地下鉄で通り魔から救ったクールで完璧な美少女生徒会長が俺だけに自信がなくて甘々なところ見せるのが最高にあざとい。〜おっぱいだけが完璧じゃない完璧美少女〜

藍坂イツキ

第1章

第0話「プロローグ1:先輩にはおっぱいが足りない」

 人生において、恋というものはどういう意味があるのだろうか。 


 何か意味のあるものであるのは間違いないが、それが今後の人生にどんな影響を残すのかは分からない。その恋愛がいつ起きたかによっても話は変わってくる。

 

 一つ一つの出来事が二人の中で積み重ねられてきて、その結果相手に惚れて、その気持ちが好きに変わって……いつのまにか告白して付き合っていく。

 

 そんな恋愛が人生においては普通にあり、意味を残していく。たとえ、告白して実らなかったとしてもそれは人生にいい意味を残してくれる。


 今までの俺なら、今みたいな当たり前で生産性のない考えはしなかっただろう。

 

 ただ、今の俺にとっては。


 あの日、あの時。


 絶望の淵にいた俺を助けてくれた一人の人生の先輩がいてくれたから……。

 

 これは、そんな彼女と意味を探す恋の物語。





☆☆☆



 高校1年の5月中旬。

 入学して1ヶ月強が経ち、友達やグループが教室の中で形成されつつあるある日のことだった。


 キーンコーンカーンコーン。

 

「はぁぁ……この後って全校集会だっけ?」

「そうだよ。なんか転勤してくる先生の紹介だってさ」

「そうかぁ。んなの個人でやってくれっておもうんだけどなぁ」

「ははっ、そう言ってやんなよ」


 5限目の終わりの予鈴が鳴り、俺——松本翔琉まつもとかけるが席に寄りかかって肩を伸ばしていると、前の席に座っている上野達央うえのたつひさが振り返って面倒くさそうにそう言った。


