第2話


                  2


「わ! ちょっと遅れたか~、急(いそ)ご お兄ちゃん」



 翌日の土曜日、朝7時の開店と共に、人がたくさん入って行くバーガーショップ。匠斗と舞も遅れないように、何とか席を確保した。


「じゃ、ココで待ってろよ舞、今注文してくるからな」

「うん、ありがとう」


 なんとか席を確保して、匠斗が注文しに行ったが、注文カウンターも、結構人が居る、席が取ってあるので、安心だ。

 予定のセットを二つ頼んで、番号プレートを持って戻って来て、テーブル席から見えやすいように置く。


「凄いなこんな早朝から。 やっぱ、みんな殆ど同じセットを頼んでいたな、結構人気あるんだな、あのセットメニュー」

「だね。あと 空いているテーブル席が二つしか無いよ、良かったね早めに来て」

「ホントだな。早めに来て良かったな」

「うん」


 そう言っているうちに、店員スタッフがセットを持ってきてくれた。

「ごゆっくりどうぞ」

 と言って、戻って行く、客が増えてきて忙しそうだ。


「しっかし、こんな早朝から普通混まないだろ?.....って、俺たちもその一組なんだな」

「でも早めに来てよかったね、ほら、もう席無いじゃん」


 周りを見ると、先ほどまで空いていたテーブル席が塞がった、満員だ。 座れない人達は、テイクアウトかドライブスルーに変えていく。


 店内に入った一人の女の子が周りを見て、諦め顔になって店を出ようとした時に、その女の子と匠斗の目が合った。

 大きく見開いた目がこちらにくぎ付けで、次の瞬間近づいていきた。


 そして一言。

「あの.....、青木 匠斗くんだよね?」

 そう言いながら、女の子は舞の方に一度目線を合わせてから、また匠斗にそれを戻し、少し首を傾げて言ったその時に、少しだけ肩に乗っていた、セミロングの黒髪が揺れてハラリと落ちた。


「え...っと、確か 村上さんだったよね? 村上 凪穂(むらかみ なぎほ)さんだっけ」


 村上 凪穂は匠斗と同じ高校の3年生。 この春、クラスが一緒になり、何となくだが、顔と名前だけは憶えていた。

 身長が160cm近くあり、匠斗との身長差は15センチくらいある。大人し目でカワイイ系の女の子と言う印象だ。


 凪穂は少し微笑みながら。

「そうよ青木くん」

 凪穂が続ける。


「あの、お願いがあるの」

「なに?」


 少し凪穂がモジモジしながら言う。

「えっと.....そこの一つ空いた席に、私座っていいかな?」


 匠斗と舞は3人掛けの小さな丸いテーブル席なので、あと一つ席が空いている、そこを凪穂が指を指して言う。 それと、この混み具合を察して、舞が。



「あ、どうぞ、いいですよ、このあと私達以外誰も来ませんから」

 と、舞が言うと。

「ゴメンなさいね、彼女さん、わたし食べたらすぐに行くから....、いいかな? 青木くん」

 今度は匠斗に瞳を向けて言った。


「いいよ、俺たちも今から食べ始めるところだから、だけどコレはオレの妹だから、気を使わないで。 それと早く注文してきたらいいよ、多分もっと混んでくるから」

 すると、凪穂は満面の笑みで。

「ありがとう、ささっと行ってくるね」

「ああ」


 言うが早いか、凪穂は注文カウンターに向かった。



「なになに?お兄ちゃん。あの女の子の事知っているの? なんか、隠れカワイイ系の女の子だね」

「同じクラスの女の子だよ。 食べるぞ舞」

「ちょっと待って」

「なんだ?舞」

「せっかくだから、村上さんが来るまで待ってようよ、ね?」

「そうだな、ちょっと待つか」

「ありがと、お兄ちゃん」

「優しいな舞は」

「えへへ....」


 次々と客が途切れない。 空いている席は無く、空いてもすぐに塞がってしまう人気だ。


「しっかし毎年やってるこの期間限定って、こんなに人気があったんだな」

「そうだよ。 私コレの為に、お小遣いを使うのを我慢していたんだ」

「なんだ? 600円なのに?」

「違うよお兄ちゃん。期間が短い分、何度でも楽しもうと、溜めたんだよ。 えへへ」

「はは.....敵わないな 舞には」

「えへへ。でもね、その時は友達もだけど、それ以外はお兄ちゃんに付いて来てほしいの」

「女の子一人じゃあ来辛いからな」

「そうなんだ~」


 兄妹が会話していると。


「お待たせー......って、私なんかを待っててくれたの? いいのに」

 凪穂がトレーを持ってやって来た。


「舞が、みんなで最初から一緒に食べたいんだってさ」

「ありがとう、えっと....、」

「あ、舞です、青木 舞。 高一です」

「舞ちゃんね、ありがとう待っていてくれて、私の事は凪穂で良いからね、拓斗くんもね」

「はぁい、凪穂ちゃん」

「....って、オレもう名前で呼ばれてるし」

「ごめんなさい」

「いいよ、その方が気楽みたいだから」

 話を遮って、舞が促す。


「ねえねえみんな、食べようよ」

「そうだな、じゃ、いただこうか」

 3人揃って

「「「いただきま~す」」」


 食べながら、会話が進む。

「忙しいみたいですね、私達の時には、スタッフがトレーを運んできてくれたんですよ」



 このやり取りを見て、匠斗は首を傾げた。


「なに? 匠斗くん、不思議そうな顔して?」

 察していたのが分かったみたいだ。 

「いや、何て言うか凪穂って、学校とイメージ違うよな」

「どういう事?」


 凪穂は、学校では大人しく、かといって陰キャの様な物静かな、と言う訳でもない。 それでも、普通にクラスメイトとはコミュニケーションをいい具合で取っている。 ただ結構一人で休憩時間はスマホを片手に、ひたすら何かをやっている姿が印象的だ。


「う~~ん、何て言うか、こう言っちゃ何だけど、陰キャではない陰キャかな?.....あ、気分悪くした? ゴメン」

「いいよ。 へえ~、私って傍から見たらそんな風に見えてるんだ~」

「でも、今日初めてまともに話したけど、結構 普通な女の子なんだな~って思ったよ」

「あれ?褒めてる?」

「印象なんだけど...」


 二人の事をジッと見ていた舞が、たまらず言った。


「ねえねえ、お二人さん。今はこの セットメニューを楽しもうよ~」

「「あ!!」」

 ハッとした匠斗と凪穂。


「そうだった、今はコレを堪能しなくては」

「そうだね、匠斗くん」



 今までクラスでは挨拶くらいで、コミュニケーションを取っていなかった凪穂とのやり取りだったが、こうやって偶然なのか何なのか、会話まですることが出来て、今まで抱いていた学校での第一印象が、180度 ひっくり返ってしまったと思う匠斗だった。



 匠斗は、食べ終わった後少しだけ、スマホを取り出し、いつものアプリを開いた。

 それをチラ見した凪穂の瞳が見開いて。


「匠斗くん、そのアプリ!!.....いつから入れてるの?」

 驚くように言う凪穂に、匠斗が一瞬驚く。

「あ! びっくりした。何だよ?」

「いえね、そのアプリって小説が読み書きできるヤツよね」

「そうだが、何か?」

「あ、いえいえ、いいの、ゴメンね大声出して」

「い、いや いいけど...」


 それを見ていた舞が、時間を気にして言った。


「お兄ちゃん、そろそろ時間だよ?」


 匠斗がスマホの時計を見ると、もう9時前だった。


「わ! あぶね~、教えてくれてありがとな、舞」

「いいよ、私に付き合ってくれたんだから」


「何か予定でもあるの? まだ朝早いのに」

 凪穂が拓斗に訊いた。

「はは、勉強会だよ。オレ頭悪いし」

「そうなの?」


 ちょっと グサッと くる匠斗。


「そうなんだ、だからコレから親友と、その彼女とで、勉強会なんだ」

「もしかして、いつも良く喋っている、えっと.....えっと.....そう、加藤くんだったっけ?」

「あれ、知ってるじゃん、なんだかんだ言って」

「ま、一応クラスメイトだからね、挨拶以外では話した事無いけど」

「加藤 亮がフルネームなんだが、その彼女が勉強を教えてくれるんで、大学受験に向かって、早めにこの春から準備しようって事なんだ」

「へえ、偉いね、今からやるなんて」

「で、その加藤くんの彼女って?」

 

 結構グイッと来るんだな、凪穂って、と思いながら。


「隣のクラスの 木下 葵 だけど」

「え!! あの 木下さん? いつも学年上位の?」

「知ってるの?」

「張り出しにいつも居る常連じゃないの、いいな~」

「何が?」

「勉強教えてもらって...」


 またまた舞が。


「ねえねえ時間が来ちゃうよ お兄ちゃん」

「あ、いけね! 両親のも買って、そろそろ行かなきゃな、ゴメンな凪穂」


 忙しく、後片付けをしている兄妹に、凪穂が。


「ねえ、匠斗くん 私も入れてもらえないかな?、その勉強会.....ダメ?」

「ええ?・・・・・」



 それが始まりだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る