第6話

「海に行きたいです!!!!!!」


 そう言ったのは小野田さん。


「いいですね。行きましょう」


 そう答えるのは加賀美千佳。


 最近分かったのだが、加賀美千佳は小野田さんに対しては全肯定botだ。小野田さんを溺愛しており、可愛い妹のように扱っている。

 つまり何が言いたいかと言うと、俺たち4人の中では小野田さんの意見はほぼ確定で通る。

 海に行くことが確定した瞬間である。


「楽しそうだね。どこに行く予定なの?」


「まだ決めてないよ」


「なら私の家のプライベートビーチなんてどうでしょう?」


 いや、それは不味い。前回はただスポーツをするだけだから問題は無かったがプライベートビーチとなると話が違う。


 家族公認の関係になってしまう。好きだから付き合っているわけでもないのにそんなところに行ってはいけない。



「それもいいとは思うけど、隣町にあるビーチとかどう?海の家が有名なんだよね」


 知り合いに会う可能性もあるがそれは避けたい。


「海の家も醍醐味の一つだしそっちのがいいんじゃないか?」


 助け船助かる悠理!


「千佳ちゃんのビーチそこの隣だからすぐに行けるよ!あそこ良いところだよね」


 な、なんだと……


「私のビーチならば他の人もいませんのでバーベキューも出来ますしね」


「ならそっちの方がいいな」


 お前……


「じゃあ土曜日ね!」


 俺の奮闘も空しく加賀美千佳のプライベートビーチに行くことになった。


「ご愁傷様。観念することだな」


 悠理は肩をポンと叩きながらそう言った。






「海だあああああ!」


 小野田さんは思いっきり叫んだ。


「テンションたけえなあ」


「だって海だよ!夏だよ!」


 加賀美千佳のプライベートビーチなら何度も行っているだろうに。


「環はお二人と来れて楽しいのですよ。私以外の同世代の方と海に来ることは今までありませんでしたし」


 普通に人誘っているイメージだったが意外だな。


「とにかく遊びましょ!」


 小野田さんは海に飛び込んでいった。


「晴さん」


「何かあった?」


 何の用だよ。


「水着、どうでしょうか?」


 正直嫌いな奴の水着を見たとて別にいい感情なんて生まれようもないんだが。


「似合っているよ。赤って派手な色を使っているけれど黒髪にとても似合ってる」


 そうはいってもかなりの美人ではあるからな。正直癪ではあるが水着に関しては見事というしかないな。


 ルックスが良いってのは無条件で評価を上げるものだ。こいつもそれのお陰で体操人から好かれているんだろうな!


「ありがとうございます。晴さんもかっこいいですよ」


 頬を染めつつこいつは言った。何照れてやがるんだ気色悪い。こういう時こそさらっと受け流せよ。


 それにズボンしか履いてない状態の男に言うもんじゃねえよ。デートの時には一切言わなかった癖によ。もう少しおしゃれしてるときとかに言いやがれ。


「とりあえず二人の所へ行こう」


 二人きりを避けたい俺はこう言って逃げた。


 ちなみに小野田さんは白を基調とした水着で、元気な小野田さんにとても似合っていた。

 非常にかわいいと思う。一応彼女がいるので本人には言えないが。


「サーフィンをやろう!」


「俺たちやったことねえが大丈夫なのか?」


「大丈夫!私たちが教えてあげるから」


「二人とも運動神経がすごくいいのですぐに出来ますよ」


 言われるがまま教わることに。


 当然俺の担当は加賀美千佳なわけで。


「早く立ち上がりたいとは思いますが、サーフボードがちゃんと滑り出してから出ないといけません」


 嫌がる俺を横目に、たいそう丁寧に教えてくださった。


 お陰様でサーフボードは二人とも1時間足らずで出来るようになった。


「波に乗るって思ったよりも楽しいもんだな」


 思っているよりもやるべきことが多く難しい。非常に奥の深い遊びだった。


 ひとしきり遊んだ後、昼になったので昼食の準備をすることにした。


「バーベキューの後にスイカ割りしたいからスイカも買いに行こう」


 俺たちはスイカを求めて近くのビーチにある海の家に行った。


 こっちのビーチは大盛況だった。人だらけで砂浜で遊ぶのは難しいだろう。


 俺の案の通りこっちに行くことになっていたらここまで楽しい時間は過ごせなかっただろう。


 まあ楽しくある必要は別にないのだが。加賀美千佳との思い出なんて特に要らないしな。


 それでも悠理や小野田さんには悪いからこっちの方が良かった。


 人が多かったので少々遊んだ後、俺らは戻ることにした。


 その最中、


「誰かと思えば晴じゃん。久しぶり!悠里も」


 友人に出会った。


「久しぶりだな七森」


「この二人ってお前らの連れ?」


「そうだな」


「二人とも相変わらずモテてんなあ」


 長話になりそうだな。それに二人に聞かれたら不味い話でもされたら困るし。


「二人とも先に戻っておいてくれないか?」


「分かりました。先に行っておきますね」


「じゃあね二人とも!こいつらをよろしく」


 二人は七森に軽く会釈をして、スイカを持って先に帰っていった。


「さっきの話の続きなんだけどさ、もしかして二人の彼女だったり?」


「俺は違うな。晴は黒髪ロングの方と付き合っているけどな」


「流石晴だな。芸能人クラスの美人捕まえるって」


「今までの彼女ちゃんと覚えてるか?割と地雷みたいな子も結構いたぞ?」


「色々あったけど結局美人多かったじゃん」


 ああ俺の忘れていた過去が……


「確かに多かったな。裏では美女ハンターだなんて呼ばれてたりもしてたぜ」


 悠理までそっち側に回りやがった。楽しんでやがるぞこいつ。ってか美女ハンターってなんだよ。というか捕まえてねえよ。あっちから来たんだよ。


「そんなことは良いんだよ。あいつら元気にしてるか?」


「晴が来なくなってから少し寂しいみたいな話もあるけど元気は元気だよ」


「なら良かった。あいつらによろしく伝えてくれ」


「いや来てよそこは。久々に晴と悠理と遊びてえんだよ」


 今はなあ…… まあ別に問題は無いか。


「しょうがないなあ。遊びに行くよ。悠理はどうだ?」


「俺なら問題ないぞ。晴が行く日に合わせるぞ」


「じゃあ次の金曜にあそこでいいよな?」


「相変わらずお前ら仲いいよなあ。その日は相変わらずいつも通りそこにいるよ」


「オッケー。じゃあその日に」


「じゃあな!」


 七森は友人達の元へ走って行った。高校でもうまくやれているようだ。

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