能とかも凄いらしくてね。混浴行きましょうね♪」

「あはは、了解です」


 さて、真白さんとの旅行楽しむぞ!

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