2.
時間が過ぎて、学校から家に帰ってきて。晩ご飯も終えて、みんなそれぞれの時間を過ごしている中。
私は落ち着かない気持ちをそのままに、クラスの子達から預かったラブレターを後ろ手に隠し持って、道松兄さんの部屋の前に立っていた。
他の兄さん達がいる前では、なんとなく渡しづらくて。それで私は道松兄さんと二人きりになれるタイミングを見計らっていた。
廊下で待ち続けること数十分。ようやく道松兄さんが現れた。良かった、一人だ。風呂上がりなのか、兄さんは濡れた髪をがしがしとタオルで拭いていた。
私はこのチャンスを逃したらダメだと自分に言い聞かせると、いざ兄さんに渡そうとしたけど、なんだか自分のことみたいにドキドキしてきた。
それでも私は意を決すると、部屋に入ろうとしていた兄さんを呼び止めた。
「あ? なんだよ、牡丹」
「あの、これ……」
「なんだ、これは」
「なにって、えっと……。クラスの子達が兄さんにって」
怪訝な顔をしている兄さんに、私はラブレターだって、そう伝える。
すると兄さんは眉間に皺を寄せ、
「いらん」
即座に言い放った。
その低い声音は、私の頭を思い切り揺らした。やっぱり私でも無理だったよ。みんな、あんなに期待していたのに。明日、どんな顔をして会えばいいんだろう。
でも、兄さんも受け取りもしないで突っぱねるなんて。せめて読んであげるくらいしてもいいんじゃない?
道松兄さんは冷たい。
そんなことを思っていると私の気持ちが伝わったのか、兄さんは、
「なんで知りもしないやつからの手紙を読まないとならないんだよ。どうせそいつ等、俺の顔だけが目当てだろう」
あっ、顔が良いって自覚あるんだ。って、そうじゃなくて。確かに兄さんの言い分も一理ある。私だって全然知らない人から突然手紙を渡されても、そう簡単には好意を抱けないよね。しかも、一度にこんなにたくさんもだ。
私ってば、女の子達の気持ちばかりを優先して、兄さんの気持ちは全く考えてなかった。考え足らずだった。
私の口先から、
「ごめんなさい」
と声がもれる。
すると兄さんは、ぐにゃりと眉を歪めさせて、
「なんでお前が謝るんだよ」
一つ乾いた息を吐き出してから、
「別にお前が謝ることじゃないだろう」
ともう一度言った。
それから兄さんは、なぜか私の頭に手を乗せた。兄さんの手、大きいな。そんなことを思っていると、今度はぽんぽんと軽く撫でられた。
なんだろう。頭の中がふわふわ? ぽかぽか? 安心するっていうのかな。なんだか不思議な気分だ。こんな気持ち、初めてで。
私がその不可思議な感情に浸っていると、突然、私の手の中に残ったままの手紙の束がすっと抜き取られた。それは兄さんの手に移動していた。
あれ。手紙、受け取らないんじゃなかったの?
私が首を傾げさせていると、兄さんはあきれた顔をして、
「お前が文句言われるだろう」
「でも……」
「今回だけだからな。それと、周りからいいように使われるなよ」
そう言葉を添えると、兄さんは自分の部屋の中に入って行った。
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