ジャック ロンドン『火を熾す』

ジャック ロンドンの『火を熾す』は初版1908念という今から100念前以上の短編なのだが色褪せない名著である。古典にはその時代の習わしやそこに生きていた人達の柵(しがらみ)があって、アル種の新鮮味を感じずにはいられない。『火を熾す』はロンドンの短編集などで目にする機会も多いし、柴田 元幸氏が編んだ短編集でもよくめにすると思うので見つけられたら是非一読してもらいたいおもろ本である。文学でありながらホラーのような佇まいも見せているというのがあたくし的解釈である。自然の驚異に翻弄され凍死していく男の恐怖が戦慄に描き出されている。徐々に迫り来る死の恐怖を見事に描写し背筋が凍るとはこうゆう事かと実感させられた本である。冬に読む際にはこたつの中で読んで欲しい。ロンドンは貧しい生い立ちから10代半ばを過ぎた頃には就業し様々な職を経た。全米を放浪し40年という短い生涯ながらもその経験と自身に課していたノルマも手伝い数多くの著書を残している。ストーリーはこんな感じだ。アラスカとカナダ北部を流れるユーコン川。材木関係の仕事でこの地に新参者としてやって来た男。雪解けを見越しユーコン川の流木を調査する為に一人で零下75度を記録するこの極寒の地で仲間が野営している地点を目指してエスキモー犬1頭を連れて時速6kmで歩いて行く。昼飯に焼いた厚切りベーコンをパンに挟みハンカチで包んで凍らないように胸に忍ばせる。ちょっと美味しそうに思ってしまったのはあたくしだけだろうか?吐く息も霜となり髭を凍らせているのに噛み煙草を噛み吐く唾が琥珀色の氷柱となって髭に垂れ下がっている描写が零下75度のリアリティを物語っている。男は零下50度は2回ほど経験済みだったが古参のじいさんからは零下50度を超えたら一人では出歩くなと忠告を受けていた。昼飯の時の暖を取る時には火を熾すのに難なく成功した。パイプなんか燻らせちゃってて超余裕ぶっこいちゃっている。暖も取り、また歩を進めるが薄氷を踏み外し片足が膝まで水に浸かる。零下75度で濡れる事は即座に生命の危険に関わる。即、火を熾すが種火が大きくなり始めたところでアクシデント発生。極寒で手の指の感覚がなくなり男に待ち受けている運命は死のみであった…自然の描写、人間が自然の驚異に晒され死と直面する最期の時に人間は己の無力さを痛感する。人間の持ち合わせている本能と動物が持ち合わせている野生の本能との対比などを描く事によって男が凍死するという一見して単調なストーリーに起伏をつけ引き込ませてしまうロンドンの筆力に圧巻の一言。男は自然の驚異に対しての想像力の欠如と認識の甘さ。そして己への過信。この人物設定は反面教師としても見て取れる。自然と言う絶対的な存在に対して人間は共存を願っているのに抗えない現実。図書館に借りに行く際は防寒対策をしっかりされて行く事をお勧めする。夏は暑いので全裸でもOKなのではないかと思ってしまう。用心の為に薄手のコートを羽織るか否かを決めるのは貴方次第!

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