「めんどいんだよなぁ、ったく」


 ダルそうな顔でそう言う上野は、モブな俺とは違い、イケメンで悪態をつく顔もクラスの女子からの視線を買っていた。


 さすが陽キャラ、レベルが違う。

 まったく羨ましいものだ。


「まぁ、しゃあねえか。美女先生が来てくれたら最高だしな?」

「女遊びはこりごりだったんじゃないのか?」

「先生で遊ぶかよ。ってか、遊んでるわけじゃねえ。俺は自分に合いそうな女子を探してるだけだ」

「さすが、イケメンは違うねぇ」


 誰よりもモテるが上に女子からしたら最低な言葉を重ねていく。こういうやつが友達だと世界の闇を見ている気分になるので気持ち的には複雑だった。


 まぁ、きっとこれは恋愛観の違いってやつだろうけど。俺にはやっぱり分からない。


 なぜそんな彼が俺なんかと話していると色々と理由はあるのだが、一つは腐れ縁ってやつだからだ。


 同じ中学で同じくサッカー部に所属していてポジション柄一緒に話すようになり、それからもそこそこ趣味も合うので仲良くなっていったというわけだ。


「ほらほら。行くぞ、上野」

「へいへいっ」


 声を掛けるとこれまた面倒そうに返事して、俺たちは廊下に整列した。



 体育館へ行き、全校集会が始まる。皆どうでもよさそうに、うたた寝しながら聞く者や下を見ながら聞く者、隣の女子と話しながら聞く者といつも通りの光景が見える


 しかし、そんな退屈そうな空気も一人の登場で一変する。


「では、生徒会長からの挨拶です。2年生、伊丹真礼さんよろしくお願いします」


 司会の先生がそう言うとボーっとしていた生徒も表情を変える。

 ステージ、そして壇上の先を見つめればやってくる一人の女生徒。


 紺色のブレザーと黒々とした妖艶なタイツに脚を包み、とても美しい様子で歩く彼女に皆目が行く。


 明るめの茶色の長髪に、サファイヤ色の瞳。

 顔はとても整っていて、美少女という言葉がとても似合う。


 頭脳明晰、文武両道。


 何をこなしても出来ないことはなく、全国模試でも体力テストでも一番上に立つ最強の称号を持つ生徒会長。


 余すことのない美と陽と粋のオーラ。


 完璧を追い求め、頂に立つ全生徒の憧れの的である可憐で美しい象徴の姿がそこにはあった。


「ここ札幌市では桜も舞い落ち、春の終わりと同時に夏の始まりが顔を出す今日。あらたに先生方を迎えられたのは大変うれしく思います」


 原稿を読んでいるはずなのに決して機械的な感じでもなく、抑揚と息の整ったリズムに目を奪われる。


 透き通った川のせせらぎのような声と、立ち振る舞いにどんどんと惹きつけられていく。


 誰もが息を飲んで彼女の言葉を聞き逃さない。


「綺麗だよなぁ」

「可愛いよねぇ」

「清楚可憐だよなぁ」


 どの生徒も尊敬と敬服の視線を向け、それでもなお見劣りしない姿は誰もが憧れる勝者のようで。


 無論、俺もそんな視線を向ける一人だった。


「——新しく赴任してくれた先生方には私たち生徒の成長を見守っていただけると幸いです。それでは私の挨拶はこれで終わります」


 綺麗な一礼をして壇上を下っていく姿も見張るものがある。

 そんな生徒会長の姿を目で追っているとあっという間に集会の時間は終わっていた。




 教室に戻ると上野は目を輝かせていた。


「いやぁ、赴任してきた先生めっちゃ可愛かったな!」

「んと、化学の?」

「そうそう! 立ち振る舞いと言い、声の透き通り具合と言い最高に綺麗だよなぁって」

「あぁ、そうだったっけ?」


 俺はというと会長の方に目がいっていてそれどころではなかった。

 しかし、そんな反応の俺に上野は苦笑しながら言ってくる。


「ほんと、お前は反応が薄いよなぁ……」

「別に薄いも何もないけどな」

「ははっ。はいはい、どうせお前はあの会長様の事が好きなんだろ?」

「は、ちげぇよ! んな訳ないって」

「またまた慌てちゃって。分かるんだよ、いつから一緒にいると思ってるんだよ」

「だから違うっての! 俺はただ綺麗だなって思ってただけで!」

「ははっ! ……はいはい。お前の言わんことも分かるけどなぁ。会長、すっごく清楚で可愛いし、顔だけじゃなくて成績も良くて、運動も出来て完璧だしなぁ」

「べ、別に、違うんだけどなぁ……その意見には同意するけどよ」

「ま、俺はやっぱり爆乳な先生の方が好きだけどな~~」

「何を言ってんだよ……」

「よし、今度誘ってみるか!」

「おいおい」


 ぐはーっとだらける腐れ縁の横で苦笑いを漏らす。


 以前も先生を狙っていたけど注意されて帰ってきたってのに何を言ってんだか。イケメンとは言えど性格は最悪だな。


 まぁ、悪いやつってわけでもないし、人助けする良いやつなんだけど。


 そんなところで、俺のスマホの通知音が鳴った。


「ん?」


 その相手は、話題の的。

 生徒会長こと伊丹真礼からだった。



☆☆☆



「こんにちは~~」

 

 放課後の生徒会室。


 今日は会議がある日でもないため、他のメンバーは見えなかったがガラガラと扉を開けると一人座っている人がいた。


「あ、翔琉君、来たんだ」


 入って一番奥、みんなの席を見渡せる場所に座っていたのは我らが生徒会長、伊丹真礼その人だった。


 可憐で美しい容姿を持ち、自他ともに認める完璧美少女。


 そんな彼女と対等に話しているのは他の人が見ると異質らしいが俺からしてみればそういうわけでもない。


「来ますよ。そりゃ先輩が呼んだんじゃないんですか」

「まぁそっか」


 そう言うと先輩は「たはは」と笑みを浮かべた。


「それにしても、散らかってる机ですね」

「ん、まぁ昨日の会議もあってからなのかちょっとだけね。あとで片付けするから手伝ってよ」

「はいはい……それで、今日はどんな御用で?」

「あぁ、それでね。実はパソコンが届いたから搬入sがよう手伝ってほしいなって思ったの。できる?」

「いいですよ。そのくらいなら」

「よし、ありがとね!」


 

