第282話

「あーやべー。超しんどい」


 明けて翌日。昨日は素早くベッドに飛び込み、かなり集中して睡眠に挑んだが、目覚めてみたら大して変化がなかった。つまりぐーたら力がほとんど回復してないわけよ。

 あの地獄の時ほどじゃないにしろ、こいつはかなりしんどいなー。今からでも1日ぐーたらする権利を使っちゃおうかなーなんて考えてると、いつもと違ってゆっくりと戸が開けられ、顔を出したのはサミィだった。


「起きてる――と言う事でいいのかな?」

「その認識で合ってるけど、サミィ姉さんが来るなんて思わなくてちょっとビックリはしてるけどね。それで? なんか用事?」

「ああ。随分疲れてそうだったんで相談しなかったんだけど、砂糖の畑の件で話があってだね。朝食まで時間をもらっても良いかな?」

「まぁ、そのくらいであれば」


 ちょっと話を聞く程度であれば動く必要はないし、いざ場所が決まった所で俺がやるのは耕すのみ。種植えや収穫はガキ共の仕事なんで、実質何もする必要はない。


「良かった。それじゃあ皆も待ってるから急ごうか」

「うん? 皆ってなに?」


 俺の問には答えず、サミィはズンズンと廊下を突き進みまっすぐリビングの戸を開けると、そこにはエレナとアリアが居た。

 砂糖に関してエレナが居ないのはおかしいから特に気にしないけど、アリアが居るのはちょっと気になるねぇ。

 たしかにアリアも砂糖が好きなんだろうけど、訓練第一主義を掲げるアリアが、ヴォルフと出来る朝の訓練を放り投げてまで出席するか? と問われれば、俺はノーと答える。


「遅いわよサミィ姉さん。やっぱりアタシが連れて来た方が良かったと思うわ」

「訓練はどったの? アリア姉さん」

「大事な話があるって母さんに言われて」

「あぁなるほど」


 つまりはそう言う事らしい。可哀想に――とはあんま思わない。いつも俺のぐーたらタイムを邪魔してくれてるからな。ザマァ見ろって気持ちのほうが強い。


「リックちゃんおはよー」

「おはよう母さん。朝ごはんは?」

「もう作ってあるから心配しなくていいわよー。そんなことより砂糖に関するお話があるんでしょうー?」

「なんかそうらしいね。俺も詳しい内容までは知らないんだよねー」


 何せ急に決まった話だからな。てっきりもっと時間をかけていい立地を見つけてからだとばっかり思ってただけに、この迅速さにその本気度合いがよく分かる。

 さすが砂糖。まさに合法麻薬ここに極まれリ。と言わんばかりだな。


「それじゃあ早速だけど、村にいる皆からも話を聞いて幾つかリックの条件に当てはまるんじゃないかって場所を見つけたんで、良いか悪いかの判断してほしいんだ」


 どっかと土板をテーブルに置くと、簡素に書かれた村の全容プラス。多少離れた場所までの地図が彫ってあって、そこにいくつかバツ印が刻んであるって事は、そこがピックアップした場所なんだろう。

 さーてどれだけぐーたらのことを考えてくれたかなーと身を乗り出したら、どう言う訳かアリアにアイアンクローを極められた。


「アリア姉さん。手……邪魔なんだけど」

「条件って何? アタシ聞いてないんだけど?」


 初歩な質問なのは別にいい。確か現場にアリアはいなかったはずだからね。

 でもこの聞き方はどうかと思う。

 それに、別に俺に聞かなくてもサミィなりエレナなりに問えば同じ答えが返ってくるって言うのに、なんだってわざわざこっちなんだよ。まぁ、答えるけどさ。


「前に来た伯爵見つかりにくく、万が一のときにぶっ壊しても迷惑にならない場所」

「何よそれ。別にどこに作ったっていいんじゃないの?」

「じゃあ兵練場と裏庭でもいいんだね?」


 前者は第1農場とほど近いし。後者は屋敷と村の出入り口から遠いから、畑を潰したとしても訓練中のなんかじゃね? って言い訳で誤魔化すのが容易だ。


「ふざけんじゃないわよ! そんな所に作られたら訓練の邪魔じゃない!」

「わがままだなぁ。どこでも良いって言ったのはアリア姉さんだろ。それに、ここに候補地としても挙げられてるし」


 そう。ちゃんと俺の意を汲んでるようで、いくつかある候補地として裏庭はさすがに除外されてるけど、兵練場は広くて遠いからきっちりチェックが入ってる。

 ここに決まったらグレッグの説得が必要になるけど、そういうのは女性陣に全投げするつもりだ。


「ちょっとサミィ姉さん。どういう事よ」

「意図はないさ。皆からの意見を聞いて総合的に判断した結果だからね」

「だったとしても消しといてくれてもいいじゃない。こいつの事だから、アタシへの嫌がらせでここにするかもしれないじゃない!」

「あらー。その心配は必要ないわよー。リックちゃんは優しいからー、ちゃんとそんな事はしないわよー。ねーリックちゃーん」


 まぁ、理由は違うけど確かにここに第2の砂糖畑を作るつもりはまったくない。だってグレッグの説得が面倒なのに加え、どうせ新しい兵練場を作れとか言い出すだろうからな。

 んな面倒な事をさせられる未来しかない場所は、早々に候補から外すつもりだったけど、エレナの余計な一言で変に誤解されそうなんでキッチリ説明したいんだが、したらしたで脳筋の頭で理解出来るか分かんないし、出来たら出来たでアレやコレやと注文を付けてくるかもと色々考えるとこっちに全く利がない。


「あーはいはい。そうですねー」


 こっちの方がより面倒じゃなさそうなんで、取りあえず肯定しておこう。そうしてサッサと畑の場所決めをやっちゃわないと、この場に居ない裏切り者・ヴォルフがお腹を好かせて待ってるだろうからな。

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