第17話
「文化祭何するか決めましょう」
今年も始まった。高校生最大のイベントと言っても過言ではない重大な催しだ。当然体育祭もそれの一つではあるのだが、文化祭は自由度の高さ、そして幅の広さという点において圧倒的なアドバンテージを誇っている。それに、
「今年は何になるかな。自由時間が長めの奴が良いんだが」
こいつ、黒須悠里の存在が本来の体育祭から遠ざけているのだ。こいつの超人的な筋力によって他のすべての競技が茶番になってしまうのだ。
純粋な身体能力で届きうるのは定期的に勝負を挑む鬼塚力豪くらいだからな。
「とりあえずアンケートを取ります」
ということで一旦紙に何をやりたいか書くことに
「候補として挙がっていたのが、劇、お化け屋敷、教室での食事の出店だね。ひとまずこれの中から決めていい?」
満場一致でこれらの中から決めることに。
「これらの中で具体的にはどんなのがやりたいって決まっている人いる?」
「僕はお洒落な喫茶店でびしっとカッコいい服がきた」
「私は男装喫茶で委員長に男装して欲しいかな」
等々様々な意見、というより様々な趣味を言い合っていた。
しかし、これというものは無く。そんな中、
「皆の意見聞いてて私もやりたいの一つ言いたくなっちゃった。私は白雪姫で晴君と千佳ちゃんに素晴らしいキスをして欲しいなあ」
その発言により視線が俺と加賀美千佳に移る。そして一瞬の静寂の中、
「それいいじゃねえか!美男美女は美しさを世に還元する義務がある!」
委員長の幼馴染であり非常に仲の良い成富良助が変なことを言いやがった。こいつはバカだが明るく誠実で正直者のため、なんだかんだでクラスでトップクラスに発言力の強い男だ。
そのため、この選択肢も良いなというレベルから、選択肢の中で一番最適じゃないかという空気になっていた。
その間委員長は凄い笑顔だった。絶対この人があらかじめ良助に仕込んでやがった。
普通に同意見だったのもあるのだろうが、委員長に忠実な部下みたいな存在だからな。
「委員長様に嵌められたな」
「うっせえわ」
悠理が煽ってくる。こいつは後でしめとくか。そして肝心の加賀美千佳は——
微笑みの表情でこちらを見ていた。あっちはこういうことは普通にやってのけるからなあ……
「というわけで!今回の出し物は白雪姫となりました!!!!」
そして休み時間。俺は悠理の首を締めあげながら委員長と談笑している加賀美千佳の元へ行った。
「痛い痛い痛い痛いやめろやめろ」
巨漢の筋肉が何か言ってるがスルー。
「本当にこれでよかったの?」
「いいじゃないですか。減るものじゃありませんし」
加賀美千佳は当然のように言う。こいつは自分に不利益が無い限りはあまり何かを拒むことはないのだ。
実際去年はミスコンに出て欲しいと頼み込まれて快諾し、無事優勝したという経歴を持つ。自分の見た目を世に出すことで皆が喜ぶのであればだとか。自分の魅力分かってますよ感が非常に腹立たしい。
「俺の精神がすり減るよ。ということで辞退しよう」
「まあまあ、彼女さんが出るって言ってるんだから。彼氏としては応援してあげようよ」
とか何とか中立っぽい立場でものを話している元凶の悪しき委員長。完全に加賀美千佳の性質を分かった上でこう発言している。
ちなみに去年ミスコンに出るように加賀美千佳に頼み込んだのもこの女だ。
「まあまあ、大事な彼女さんを世にお披露目する良いタイミングじゃねえか」
首を絞められていた悠理がちょっかいを出す。俺はこいつの事が嫌いだって知ってんだろうが。キスどころか公表するのもあまり乗り気じゃねえんだよ。
「お前面白そうだからって適当言ってんじゃねえよ!」
俺が文句を言うが悠理には一切響いていないご様子。そろそろ落としてやろうかお前。
「勿論悠理君にもいい役をプレゼントしてあげるから安心して!」
委員長はあくまで親切を装って言った。当然悠理の表情は曇る。
「白雪姫に男は一人くらいしか出れねえだろうが」
「大丈夫!ストーリーを少し書き換えるから!」
「小人ですらねえのかよ!」
「だって悠理くん色々でかいじゃん。二人よりでかい人を小人には出来ないよ」
そんな言い争いを二人がしている中、チャイムが鳴り、一旦休戦となった。
ちなみに悠理は俺の後ろですごくうなだれていた。こいつこの見た目で本当に目立つのは嫌いだからな。
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