無能の少女

 たくさんの視線が私に集まる。


「もう一人も、聖女だった場合どうなるんですか? 半分にわけるわけにもいきませんが」

「あのみすぼらしい服、きっと違いますよ」


 クスクス、誰かの小さな笑い声が聞こえてくる。


「貴女はお名前は?」

「すずです。あ、えっと鈴芽すずめです」

「スズメさんですね。さあ、こちらへお越しください」


 青紫色の髪の女の人が近付いてきた。リオンに似た容姿。兄弟だろうか?


「あの……」

「先程の二人を見たでしょう? 同じようにするだけです」


 私の手を引いてくれる人はいない。一人で、名も知らない女の人に言われ、誰かもしらぬ男の人の前に立つ。怪我を治す? 確かに目の前の男の人は、ひどい怪我をしている。だけど、歌を歌って……治せるの?

 ……考えていたって始まらない。私以外は出来たんだ。私だってきっと――。


 いざ、歌おうとすると、ドクンと心臓がはねた。私は『SAY』をクビになった。もう、『SAY』の歌を歌う資格は……ない?

 ぎゅっと、手を胸の前で握る。そして、私が歌ったのは、私達の歌じゃない、流行はやりの女の子アイドルグループの歌。


『――――クッキーをひとかじり。君との距離を近付けて。これが欲しい? なら、あげる。だから、私の気持ち気がついて~』


 しんとした空気が広がった。

 何も起こらない。さっき見た光の粒も、怪我が消えることもなく。


「あなたはどうやら、違ったようですね」

「あの……、どういうことなんでしょうか。家に帰してください。ここ、どこなんですか!」


 私が、女の人に聞くと女の人は、冷たい目で微笑む。


「ファイスヴェード第一王女のわたくし、フェレリーフに対し、失礼ですわよ。無能の少女」

「王女様……」

「この少女は――」


 フェレリーフは麻美と結愛を見てから、私に視線を戻す。


「特別室にお連れして下さい。丁寧にね」

「あの、どういうことですか」


 がしりと、二人の大きな男に腕を掴まれ扉の外へと連れていかれる。


「放して! 何処どこにつれていくつもりなの?! ゆあちゃん! ゆあちゃん!」


 叫ぶけれど、結愛が見えないようにテトが立っている。

 私は反対側を見た。麻美と目が合う。けれど、麻美の名前が喉から出てこない。


「――っ!!」


 麻美は、何を思ったんだろうか。その顔に笑みを浮かべていた。

 引っ張る力は強く、私なんかじゃ全然抵抗出来なくて、空の見える場所に連れてこられた。

 おかしい。さっきまで夕方だった。なのに、空は明るくて、今が朝か、昼なのだと教えてくれる。

 どういうこと? ここは、どこなの?


 そのまま、石造りとでもいうのだろうか、先程までいた建物とは別の建物に連れてこられた。

 入り口には、男の人がいて、その人と連れてきた人達が話している。


「特別室だとよ。空いているか?」

「あぁ、隣は埋まってるがな。腕は?」

「自由でもいいだろう。何も力がない。ただの子だ。ただ、まだわからないから、扱いは丁重に」

「そうか」


 こうして、私は何もわからないまま、何処とも知れない場所に閉じ込められた。

 入り口の鍵がガシャンとしまる。こういうの映画で見たことある。これは、牢だ…………。

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