天井が迫ってくる塔 第1話

「~であるから・・・ここの公式に・・・」


春の暖かさが眠気を誘う・・・

教師の言葉が呪詛の様に私の瞼の重みを増加させる・・・


「えーこの部分を代入・・・」


数学って本当なんの役に立つのかな・・・






微睡みに包まれて私は落ちていく・・・

下へ・・・下へ・・・下へ・・・

ひんやりと冷たい頬への何かが違和感を覚えさせてゆっくりと意識を覚醒させた。


「えっ・・・?」


そこはレンガ造りの建物の中だった・・・






「夢・・・かな?」


目を開いて辺りを見回すと同じ学校の生徒と思われる人間が数名。

全員床に横になって眠っている様である。

そして、私は目の当たりにした。


「えぇ?!」


すぐ目の前で何もなかった場所に、突如男子生徒が寝た状態で姿を現したのだ!

これが夢じゃなかったら一体何だと言うのか?

私は自分の肘の外側を抓ってみた。

良く夢の中を確認するのに頬を抓るというのを聞くが、頬は痛い・・・だから頬ではなく一番痛みを少なく感じる場所を私は抓る様にしたのだ。


「うん・・・痛い・・・」


これが本当に夢じゃないという確認方法なのかは分からない、だけど痛みがあるのは確かだ。

私は抓った部分を摩りながら周囲を見回した。

すると、それは在った。


「なにあれ・・・祭壇?」


何かを祭っているとは到底思えない長テーブルの上に並べられた蝋燭、そして手作り感が満載の神棚の様な物が置かれていた。

私がそれに気づいたとほぼ同時に誰かの声が上がる・・・


「うわっ?!なんだここ?!」

「えっ?なに?なんなの?!」

「お、おれたしか・・・」


一人の声に反応して次々と目を覚ましたのか、寝ていた人達が起き上がっていく。

見た所同じ制服を着ているのだが、先輩なのか見た記憶が殆どない人ばかりである。


「どうなってるんじゃ?!」

「し、知らないよ?!っていうか君誰だよ?!」


目を覚ました一人の不良っぽい生徒が男子生徒に絡んでいた。

リーゼントというヤツなのだろう、前髪が前に丸く固められて異様な髪形だ。

間違いなくあんな目立つ髪型をしている生徒が居れば噂になるだろうに・・・


「あぁ?!俺を知らないだと?!この金剛様を知らんとかお前何年何組じゃ?!」

「し、知らないよ君なんて・・・僕は3年B組だけど・・・」

「あぁっ?!嘘つくんじゃねぇよ!」


金剛と名乗った不良が男子生徒の胸倉を掴んで引き寄せようとした時であった。

その手が捻り上げられ逆に金剛が取り押さえられた。


「君こそ僕に手を出すなんて何考えてるんだい?」

「ぐっは、離せ!」

「一応これでも学校じゃ有名だったと思うんだけどね・・・」


後ろで腕を捻り上げられ顔を真っ赤にして叫ぶ金剛だが、涼しい顔でそれを制する男子生徒。

どちらも全く見覚えのない人である。


「てめぇ!ぜってぇ許さんぞ!」

「はぁ・・・今時君みたいな生徒が居るなんて聞いた事なかったんだけどな・・・」


そういう男子生徒の首元のバッチが目に入った。

金色に光る丸いそれは間違いなく私の学校の・・・


「この風紀委員長である僕、『渡辺 一』が君を更生してあげよう」


その言葉を聞いて私は耳を疑った・・・

だって、私の学校の風紀委員長は・・・


私の兄なのだから・・・

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