第1話「30代独身彼氏なしの美人は恐い」


「ふぅ……今日も終わったぁ~~」


 とある梅雨明け。

 来週から6月に突入し、そろそろ本格的に試験や行事に向けての活動が始まる日々の中。


 俺ーー松本翔琉まつもとかけるは生徒会室の端っこでノートパソコンと睨めっこをしていた。


 なぜ、こんな時間に誰もいない文化部棟の生徒会室で作業しているのかと言うといくつかの理由がある。


 まず、俺は生徒会書記であること。

 それに加えて、書記としての仕事がまだいくつか残っているということ。


 まあ、それも全部。先輩から押し付けられたものだが……。


 とにかく残っているのはあと二つ。


 今週末に行われる学級代表会の進行書の製作と議事録の確認。

 そして6月末に控える生徒総会の企画進行書Vol.2の編集。


 とまぁ、そんなこんなで仕事を終わらせなくてはいけないのだが、今日は生徒会が休みの日。


 別に今日急いでしなくてはいけない仕事でもないし、パソコンだって家に持って帰ってすることもできる。


 ただ、俺がそれをしないのはもう一つの理由がある。

 それは今日はバイトで先に下校してしまったに会いに行くためである。


 別に、付き合っているとか。みんなには内緒の逢引きをしようとか。そんなことは考えていない。


 だいたい、彼女と付き合えるほど俺はでかくはない。


 今日はただ、先輩がバイト帰りに本屋に寄りたいと言ってきたのだ。


 先輩はアニメなどのサブカルオタクで、ライトノベルやライト文芸、そして一般文芸なども読むほど。月に読む冊数も20冊を超えるほどで1日1冊読んでいる化け物読者でもある。


 そんな彼女の趣味を知っているのは現状、俺だけ――と言うのは嘘で、お互いに本が好きだから付き合っているだけだ。


 恋愛的な意味での付き合うとかじゃないからな、別に。


 とにかく先輩のバイトが終わるのが19時くらいなので行く当てもなくこうして誰もいない教室の隅で仕事をしているわけなのだ。


「ひとまず、こんなところかなぁ……」


 窓を見ると辺りは真っ暗。


 教室棟にある職員室の灯りと外のグラウンドの電灯がついているだけで他はお化け屋敷ほどに真っ暗だった。


「サッカー部と野球部は……さすがにもういないか」


 時間も時間。

 本来なら部活で残っている生徒は19時までに終わらせて切り上げなくてはいけないルールなのだが、生徒会だけは特別で21時まで使っていいと言う権利がある。


 だからと言ってこの時間まで残る生徒会役員は俺くらいだがな。とはいえ、こんな不純な理由で使うと言えば先生方も黙ってはいないだろう。


「よしっ、帰る支度するか」


 時刻は19時40分。


 伊丹先輩のバイト先はここから電車で10分のところ、駅まで10分ほどだと考えると丁度いい頃合いだ。


 適当に帰る支度したくをして、職員室に生徒会室のカギを返しに行くと担当の御波みなみ先生から「また今日も残ってるの?」と冷ややかな視線で聴かれる。


「や、まぁ、そうですね」

「そうって……あなたほぼ毎日こんなに残って大丈夫なの?」


 少し神妙な面持ちで言われる。

 ちなみに御波先生は30歳の超絶美人で巨乳なお姉さんだ。

 え、もっと先に言えって?

 ほんと、男子生徒からの信頼は厚いけど——この人、この年にもなって彼氏一人もいないらしいし、狙うのはやめておいた方がいいと思うぞ。

 あとケバイしな。

 日ごろからすっぴんの美少女たちを見ている俺からしたら少し大人すぎる。


 ——そんなことは置いておいて、と。


 こうやって毎度の事心配されるのは慣れているが……毎回言われるのはあれなので、今日は言い返してみようか。

 

「……もしかして俺、邪魔です?」

「そう言うことじゃないわよ、ただね。ほら、生徒会って言っても学生だし、来年から忙しくなるし遊んだりとかはしないのかなって?」

「もしかして嫌味ですか、御波先生?」

「なんでそうなるのよ」

「先生、俺が友達少ないの知ってるでしょ? そんなの良く友達はいないですよ」

「ん……え、えぇ、確かそうだったわね。の割に生徒会メンバーとは仲がいいみたいだけど?」

「あれは別に仕事仲間ですよ?」


 そう言うと御波先生は「はぁ」と額に手を当てた。

 なんだ、俺、何かおかしいことでも言ったのか?


「まぁ、いいわ……そうね、そうかもね。あなたにとってはね」

「あなたにとって?」

「いや、なんでもないわ。ほら、それよりもあんまり生徒にここに長居されても困るし行きなさい」

「あ、もしかして先生、彼氏でもできました?」

「——できてないわよ!」

「あれ、なんだ。俺が邪魔で彼氏に会えないのを怒っているのかと……」

「っく……も、もう。ほんとにあなたは……仕事はできるのだけれど、こういうところがあるから。どうして伊丹さんは入れたのかしらね」

「それは俺もさっぱり。ていうか先生、そろそろ彼氏の一人や二人作った方がいいんじゃないんですか?」

「う、うっさいわね! ていうか二人も作ったらいけないでしょ!」

「これだから処女はっ……」

「しょ――あ、あなた!!」

「っと、失礼しました~~」


 少し殺気だったものを感じ取り、俺は鍵を先生の机に置きすっと職員室を飛び出た。振り返ると鬼のような形相で睨みつける御波先生が他の先生方に抑えつけられているのが見えて危ういとこだった。


「ふぅ……やっぱり30歳の女は恐いねぇ」


 と逃げながら時計を確認すると時刻はもう18時40分。

 

「やべっ——伊丹先輩待ってる!」


 さすがに遅れそうになり、俺は駅まで小走りで向かった。





<あとがき>

 次回、「まな板ムゥデレ乙女会長」は0:03に公開です。フォローよろしくね!

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