スキル【ズル】は貴族に相応しくないと家を追い出されました~もう貴族じゃないので自重しません。使い放題だ!~
まんじ
第1話 貴族に相応しくない
ユニークスキル。
それは生まれ持った才能である。
その効果は強力な物が多く。
大抵の場合、それを持って生まれた人間は周囲から重宝される事になる。
のだが――
「シビック、お前は貴族に相応しくない。この家から出て行け」
俺の名はシビック・ジョビジョバ。
ジョビジョバ侯爵家の三男であり、稀有なユニークスキルを持って生れて来ていた。
本来なら、そのスキルを活かして家に貢献する事を求められる立場なのだが……
俺は当主である兄――グンランから放逐を言い渡されてしまう。
「兄さん……俺は家に恥じる様な生き方はしていない。どうか考え直してくれないか?」
無駄だとは思うが、一応頼んでみる。
俺が兄に嫌われ、追い出される理由は自分でもよく理解していた。
こんな
「黙れ!卑劣なスキルを持ったお前の存在そのものが、この家の恥だ!」
俺の生まれ持ったユニークスキル。
それは――【ズル】だ。
効果は読んで字の如く、スキルでズルをするという物だった。
自分で言うのもなんだが、これはかなり強力なスキルに分類される。
俺が貴族でなければ、これを持って生まれて来た事をきっと大喜びしていた事だろう。
だが、俺はジョビジョバ侯爵家の人間だ。
誇り高い名門貴族の人間が、【ズル】なんてスキルを生まれ持った事は恥以外の何物でもなかった。
だから俺は生まれてからの18年間、興味本位で幼い頃に何度か使った事を除けば、それ以降はこのスキルを使ってこなかった。
貴族として相応しくない力だと、自分でも理解できていたから。
「親父達は見逃していたが!俺はそうはいかん!」
両親は少し前に、危険な流行り病で二人揃って他界してしまっている。
その後を継いだのが、長兄のグンランだ。
貴族としてのプライドが高かったグンランは、昔っから俺の事を嫌っていた。
もちろん理由は俺の持つユニークスキルである。
潔癖な兄は許せなかったのだろう。
貴族として相応しくないスキルを持つ俺が。
「一週間以内にこの家から出て行け!以降、ジョビジョバの名を名乗る事は許さん!」
「グンラン兄さん……」
「話は以上だ!こいつをここからつまみ出せ!」
取り付く島もなとはこの事だ。
俺は兄の護衛騎士達に執務室から追い出されてしまう。
「くそっ……」
ただ生まれ持ったスキルが卑劣な物だというだけで、家から追い出される。
そうならない様、ずっと使わずに暮らして来たのにだ。
――兄の下した理不尽に、俺は腸が煮えくり返る思いだった。
って、程でもないか。
まあいずれこうなる事は分かっていたからな。
勿論多少のショックを受けはしたが、いつこうなっても良い様に、俺は独立の準備をこれまで着々と進めて来ていた。
両親も先の事が分かっていたため、生前俺に多くの贈与をしてくれていた。
それは外で一人で生きていくのに、十分すぎる資産となっている。
「まあユニークスキルもあるし、生きて行く分には困る事はないだろう」
【ズル】は恐らく、ユニークスキルの中でもトップクラスに分類される物だ。
その強烈さは幼い頃に使って体感している。
貴族らしくある為にこれまでは自発的に封印してきたが、家を追い出される以上、もうそれを気にする必要もない。
――これからは使い放題だ。
「シビック」
俺の部屋に戻ると、扉の前に大男――兄が立っていた。
次男であるアグライ兄さんだ。
「グンラン兄さんを説得しようとしたんだが……」
「しょうがないさ。俺は家の恥だからね」
「そんな事はない!お前は……くっ、力になってやれず……すまん」
アグライ兄さんは、悔しそうに歯を食い縛って俺に頭を下げた。
兄さんが謝る様な事ではないというのに……
「アグライ兄さん、頭を上げてくれ。俺なら大丈夫だ。何せ強力なユニークスキルがあるからね。一人でも生きていけるさ」
俺は努めて軽い口調で話す。
大した事はない。
だから兄さんも気にしないでくれという思いを込めて。
「シビック……俺は不器用な人間だ。だからお前には、これまでたいした事をしてやれなかった。だがこれだけは約束する。お前が俺を必要とする時、俺は必ずお前の元へ駆け付けると」
そう言うと、アグライ兄さんは俺に小さなブレスレットを手渡して来る。
それは兄の付けているの物と、お揃いのデザインだった。
「今渡した物と、俺のブレスレットは繋がっている。どうしても俺の力が必要な時は、それに念じろ。その時は何を置いても、俺はお前の元へと駆け付けてやる」
「はは。困った時に王国一の剣士が駆け付けてくれるのなら、凄く心強いよ」
アグライ兄さんは、王国随一の剣士と言われている。
実際、その強さは人外レベルだ。
俺も武門であるジョビジョバ家の人間として修練に励んで来たので、剣の腕には自信がある方だった。
だがそれでも兄と立ち合えば、おそらく一分と持たないだろう。
「ありがとう、兄さん。必要になったら喜んで使わせて貰うよ」
「シビック……」
部屋に戻った俺は、早速出ていく準備を整える。
翌日、日が昇り始める頃に屋敷を出て行くつもりだ。
一週間の期間を貰ってはいたが、ギリギリまで残っても気まずいだけだけだからな。
翌日。
静謐な朝靄漂う中、俺は一人屋敷の正門へと向かう。
「シビック様……どうかお元気で」
「いままでありがとう。これからも家の事をよろしく頼むよ」
門番達が俺に敬礼して来る。
俺は家の事を彼らに頼み、屋敷を後にした。
少し進んで――
ふと、振り返る。
自分が生まれ育った場所。
いつかここを離れる事になるのは、以前から分かっていた事だ。
だけど、まさかこんなに早くその日がやって来るとは……
「ぐっ……う……」
色々な思い出が脳裏を過り、涙で視界が歪む。
こうなるだろう事は、ずっと前から分かってはいた。
覚悟もしていた。
それなのに……悲しくて仕方が無い。
「泣いていても仕方がないよな。これから俺は、一人で生きていかなきゃならないんだ」
俺は服の袖で涙を拭い。
屋敷に背を向けて歩き出す。
――さあ、新たな人生の始まりだ。
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