七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?
はまだ語録
第1話 プロローグ【七十三年前・世界救済前夜】
それは七人しか知らない話。
七人が世界を救った後、他の誰にも言わなかった話。
楽しかった最後の夜。
「なぁ、帰ったらみんなは何がしたい?」
そう口火を切ったのは『
「
『
「『士』が剣を振るわなくて、何をするのよ。いや、したいのよ?」
「そりゃ豪遊だ。俺は二度と働かないし遊んで暮らすんだ」
「それでほんとうに満足なの?」
「そりゃそうだろう」
「本当に?」
怪訝そうな『案山子』。
言葉に詰まる『士』。
「僕は修行を続けるよ」
そう言ったのは『
『士』は揶揄する。
「おお、荷物番のくせに真面目だな」
「真面目というか、そうだね。ただ続けたいから」
「どうしてだよ。もう戦わなくて良いのになんで鍛えるんだよ」
「強くなりたいからね。誰よりも、どこまでも」
「目的も不要なのかよ……」
素直に答える『武道家』にますます『士』は閉口する。
化物だな……、とその顔が物語っている。
その顔をみて噴き出したのは『大魔法つかい』だった。
「『士』かっこわるい」
「うるさいぞ、そこ」
「でも、やすみたい気持ちは分かるよ」
「『大魔法つかい』はなにがしたいんだよ?」
「あたしは、ん-、分かんないけど、とりあえず、シャワー浴びて、それから家に帰ってお墓参りしたい」
『大魔法つかい』のその言葉に、七人の中心にある焚火も止まったようだった。
しんみりした空気の中、『
「それは、分かります。私も魔王を倒したんだって報告します」
「みんな、自分の国に帰るの?」
『案山子』はそうみんなの顔を見ながら言った。
一同はパラパラとタイミングがズレながらも頷く。
「そうなんだ……」
「『案山子』は帰りたくないのか?」
「うん。帰っても、どうせ良いことないし」
「そんなことないだろう」
「ううん。あたしはどうせ殺しの仕事ばかりだもん」
「怖いな。俺は殺さないでくれよ」
『
「どうしてそういうこと言うのよ」
「わるいわるい、冗談だ」
「だって、明日生きているかどうかも分からないのに殺すわけないでしょ」
その場に沈黙が舞い降りた。
明日は死地。
世界最悪の『魔王』と戦うのだ。
生きて帰れる保証はどこにもなかった。
「『案山子』……」
「なぁに?」
「こんな空気にしたかったのか?」
「うん」
無邪気な幼女のように頷く『案山子』に、ようやく笑いが起きる。
その時だった。
「×××××××××」
おおーっと一同が沸く。
「いや、さっきから美味しそうだったからね。待ちきれなかったよ」
『武道家』が嬉しそうに皿を用意する。
「『××』はほんとうに料理上手ね」
『案山子』が拍手をして『××』を讃えた。
「正直、この旅のいちばんの功労者は『××』かもな」
『士』も手放しで褒めた。
「あ、『××』あたし大盛りで!」
『大魔法つかい』は待ちきれないという様子だ。
「あ、『××』うちの竜にもお願いできるか?」
『竜騎士』の言葉に『××』は頷いた。
「×××××××××××××××××××××××××××」
一同が笑った後、『予言者』は薄く笑った。
「『××』いつもありがとうございます」
それは誰も知らない夜。
楽しかった最後の夜。
翌日、七人の勇者は『魔王』の討伐に成功する。
勇者は英雄となった。
ただ、歴史に名前を刻まれた英雄は『士』『武道家』『案山子』『大魔法つかい』『竜騎士』『予言者』の六人だった。
七人目の名前はない。
なぜならば、七人目は六人が殺したからだ。
『××』は『魔王』を討伐した、その同じ日に六人に殺された。
六人の英雄はそれ以降、七人目の名前も存在も誰一人口外することがなかった。
だから、七人目の勇者はその存在を葬り去られ、忘れ去られた。
――七十三年前の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます