やっぱり嬉しそうにするお姉さん
「たか君~」
「はい?」
「た~か~君~」
「はいはい」
「たか君♪」
「はい」
「うふふ~♪」
絶賛真白さんに抱き着かれている俺です。
あの後、配信を終えてから真白さんはずっとこうだった。明日が休みだから夜更かしできるね、なんて挑発的な微笑みを向けられたが……はてさて、このまま疲れることなく眠れるのかは不明である。
「ねえたか君、お姉さんのこと好き?」
「好きですよ」
「大好き?」
「大好きですよ」
「愛してる?」
「愛してますよ?」
「ふ……ふふふふふふ♪ あ~んもう人生最高!!」
これで人生最高だなんて言ってくれるならいくらでもいいますってば。
取り敢えず、こうして何もせずジッと真白さんに抱き着かれているのは好きなのでもう少しこのままでいいかな。
……でもさ、この真白さんからされた問いを俺からもしてみていいのだろうか。
「……………」
「……ふふ、どうしたの?」
ジッと見つめていたら当然のように見つめ返された。
思ったことを言ってみて、そう言われているようで俺はこうさっきの真白さんの言葉を返すように口を開いた。
「真白さんは俺のこと好きですか?」
「好きよ」
「大好きですか?」
「大好きよ」
「愛して――」
「愛してるわ!」
「……俺、もう死んでもいいかもしれん」
「死んだらダメよたか君! たか君が死ぬならお姉さんも死ぬから!」
……冗談のつもりだったのだが、真白さんの声の圧というか目がマジだった。俺の身に何かあったら本当に後を追ってきそうな雰囲気を感じ、そんなことは絶対にないからと真白さんを落ち着かせる。
ただ、俺が冗談を言ったように真白さんも少し演技が入ってたらしい。
「慌てるたか君は可愛いわねぇ」
「……この!」
「きゃっ♪」
俺は真白さんを押し倒し、必殺のくすぐり攻撃をお見舞いする。
「や、やめてたか君……あは……あはははは!」
悶える真白さんに怒涛の攻めを続ける。こうして長く一緒に過ごしているからこそ真白さんの弱点はよく知っているのだ。真白さんが息も絶え絶えに横になった。紅潮した頬、潤んだ瞳……おかしい、何故俺は真白さんをくすぐっただけなのにこんなにエロくなっているのだろうか。
「もう……終わりなの? お姉さんをもうイジメてくれないの?」
「……………」
だから言い方よ言い方!!
真白さんに手が伸びそうになる気持ちを何とか抑え込み、俺は一旦真白さんから視線を外してソファに座り直した。
「……ベッド、いく?」
「……はい」
その後、特に何もすることはなく真白さんのベッドで二人横になっていた。
「……ふむ」
「どうしたの?」
最近……まあ思い出したことなんだけど、確かに俺はこっちに引っ越して来て部屋も用意されている。そこには勉強机はもちろんテレビだってあるし、当然俺用のベッドも置かれているわけだ。
「真白さん、俺こっちに引っ越して来てから自分のベッド使ってないですね」
「……そう言えばそうね。でも……たか君、お姉さんと一緒に寝るのは嫌?」
「そんなわけないです」
俺のベッドは小さいから二人だと窮屈すぎる。そう言う意味でも二人で寝るなら真白さんのベッドになるわけだが……というかその言い方は卑怯だと思う。そんなわけがないと言ったのは取り繕ったわけでもなく本心で、それはきっと俺も可能な限り真白さんの傍に居られることを望んでいるからだ。
「出来るだけ真白さんの傍に居たいと思っていますから……あはは」
「……抱きしめちゃうもん」
ギュッと、腕を抱きしめられた。
ニコッと微笑まれ、俺も釣られるように笑みを溢す。ベッドの上で特に何もすることはなく、お互いに微笑むだけで幸せになれるこの空気感……自分で言うのもなんだが本当にイチャイチャばかりしてるよな俺たちは。
「……真白さん」
でも、そんな中であっても少しだけ真面目な話をしようと思う。
「今まではずっと真白さんが一人でコメントの対応をしていますけど、俺にモデレーターを任せてもらえませんか?」
今までは機材の手入れと動画の編集程度しかしていなかったが、真白さんが生放送をしている時俺も何か出来ることがないか考えていた。今日のようにしつこい人が現れたり酷い言葉を口にする人も少なくはない、そんな中で真白さんを少しでも助けられるようなことをしたい……そう思っての言葉だった。
「それは構わないけど……いいの?」
