第28話
加賀美が何か話すたびに二宮さんは大きなリアクションをしていた。特に不平等なものではないようだ。
そして待つこと数分。二宮さんが加賀美の腕をがっしり抱きしめながら戻ってきた。
「お待たせしました」
「何をしてたんだ?」
「弟子にする代わりに、父の会社で働くという契約ですよ」
なるほど。加賀美の所は超有名なスポーツメーカーだしな。筋肉に対する造詣が深いこの人に最適な仕事だ。
「筋肉の楽園……」
横で二宮さんが凄い妄想にふけっていたが気にしないことにした。
「ほなウチはしないといけないことがあるから!」
さも当然かのように加賀美にハグしてから去っていった。
「凄い人だったね……」
一切ついていけなかった小野田さんがそう言った。
「まあ二宮だからな……」
「それで実際にどういう条件で契約を結んだの?」
純粋に気になったので聞いてみる。
「こんな感じですね」
「えげつないレベルの好待遇だなこれ」
世界一の企業が一個人に対して行うとは思えないレベルの破格の条件だった。
こういうのはビル・ナントカとかナントカ・ジョブズとかに対してするもんだろ……
「花さんの技術は一個人どころか一企業のレベルを超えていましたから。使い方はあんな感じですが、私が今までに見たことも無い新技術が数多く搭載されていましたし。正直この待遇でも足りない位です」
「愛の力って偉大なんだね」
「そうです。晴さん。あなたにはその二宮さんを超える待遇を与えますがどうでしょう?」
正面に座っていたはずの加賀美が突然俺の横に座り、耳元でそう聞いてきた。
「堂々とハニートラップをするんじゃない」
「本気でしたのに」
あほか。加賀美のいる会社で働きたいわけねえだろうが。
「黒須さんもどうですか?晴さんとは違ってアスリート枠ではあるのですが」
「俺は良いよ。スポーツとかで表に出る気はねえ」
「そうですか」
「私は私は?」
「もちろん環もいつでも歓迎してますよ」
「わーい!」
無邪気に笑う小野田さん。本当に仲いいな。
「あ、そうだ。今度うちの会社を見に来ませんか?」
「それは面白そうだね」
正直世界一がどんなものなのかは見てみたい。
「いいんじゃないか?」
「お二人とも興味があるということで。今度お誘いしますね」
次回の約束の話が付き、この集まりは解散となった。
一週間後、俺たちは約束通り加賀美家の会社へ向かうことになった。
「でっけえな……」
ビルとかそういう次元のものではなく、一つの町が形成されていた。
「もしかしてここ全てが会社の敷地内?」
「ええ」
都会から少し離れた場所であるため、若干土地代が安いのかもしれないが、そんなレベルで収まる話では無かった。
「じゃあこれは何なんだよ」
通常会社の敷地内であればビルや工場、社宅しかないはずで、あってもコンビニ位のはず。
しかし有名チェーンのデパートが平気で鎮座している。それどころか普通に商店街が存在しているのだ。
「当然うちの企業と契約している企業ですよ。社員の生活環境を整えることは企業としての務めですから」
流石世界一。ホワイトのスケールが違う。
「もしかして、学校とかあったりしねえよな?」
何かに気付いてしまった悠理が恐る恐る聞く。
「勿論ありますよ。社員のお子さんのみが通える学校です。一切宣伝も情報公開もしておりませんので知られていませんが、全国トップの学校にも引けを取らない教育システムを採用しております」
なんだそれ。この街から出ることなく一生を終える奴が冗談抜きで出てきそうじゃねえか。
「世に知られていない化け物がここに居るかもしれねえってことか」
「かもしれませんね」
と会話をする化け物二名。
「まあ、ここら辺に関しましては普通の街と変わりはありませんので、業務を行っている現場に向かいましょう」
「そうだな」
普通の街と変わらないこと自体がおかしいのだが、突っ込むことを諦めた。
「ここです」
目の前にあったのは最上階が見えないほど天高くそびえ立つ超巨大なビルだった。
「ここまで大きかったんだね」
遠めから見ていたのと、そもそも周りの建物で遮られていたこともあり、なかなか気付かなかったのだが、これは化け物だ。
「私たち自慢のオフィスですから。さあ入りましょう」
加賀美に案内されるがまま中に入った。
「はあ、これが加賀美はんの所の研究か……」
すると何故か二宮さんがいた。
「なんでここにいるんだ」
若干嫌な顔で受け答えする悠理。
「うちか?普通にそこの加賀美はんから誘われたからやで」
「加賀美。なんで誘ったんだよ」
「一応これから私どもの会社で働いていただくわけですから。いずれ紹介するのであれば今回纏めてしまおうと思いまして」
「花ちゃん!」
小野田さんが突然二宮さんに抱き着いた。加賀美が若干嫉妬している。
「相変わらず可愛いなあ」
「むふー!」
この二人ってこんなに仲良かったっけ?
「お前ら仲良かったのか……」
「環はんとは先週からの付き合いやで。あの後バドミントンの練習の手助けをしてくれないかって頼まれてな。こうなったっちゅうわけや」
「花ちゃんのお陰でさらに強くなれたの!次の大会は優勝間違いなしだよ!」
確かにあの技術力なら納得だ。
「そ、そうか……」
悠理は微妙な顔をしていた。それもそうだ。苦手な奴と好きな奴が仲良くなっている姿はあまり見たくないものな。
もし先にその話を聞いていたのであれば、黒須家直伝の筋肉強化プログラムを伝授していたことだろう。
「まあまあ。仲良くなることは良いことではないですか」
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