第4話

「モリー、今回の仕事は割が良いな。なんせ、騎士隊が同行してる上に、魔法士も多いんだからな。いつもこんな仕事なら楽なのによ。」


「そうだね、ベル。それにしても、突如現れたっていう建築物ってやっぱり魔族の魔法なのかなぁ?そんな魔法聞いたことないけど…」



私はベルに訊ねるが、もちろんベルにわかる訳ないのはわかっている。単なる独り言のようなものだ。

私たちは今、突如現れたという謎の建築物へと調査&危険とわかれば排除する為に向かっている。




約6時間前にその建築物は突然現れた。はじめに発見したのはたまたま狩りに出ていた冒険者だ。

その冒険者は突然目の前に現れた建築物に驚き一目散に逃げ帰り、騎士隊に報告した。

そこからの動きは早かった。

騎士隊は部隊を編成、冒険者にも依頼を出した。突然の依頼で驚いたが、報酬が良かったので冒険者のほとんどが受けた。そして、揃ったのが2時間前。

すぐに出立して今に至る。



なぜこんなに迅速なのかというと、ここ『ノーザイア帝国ウェル領』はヒト種『ノーザイア帝国』と魔族『アーガイア国』の国境付近だからだ。


ウェル領は1年前まではアーガイア国の領土だった。それをノーザイア帝国の精鋭達が奮闘し、魔族を退けウェル領とした。

だから、いつ魔族の侵攻が来るかわからない。その為、常に警戒している。



「そろそろ到着する。気を引き締めろ!」


馬上から騎士隊長の檄が飛ぶ。



この騎士隊長も先の戦いに参戦した精鋭だ。魔族は魔法に長けたものが多い。だけど、これだけの戦力があれば、まず大丈夫だろう。



「モリー、そろそろ着くぞ。いつでも魔法撃てるようにしとけ。」


「わかってるよ。ベルこそ、前衛しっかり頼むよ!」


「あいよ。っても敵がいるかも確認してねぇんだよな。それぐらい確認してから逃げ帰れよな。」



話してる間に真っ暗な壁に到着した。大きい。そして、威圧感が凄い。



「おいおい、こりゃすげーな。何で出来てるんだ?これ。モリーわかるか?」



わからない…石では絶対にないことだけはわかるけど。私は首を横に振った。色んな本を読んだけど、こんなのは見たことがない。



「各自、戦闘態勢を保て!予定通り、調査隊が壁をつたってまわる。それまでは待機…」


騎士隊長が言いかけた時、壁の上から何かが降ってきた。合計10体。



「なんだよ、アレ。やべーんじゃねぇのか。」



冒険者からそんな声が聞こえる。

上半身は裸で筋骨隆々。目は見開かれているが、全て真っ黒。口には格子の金属が嵌められていて、片方の手には武器らしき物が見えるが、剣でも杖でもない。



「臆するな!隊列を組め!敵は少数だ。前衛!前へ。弓兵構え!魔法士は俺の合図で魔法を放て!」


命令を合図に隊列が整ってゆく。さすがは騎士隊長だ。あの戦いをくぐり抜けただけはある。

私も魔法を発動すべく杖を構える。


「前衛!かかれー!!」


騎士隊と冒険者の前衛が謎の敵へと迫る。たった10体だ。すぐに終わるだろうと思った。



「ギャアアアアッ!!俺の、は、腹が…」

「ウワァァァッ!!」

「やめてくれぇぇぇ!!!」



何が起こっているのか後ろからではわからない。続いて、


「ウワァァ!!こっちにも降ってきたぞ!や、やめっ!!」


見ると、構えていた弓兵の中にも同じ敵が上から降ってきていた。弓兵は混乱し逃げ惑うが、逃げた先にも同じ敵が降ってくる。


(クソッ!ヤバい。騎士隊長の指示はまだか!?)



騎士隊長の方を見ると、騎士隊長の首から上が無かった。騎士隊長の首から上はあの敵の手に握られていた。



(退却しないと!!!)と、思った時にはもう遅かった。

魔法士部隊のところにも同じ敵が降ってきた。20体。いや、何体降ってくるんだ!



もはや、300人からなる調査隊はほぼ壊滅した。しかも、前衛部隊の方を見ると10体の敵がそのまま残っている。


(1体すら倒せて無い!?なんなんだ、こいつら!!終わった…私はここで死ぬ…)





画面ごしに戦闘を見ていた俺はあまりの戦いに言葉を失った。

脆い、脆すぎる。死人部隊など、はっきり言って捨て駒だ。相手の力量だけはかれれば役目は終わり。そう思っていた。しかし、結果は死人部隊は1体すら死んでいない。いや、まぁ死人だから死んではいるんだけど…。



俺はハッ!とした。このままでは全滅させてしまう!俺はマイクに向かって叫ぶ。



「シルバー!今から指示する者は殺さないように死人部隊に指令を出せ!」



選んでいる余裕は無い。画面で生きている者10人を適当に選ぶ。



そうして戦闘はあっけなく終わった。

俺が指示した10人はなんとか捕らえたようだ。後ろに手錠をし、猿ぐつわを噛ませて連行されている。



「ふぅ……」

俺は別の意味で安堵の息をついた。

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