「はい。僅かでしかないですけど、配信の面でもこの先ずっと真白さんを支えられるかなと思いまして」
「……分かったわ。お願いしてもいい?」
「はい!」
そうして、俺は正式にモデレーターの権限をもらった。
実を言うともっと早くこの提案をしようとは思っていたのだが……やっぱり、真白さんと深い関係になったことが後押ししたのかもしれない。もちろんモデレーターとしての仕事だけじゃなく、もっと他の面でも支えていきたいところだ。
「もっと他の面でも俺はあなたを支えたいと思っています。真白さんが疲れてしまった時に安心して寄りかかれる存在で在れるように」
これは俺の一つの決意みたいなものだ。
俺の言葉を聞いて起き上がった真白さん、彼女は俺の腰に跨るようにしながらその状態を再び倒す。俺の首筋に顔を埋めるようにして小さく囁いた。
「既にたくさん支えられているわ……でも、期待しちゃうわよ? これから先、ずっとお姉さんの傍に居てくれるんだって思っちゃうわよ?」
「はい。いずれ必ず、結婚しましょう真白さん」
「……うん……うん! 結婚しましょう!」
冷房が効いているとはいえ頬が熱い、きっと真白さんが見る俺は真っ赤な顔をしているんだろう。でも、これ以上ないほどに幸せな気持ちだった。
それからしばらく真白さんは俺にくっ付いていたが、満足したのか離れてさっきと同じように横に並ぶ形になった。
「ねえたか君、今でも機材の手入れや動画の編集もしてくれてるでしょ? その上モデレーターもだし、もう私の夫兼マネージャーってことね!」
「夫はともかくマネージャーですか……」
真白さんは主に普段の動画投稿と生配信、そして複数の企業案件を熟している。この先他のこともするかもしれないし、真白さんがカバーしきれない部分を俺がマネージャーとして気に掛け助ける感じかな。
「まあ傍に居てくれるだけでいいんだけどね。でもそうやってたか君にようやくお小遣いというか、お給料を渡せるのは楽しみだわ。今は学生ということもあって受け取ってくれないじゃない」
「それは……まあそうですけど」
「……お母さまが持ってるたか君用の口座には結構入ってるけどね」
「え?」
「何でもないわ」
学生という身分で給料をもらうのに気が引けたのもあるが……一番はその時の額を見て驚いたことの方が大きい。明らかに学生がもらっていい金額ではないし、そこそこ儲かっている会社でもそんなに出さないだろって金額だったのだ。
「でもあれですよね。真白さんはかなり収入があるのにあまり贅沢というか、車はともかく他に高い物を買ったりしませんよね」
「あ~、特に興味がないのよね。お金はあっても困ることはないけど、だからって何か高い物を買おうとも思わないもの。たか君との生活に必要なモノだけ揃えれればいいかなって感じね」
真白さんは……言ってしまうとかなりの収入があって金持ちと言えるだろう。それでもよく金持ち配信者が買うような高級時計であったり、ブランド物の鞄や服などは本当に買わないのである。
「貯まり続けるお金だけど、配信者という肩書がなくなってもずっとたか君とのんびり遊んで暮らせるくらいには稼ぎたいわね――ま、目標額は突破してるけど」
「……………」
以前に見せてもらったが、俺はもう一度見せてほしくて聞いてみた。
「……ちなみに真白さん、先月いくら入ったかとか見せてもらっても」
「いいわよ」
特に何も考える素振りを見せることなく、真白さんはスマホを操作して先月に入ってきた金額を見せてくれた。
「……………」
取り敢えず、登録者が七十万人を突破し企業案件を熟すとこんなにもらえるんだなと再認識する額だった。真白さんのように成功を収めた人ならこれほどにまでなる夢の職業だが、そうなれない人の方が圧倒的に多い職業でもあるのが配信者だ。
「……やっぱり凄いですね」
「先月よりは四百万くらい多かったわねよく見ると」
……とまあ、それくらい真白さんが言える額でした。
【あとがき】
前回の話のことで、何やら不穏な空気を感じた方々が多いようですが、基本的にほのぼのと二人のイチャラブで話が進んでいきます。なのでバッドな展開というか、そういうのはほぼないとだけ言っておきます。
安心して二人のことを見守って下さるとありがたいです。
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