第386話

「やぁ、待っていましたよ少年」


 にこやかに挨拶してくれたグレッグだが、周りの連中はほっと胸をなでおろしてる。一体何があったんだろうか。


「なんか用?」

「アリア嬢から聞きましたよ。この装置を作ったのは少年だそうですね」


 この装置――言わずもがなバネ板の第1ステージだね。


「そうだねど、それが何?」

「いえ、面白い物だと思いまして、是非とも訓練に取り入れようと思ったのですが、どうやら少年が居ないと駄目だとアリア嬢から聞きましてね。こうして連れて来てもらったという訳です」


 確かに、俺が居ないと危ないよとは言っていたけど、まさか訓練のために駆り出されるとは思いもしなかったな。


「別にいいけど、やるのは後ろの連中でしょ? まずは難度を下げるから」

「ワタシとしては、このままでも構わないのですが……」

「それじゃ訓練にならないから駄目」


 有無を言わさず支柱のバネ部分を円柱に戻す。これだけでも、素人からすればグラグラ揺れて多少は難しい部類に入ると思うし、簡単にクリアするようなら改めてバネに戻せばいい。

 そして、カッピカピの地面と水魔法を程よく混ぜ合わせれば、緩衝材代わりの沼が完成する。


「ふむ、随分と用意周到なのですね」

「もとはアリア姉さんの訓練用だからね。怪我なんてさせたら母さんに何されるか分かったもんじゃないからね」

「なるほど。それに関しては同意します。さて、もう使用しても?」

「いいよ」

「ならば……さっそく挑んでみろ!」


 グレッグの号令で、腕っぷし自慢の村人連中が次々に飛び込んでは泥沼に落下するという何とも無様な光景が繰り返され、今度は怒号が飛ぶ。こんな時間まで訓練させるなんて、相変わらずの鬼軍曹ぶりだねー。

 そんな光景には全く興味がないし、そろそろ夕飯の時間なんで家に帰ろうかと土板を作って乗り込もうとしたら、今度はアリアに首根っこを掴まれて引きずり落される。


「えーっと、なに?」

「アタシ、訓練終わりなんだけど?」

「しってる。汗臭――いだだだだだ!」


 素直な感想を述べかけたら、言い終わる前にアイアンクローで頭蓋を割られかけた。相変わらずの脳筋ぶりに文句の10や20言いたくなるところだけど、未だ生殺与奪の権利を有している相手にそれは寿命を縮めるだけだ。


「洗いなさい」

「分かりましたよ」


 ようやく手が離れたので、水球でアリアを覆って洗濯開始。もちろん、アイアンクローの恨みを晴らすべく、いつもより強めにしっかりと洗ったおかげもあって、その眉間に何度かしわが寄った。

 それで多少留飲を下げていると、視界の端に近づいてくるハーフエルフの姿が。


「おい。両陛下へのぬいぐるみはどうなっている」

「あー。何作るか決まったよ」

「それだけか?」

「おん」

「遅い! このままでは遅れが出てしまうではないか!」

「それはそっちの責任でしょ」


 元々数日悩んでたこいつが悪い。それが無ければ、もしかしたら姫ちゃんのぬいぐるみ制作に着手していたかもしれないし、してなかったかもしれない。なので、俺に文句を言うのは筋違いってもんよ。


「っぷは! ちょっと! いつもよりなんか痛く感じるんだけど」

「気のせいじゃない? とりあえずゆっくり待ちな。そのうち出来るからさ」


 アリアが洗濯を終えると同時に文句を言って来たけど、そんなのは予想の範囲内なんで軽くスルー。そんな事より、さっさと家に帰って夕飯の手伝いをしないとエレナにぐちぐち文句を言われる。


 ――――――


「さぁリック。話してもらおうか」


 夕飯が終わり、さて風呂にでも入ってさっさと寝るかと、テンション高くスキップを交えながらリビングを出て行こうとしたんだが、どう言う訳かヴォルフに捕まってしまった。


「えーっと、急に言われても何の事か分かんないんだけど?」


 正直、なんか注意されるとか文句を言われるとかって事をやった覚えはない。だから、さっさと風呂に入ってベッドで朝までぐーたらさせてほしいんだけどね。


「何って決まっているだろう。両殿下にお贈りするぬいぐるみに関してだ」

「あぁ……それですか」


 相変わらずの忠臣ぶりだ。俺からすると、たかが酒ごときでよくもそこまでと思わなくもないけど、速攻で寝たいからさっさと話しを終わらせるとしますかと、土魔法で3種の進化先があるポ〇モンと、始祖龍を作り上げる。


「こっちが姫ちゃん用で、こっちが王子君用になる予定。じゃ」


 完成予想を見せたんで、もういいだろうと席を立ち、さっさと風呂に入ろうとしたらまた止められた。


「まだ話が終わってないぞ」

「まだ作ってないよ。以上」

「そこじゃない! ちょっとこっちのについて話がある」


 ずい……と見せられたのは始祖龍の方だ。土魔法だから色は茶色だけど、出来としては悪くないと思っています。


「それがどうしたの?」

「これ、何を見て作ったんだ」

「うん? 前に何とか龍のぬいぐるみ作ったじゃん? アレを元に、俺なりに格好いいを妄想した結果だよ」


 この反応……もしかして、ヴォルフは始祖龍を知ってるのかな? だとしたらなんでこんな反応なんだろうかね。


「そうだよな。リックが知る訳ないな」

「なんか引っかかる言い方だけど、これが何かおかしいの?」


 まぁ、こちとら龍だってわかりきってんだけど、白状するほど馬鹿じゃないんで知らないフリをする。


「いや、今の話を聞いて納得しただけだ」

「ふーん……で? 作っていいの? 駄目なの?」


 なんか不満そうな顔をしてるけど、今は就寝と言うぐーたらにとってかなり大事な修行兼祈りの時間の方が優先順位が高いので、さっさと結論を出してほしい。


「……そうだな。殿下も知らぬ龍であれば、気に入っていただけるかもしれないからな。許可しよう」

「じゃ、俺は寝るねー」


 やーっと話が終わった。とりあえず、よく分からんけど許可を貰った以上はこの2体で決まり! あとは、未来の俺に託してお休みなさーい。

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