第16話 依頼主

「ここか……」


ギルドの受付嬢に場所を聞いた俺は、依頼主であるマリーという金級冒険者に会う為早速指定の場所へと向かう。

そこは町はずれにある少し小さめの屋敷だった。


「流石に金級は金を持ってるな」


金級クラスになると、その依頼額の桁が変わって来る。

領都とは言え、辺境に位置するカナン領で屋敷を買う位はお手の物だろう。


俺は門に備え付けられている呼び鈴を鳴らす。

警備はいないが、しっかり魔法の結界は張られてある。

下手に忍びこもうとすれば、結界による攻撃が飛んで来る事だろう。


「どちら様ですか?」


程なくして屋敷から出て来たのは、背の低めの女性だった。

分厚い眼鏡に、厚手の茶色のローブを身に纏っている。

見るからに魔法使い然とした出で立ちだ。


「俺はシビックと言います。掲示板の依頼を見てやってきました」


「ほ、本当ですか!?どうぞ入ってください!」


用件を告げると、女性は嬉しそうに門を開ける。

因みに、彼女は依頼主ではない。

何故なら、受付嬢から聞いたマリーという女性は人間ではなくエルフだからだ。


通常、エルフは人間の生活圏では滅多にお目にかかる事は無い。

亜人であり、見目麗しいエルフなんかは人攫いの格好のターゲットになるためだ。


とは言え、相手が金級の腕の持ち主なら話は変わって来る。

自分の身を守る力は、十分に持ち合わせている訳だからな。


「私、ピティンって言います!さ、どうぞ」


ピティンに案内され、一旦屋敷の中を通って俺は裏庭へと連れていかれる。

そこでは、数名の人物が訓練に励んでいる姿が見えた。


その中に金髪のエルフが混ざっている。

多分彼女が依頼主のマリーだろう。


「マリーちゃん!この人が依頼を受けてくれるんだって!」


ピティンがマリーの元に駆けていく。

俺はその後をゆっくり歩いた。

別に走る理由はないからな。


「初めまして、シビックと言います」


「マリーです。依頼を受けて下さるそうで、本当にありがとうございます」


握手を求められ、俺はそれを握る。

追加人員が来た事が余程嬉しいのか、彼女は満面の笑顔だ。


まあ受付の女性が人集めに難航してるって言ってたからな。


「俺はガドンだ。マリーと同行予定のパーティー、ウルフのリーダを務めている」


ガンドと名乗った男の身長は2メートル近い。

更に筋肉質なその体と、その隙の無い立ち居振る舞いから、かなりの使い手だという事が分かる。


「それと、こいつが俺の女房のマゼンダ。んで、右からピティン、ロック、ダン。全員俺達の子供だ」


マゼンダさんもピティンと同じ魔法使いなのだろう。

その手には杖が握られていた。


ロックは一見優男の様に見えるが、体はかなり鍛えた上で絞られているのが分かる。

スピード重視、もしくはスカウト系だな。

そしてダンはガドンさんと同じ様な体つきをしているので、パワーファイターだと推測できた。


「家族でパーティーを組まれているんですね」


「俺としては冒険者なんて浮き草みたいな仕事より、真っ当な人生を歩んでほしかったんだがな。子は親に似るとはよく言った物だ。はっはっは」


ガドンさんが愉快だと言わんばかりに、豪快に笑い。

俺と兄の関係が良くなかっただけに、家族仲がいいのは、正直羨ましく感じる。


「ま、立って仕事の話もなんだ。中で茶でも飲みながら話そう。マリー、いいか?」


「あ、はい。そうですね。シビックさん、どうぞこちらに」


再び屋敷に戻り、俺は客間へと案内される。

そこで紅茶を頂きながら、仕事の詳しい話を伺った。


マリーの目的はヴァンパイアを討伐し、呪いの契約で縛られている姉を救う事だ。


そのため真祖やその配下の討伐だけだはなく、支配され襲って来る金級冒険者であるローズさんを殺さず押さえ込むという、かなり難易度の高い仕事まで加わる事になる。


正直、仮に募集通りの人数が集まったとしても、それはかなり厳しい仕事になるだろう事が予想された。

未だ人手が全く集まっていないのも、まあそのせいだろ。


「人集めに少し時間がかかるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。私は……私は……どうしても姉を助けたいんです!」


金級であるマリーが、躊躇う事無く格下の銀級である俺に頭を下げた。

それだけ必死と言う事だ。


「私からもお願いします!マリーちゃんに力を貸してあげてください!」


ピティンもそう言って頭を下げる。

ちゃん付けしているぐらいだ、きっと二人は仲がいいのだろう。


「実は、俺にはあまり時間がありません」


「そう……なんですか」


マリーとピティンの顔が、明らかにがっかりした物になる。

人手集めが難航しているのだから、遠回しに断りを入れられたと思ったのだろう。


「断る訳じゃありません。ただ――」


「ただ?」


「出来ればこの依頼。俺一人でやらせて頂けませんか?」


闇の牙との一件もある。

だから俺は、能力を出来るだけ人に見せない方向で行こうと思っていた。


そのため、ヴァンパイア討伐は俺一人で向かうのが理想的だ。


「……へ?」


その場にいた全員が、意味不明だと言わんばかりにポカーンとした顔になる。


「もう一度言います。ヴァンパイア討伐は俺一人で行かせてください」


なので俺はもう一度、はっきりとそう伝えた。

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