第11話「”甲鉄の薔薇姫”襲来」
そうして翌朝。
先輩とは学年が違うので途中で別れて、一人1年3組の教室に入って席に着き朝の準備をしていると廊下が騒がしくなっていることに気がついた。
「ん?」
何やら聞き覚えのある声と慌ただしい足音が廊下で響く。
おかしな奴が多いこの学校では日常なので無視しているとその声と音はどんどんと1年3組の教室に近づいてくる。
さすがにまずいなと思って意識を向けたとき、ついに教室で凄まじい声が鳴り響いた。
「カケル‼‼‼‼」
甲高く、芯のある、それでいて聞き覚えしかない声が教室に響き渡る。
いきなり耳に入った怒号に誰しもが驚いているとその声の主はドスドスと音を立てて教室に入ってくる。
そう、彼女は
高校一年生にしてFカップの巨大な胸を抱え、若き次世代の顔にもなる生徒会副会長でもあり、学校でも一番二番を争うほどの超絶美人の幼馴染だった。
燃え盛る紅蓮のような赤い長髪のポニーテールに、宝石のように光り輝く碧眼。
小顔なのに強烈であまりにも魅力的で理想的な体型を有している学校一番のの苛烈な
又の名を甲鉄の薔薇姫。
そんな異名を持つほどのツンケンとした性格に、何事に対してもキリキリしているまるで薔薇の茎のような女の子。その性格と見た目のギャップで多くの男子生徒を虜にしている苛烈さもまさに勲章ものともいえる。
そんなやばそうなステータスの持ち主はそんなことも気にせぬ顔で一直線で俺の座る教室の窓際の一番隅の席まで凄い形相でやってくる。
「あ、えと――どうしたんだ、美鈴?」
「どうしたんだ、じゃないわよ!! なんなの、朝のあれは!?」
ドン!
手のひらを俺の机の上に振り落とした。
「朝のあれって?」
「へぇ……そう、白を切るつもりなのねっ」
「え、いやいや、別にそんなつもりはないって。急に怒って入ってくるもんだからびっくりしたって言うか」
「びっくり? カケルが?」
「っえ、うん」
眉間の皺に、大きな口。
しかし、それでいて美しさもあるのが美鈴の喜怒哀楽の怒の表情だ。
やや驚きながらこくりと頷くと、彼女の平手が再び机に振りおりた。
「うっ——ちょ、ちょっと急になんだよっ」
「急にはそっちじゃないのよ!!」
「え、え? だから俺が何をしたんだよっ」
「何をしたかってっ〜〜〜⁉︎ なんでまっくんが覚えてないのよ!!!」
「まずなんのことだか分からないって……順を追って説明してくれ」
いつも通りといえばいつも通りだが、さすがに朝から騒がれるのも嫌なのでなんとか落ち着かせようと肩を撫でる。
「じゅ、順を追って?」
「あぁ、頼むよ、な?」
「……わ、わたしっ」
すると、静かになってくれたかと思えば急に美鈴の表情が変わった。
怒りの顔から心配の顔へ。
心配の顔から悲しそうな顔へ。
「ぅ……うぅ……しん、しん、心配だったんだからぁ〜〜〜!!!!」
何かに解放されたかのようにその場にばたりと倒れるように、あの甲鉄の薔薇姫が子供のように泣き崩れたのだ。
「お、おいっ、なんだよ急によぉ」
まるで俺が泣かしてしまったかのようになっていて、クラスメイトたちが俺たちの方に視線を集めている。
さすがにこんなところで泣かれるわけにもいかなかったので、美鈴の肩を支えて人気のない階段の方まで連れていくことにした。
★★★
俺にしがみつくように泣き喚く美鈴に水筒のお茶を分けて落ち着かせる。
「どうしたんだよ、急によ」
「そ、そっちこそ、急なのよ……ずぴぃ」
鼻水がだらりと下がる。
まったく、綺麗な顔が台無しだぞ。
「あぁもう、ティッシュ使えって」
「ぶ、ぶんっ」
ティッシュを渡すと、バッと奪い取りずぴーっと鼻をかむ。
「それで、俺が急って?」
「う、うん……ニュースで見たのよ」
「ニュース?」
「そう、昨日地下鉄に通り魔が出たってやつよ」
「あぁ……あれか」
先輩との仮の恋人関係やらなんやらで忘れかけていたがそんなことがあったな。先輩の家に泊まったのはあれがあったからだったっけか。
とにかく、こいつはそのニュースをみたから心配してくれた、と。
主語が抜けてて分からなかったけど、そういうことだったのか。美鈴にしては本当に優しいこと考えてくれてるもんだ。幼馴染だからだろうけどな。
「あれかって……大丈夫なの⁉」
「え、いやまぁ、特に怪我とかは」
「そ、それならいいんだけど……」
「まぁな。で、でもなんで通り魔の時に地下鉄に乗ってたって知ってるんだよ」
「え、それは――ほらニュースにまっちゃんの顔が映ってて」
「俺が⁉」
「う、うん。なんか中継映像に映ってて」
そうか、あれってそんなに大ごとになっていたのか。
まぁ、重傷者も出てるしそりゃそうか……。
ん、でも俺が映ってたなら先輩も映ってたんじゃないのか?
