第9話

「もちろん」


 連れられたのは山の中。


 道なき道を進み、辿り着いたのは崖だった。


「ここです。綺麗でしょう?」


 崖からの景色は開けており、そこから見えたのは海。


 地平線の先へと太陽が沈んでいく最中だった。。


 よくある素晴らしい景色という感じではあるが、別に特別な物かと言えばそうではないような。


「いい景色だね」


「そうですね。ですが見せたい景色は今からです」


 時計をチラチラ確認しながらそう答えた。


 今から?


 そう疑問に思いながら待っていると、


 海辺辺りが光り始めた。


 なるほど。そういうことか。


 ほぼ沈みかけている太陽と共に映る人口の光。海の家周辺が光っていた。


 それにより海が2種類の光に照らされ、紅くそして白く輝いていた。




 地平線は距離だけでなく見る人間の高度でも変わってくる。


 つまり、下ではもう太陽は沈んでいるように見えていても高いところであればまだ見れるという状況が発生する。


 海の背後にそこそこ高い山があり、夜も少しの間営業している場所でしか見ることのない景色だ。


 それによって見られるのがほんの数秒程度のこの景色。


 もし海辺の店が灯りをつけるのが遅ければ見ることのできないもの。


 もしかしたら見れないかもしれないという可能性を承知した上で連れてきたのだ。


 現実主義なイメージだったのだが少し意外だな。


「ここはどうやって見つけたの?」


「見つけたんじゃないんですよ。これは叔父様から教えてもらったんです」


 確か地学系統の学者なんだっけか。洒落た知識の使い方をするもんだ。


「なるほどね。そういう意味でも特別な景色なんだ。教えてくれて嬉しいよ」


 なんで俺はこいつを嫌いなんだろうな。嫌いになる要素なんて無いはずなのに。


 理性ではむしろこれ以上にないくらい良い女性だとわかっているのにな。


 そもそも感情に理屈なんてないか。


 俺たちはそのまま悠理たちと合流しそれぞれの家へと帰宅した。


 泊まってもいいが学校があるもんな。


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