 そんなこんなで汚い生徒会室を見られまいと奮闘する先輩を手伝った後。俺は自分の席に腰を降ろした。


「ふはぁ~~。終わった終わった。翔琉君はもう帰って大丈夫だからね」

「っなんか、パシリみたいですね俺」

「まさかぁ、そんなことないよ」


 苦笑い。

 それはもう答えを言ってるじゃねえかと心の中でツッコミを入れる。


「まぁでも。そうですね、たまには先輩の話し相手にならないと悪いですしね」

「ちょっと、まるで私に友達がいないみたいに言わないでよ……」

「そこまでは言ってませんよ? でも、先輩って無理して振舞っている節があるので俺がたまに息抜きさせてあげないとですし」

「なんも、無理なんてしてないけどね?」


 まさかまさかと首を横に振る姿を見かねて、俺は呟く。


「じゃあ、先輩。昨日やってた魔法少女サイコスメのお話ししませんか?」


 すると、先輩の座った瞳の色が変わる。

 グググと近づいてきて、机に平手を打ち付ける。


「いいよ!!」


 まるで子犬のようだった。

 今からお散歩にでも連れて行ってあげようとした時の犬のそのもの。俺の目にはフサフサとした尻尾が揺れているのが見えていた。


「ほら、そんなに楽しそうにして。絶対無理してる」

「あ……。そ、私が無理して振舞ってるだなんて、そんなわけっ」


 気づいたのか急に静かになり、落ち着きを見せるのも今更その場しのぎの言い訳は俺には通用しない。


「じゃあ、アニメイトにはついて行きませんよ?」

「あぁ、それはやめて!! 頼むから! 私一人じゃ名誉が!! てか怖い!!」


 そんな追撃にやられ、途端に涙目になり縋りついてくる。


「ほら、本性現した」

「ほ、本性言うな!」

「別に無理しなくていいって言ってるのに。俺の前ではオタクでもいいんですよって」


 ぐぬぬと苦渋な表情をする先輩。


「わ、私は会長なんだ。そんなこと出来るわけないだろう……」

「だから、せめて俺の前だけでは普通でいてくださいよって」

「もしも、コスメの話してた時に急に誰かが入ってきたらどうするんだよっ」

「化粧品だといえば?」

「うちの高校は化粧は禁止だぞ!」

「堅苦しいですね……」


 さすが会長と言ったところだが……まあこれでわかった通り。


 彼女、伊丹真礼生徒会長は生粋のアニメオタクなのだ。


 みんなの前では清楚可憐で完璧美少女を演じ、裏では俺の様なモブキャラと一緒にアニメを見たりラノベを読んだり、そう言う趣味も併せ持っているのが彼女なのだ。


 ただ。


 しかし、それだけじゃない。

 彼女の秘密というのはもう一つ、存在する。


「そう言えば……」


 はぁ、と肩を撫で下ろして息を吐く先輩に思い出したように俺は尋ねた。


「胸ですよ、胸」

「な、何を急に……」


 何かに気付いたのか、額から汗を滴らせて俺の肩をぽんぽんと叩いてくる先輩に俺はとどめを刺した。





「いや、なんかいつもの3倍くらいデカい気がするんですけど……」





 そのまま、ジト目を胸元に降ろすとそこには不自然に盛り上がった二つの山が。


 さらに見つめると先輩の表情はだんだんと赤くなっていき、ついに席から転げ落ちた。


「うわぁ⁉」

「あ、先輩!」


 慌てて駆け寄ると明らかなしぼんだ胸と横に落ちていた6枚のパットに目が行った。


「あ」

「あ」


 無造作に地べたに落ちたそれは世界の不条理を物語っていて、それでいて彼女の闇を隠侍しているようで。


 触れてしまったのが間違いだったような、なんともいえない空気が流れる。






 皆が憧れ、そして見つめる。

 完璧美少女には裏がある。



 



 クールで完璧な美少女生徒会長の先輩が俺の前では“ちっぱい”なことを気にするムゥデレ乙女なことを誰も知らない。











 

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