先輩の両親って結構心配性って聞いてたし、もしかしたらあれを機に実家に引き戻されるとかあるかもしれないよな。それはまずいな。
「それじゃ、あれって全国ニュースにもなってたか?」
「え、いや、まだ北海道だけのニュースだけど……それが何?」
「ん、まぁ、先輩がちょっと心配というか」
「せん、ぱい……あっ! まさか、あの女の事⁉」
そう言うと、また声色と表情を変えて噛み付いた。
「お、おいっ! あの女って言うなよ……先輩は女の子だろうが」
「知らないわよそんなの!! んくぅ……あの泥棒猫ぉ」
「泥棒って先輩は何も盗んでないぞ?」
「盗んでるわよ! 私の大切なものをね!」
「何をだよ……」
「あ、い、いや……これはなんでも、ないわよ。別にまっちゃんには関係ないし……ないっていうかあるんだけどないっていうか……」
「どっちだよ」
「うるさい!」
いや、色々聞いてきたのどっちだよ。
でもこうして俺たちの身をあんじてくれるのは嬉しい限りだ。こいつも少しばかりつんつんしてるところはあるにせよ、こうして思いやりもあるから悪いやつではない。
まぁ
ツンデレなのが一部の女子には不評らしいけどな。
「ほんと、あの猫のせいでまっちゃんが危ない目に合ってるのに……のうのうとぉ」
「言いすぎだって。それに、俺から先輩について行っただけだぞ?」
「そ、それは――あの女が変なことをあんたに吹き込んだからじゃない! あんな、アニメにどっぷりハマったせいで勉強だって手につかなかったんだし!」
「ま、まぁ……その節はどうも。でもあんまりアニメを悪く言うなよ? 美鈴だって見れば面白いってなるのによぉ?」
「ふぅん、そ」
「おい、興味ないだろ!」
「ないわね、まったくない」
さすが甲鉄との異名を持つだけある。
俺の前では割と棘が取れてはいるが結局のところ、信念は変わらないのでしたくないことはしたくないとはっきり言ってしまうのが彼女の特徴だ。
とまぁ、とにかく先輩の顔が映っていないようだし大丈夫だろう。
ひとまず、昼休みに会って話して今後のことを決めていこうか。
「あ、そうだ。話したいことあるんだけどさ、昼休み大丈夫?」
「え、昼休み?」
「何、駄目なの?」
「いやぁ、別にそう言うわけじゃないけど生徒会室行こうと思ってたから」
「あ、まぁ、それならちょうどいいわ。私も行く」
「え、ちょうどいい?」
「うん、今朝のことでもう一つ話がね……?」
唐突に笑みを浮かべ、胸をプルッと揺らしながら仁王立ち。
俺の肩に優しく手のひらを乗せると「ね?」と追い打ちをかけてくる。
思わず気持ちの悪い笑みに背筋が固まった。
付き合いが長い俺はよく知ってる。変に笑みを浮かべるのは怒っている時だ。
「け、今朝……とは?」
「言っている通りよ? いいかしら?」
「いやぁ、それはぁ……さすがに……ねぇ」
「文句を言いたげね?」
肩を掴む手の力がどんどんと強くなってくる。
置いていた手がググっと握りこぶしになっていき、服と肉を巻き込んでジリジリと音を鳴らす。
さすがにこれはヤバいと思って否定した。
「な、なんでもないです……」
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