インターミッション 第9話 - サウスポー
「でも、全員がレギュラーってわけにもいかないでしょう?」小林
「それはそうよ。レギュラーは勝ち取ってこそレギュラーだもの」由起子
「じゃあ、オレはイチローのポジションを奪えばいいんだな」山本
「イチロー“先輩”でしょ」由起子
「へ。あ、そうそう」山本
「ボクのこともチビって呼ばないでよ」亮
「ま、いいじゃないの。大木先輩。そのあたりはおいおいと」山本
わいわい言っていると、しのぶは少し不安に思えた。せっかく仙貴と同じクラブになったのに、また別々なのかと。
「仙貴くんはどうする?」由起子
「オレはいいよ」仙貴
しのぶは思わず、仙貴の顔を仰ぎ見た。
「オレはもともと助っ人だったし、一年遅れているから公式戦には出れないし、野球部には行かないよ」仙貴
そうだった。仙貴は放浪している間学校に行ってなかったから1年遅れているんだ。じゃあ、まだ一緒にいれる。
そんなことを思いながら、しのぶはほっとしていた。
「いいな、それ」山本
「なんで?」亮
「だって女の子と一緒にいれるんだろ。俺もその方がいいよな」山本
「あら、山本君、誰かお目当ての女子がいるのかな?」由起子
「へ…。いないって、そんなの」山本
慌てて手を振って否定する山本に対して冷やかしの声が飛んだ。山本は必死で否定したが、かえってそれが怪しまれることとなった。
「じゃあ、いいわね」由起子
まぁいいんじゃないの。という声がぽつぽつと出てきていた。
由起子が立ち去ろうとすると、大木が近寄ってきた。
「あの、先生」亮
「なに?」由起子
「ボクも愛球会に残ってもいいですか?」亮
「どうして?」由起子
「ボクの体力だと、野球部にはついていけそうもないし……」亮
そんな風に話しているとサンディが近づいてきた。
「リョウ、残るんですか?」サンディ
不安げなサンディの様子を見て亮は、思わずうんと頷いてしまった。するとサンディは嬉しそうに亮に抱きついた。
「やめてよ、サンディ」亮
「ヤメマセン、リョウ、一緒にガンバリマショウ」サンディ
「待って」由起子先生はそう言うと「亮君、監督はあなたも評価してるのよ」
え!
亮とサンディは思わず声を合わせてそう言ってしまった。
「亮君、あなたの努力する姿は後輩への手本になる、って。それからサウスポーキラーと言えるバッティングは代打でも使えそうだって」由起子
「そんな……」亮はそんなに自分を見ていてくれたことに感激していた。
サンディは少し寂しそうな顔をして見ていたが、亮の表情が変わったのを見て取ると、
「仕方ないですネ」と言うと、亮に向かって
「次からは敵デスネ」と言った。
亮はその言葉に呼応するように、頷くと、
「サンディ、頑張ろう!」と応えた。
にぎやかになっている中。朝夢見が戻ってきた。
しのぶがそれを見つけて、説明をすると、朝夢見は、いいんじゃない、と応えた。
しのぶは、朝夢見があっさりと受け入れたことに違和感を覚えたが、でも野球部との試合の時に力強くやろうと言った朝夢見を思い出すと、やる気なんだと自分にも気合が入ってきた。
朝夢見の頬を見ると少し赤く腫れていた。由起子先生にぶたれたところだ。少しユニフォームが濡れているように感じた。たぶん、水道で冷やしていたんだろう。
でも朝夢見が何も言わないなら何も訊くまい、そう思い知らんふりをした。
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