第44話 これで私も冒険者……?

 ゴールデンウィークを目前に控えたある日の放課後、俺は秋篠さんと共に霞が関を訪れていた。向かう先は冒険者協会本部ビル。何をしに行くのかと言えば、小春の冒険者登録だ。


「付き合ってくれてありがとう、秋篠さん。助かるよ」

「う、ううんっ! 気にしないで、土ノ日くんっ!」


 駅で小春の到着を待ちながら、付き合ってくれた秋篠さんに礼を述べる。本当は小春と二人で行くつもりだったのだが、俺も冒険者になってまだ一か月と経っていない新米だ。


 俺と新野の時と同様に、冒険者歴のある秋篠さんと一緒のほうが何かとスムーズに進むと思って同行をお願いした次第だった。


「土ノ日くんの妹さん、冒険者になりたいって珍しいね」

「珍しいのか?」


 戦前ならともかく現代は誰でも簡単に冒険者になれる時代だ。てっきり小学生のなりたい職業ランキングで不動のトップだと思っていた。


「女の子だと特にね。冒険者になりたいってことは、Cランクより上のプロになりたいってことだから。副業やお小遣い稼ぎに冒険者をしている人は多いけど、進路を冒険者一本に絞ってる女の子はなかなか居ないと思うよ」


「そういうものなのか」


 そういえば俺も、前世の記憶を思い出すまでは冒険者になろうなんて微塵も思わなかったな。


 叔父さんの件で両親がそういったものから俺を引き離していたのもあるだろうけど、わざわざ危険なダンジョンに潜って収入を得るより、普通に働いて稼いだほうが堅実だと思っていた節もある。


 それがたぶん一般的な考えなんだろう。


 しばらく秋篠さんと他愛のない会話をしていると、改札の向こうから小走りで小春がこっちへやって来るのが見えた。そして来るなり秋篠さんを見て、


「新しい女だ……!」

「おい」

「冗談だってばおにぃ」


 秋篠さんは「あはは……」と苦笑しているが、変な勘違いでもされたらどうするつもりだったんだ……ったく。


「こちらはクラスメイトの秋篠古都さん。――俺の師匠だ」

「うん、よろしくね――って土ノ日くん!?」

「よろしくお願いします、お師匠様」

「ち、違うよっ!? お師匠様じゃないよっ!?」


 俺が「冗談だよ」と笑うと秋篠さんは恨めしそうな顔をして「似た者兄妹……」と呟いていた。


「初めまして、土ノ日小春です。兄がいつも大変お世話になっています」

「あ、えっと。あ、秋篠古都ですっ。こ、こちらこそ土ノ日くんにはいつも助けられっぱなしで……っ!」


 いえいえこちらこそ、いえいえいえこちらこそ、なんてやり取りが始まったので早々に切り上げさせて冒険者本部ビルへの移動を始める。何だろうな、この気恥ずかしさは。


 協会本部までの道すがら、俺はふと疑問に思ったことを秋篠さんに尋ねてみた。


「そういえば、中学生って冒険者登録できるのか?」

「え、もしかしてダメ……!?」


 小春がこの世の終わりみたいな顔をする。


「だ、大丈夫だよ、小春ちゃん! 冒険者登録は13歳から出来るから! ただ、Dランク以上への昇格は中学生だと保護者の同意を受けた上で昇格試験に合格する必要があるの」


「危険度が高いクエストは受けられないってことか」


 俺が知る限り、G~Eランクのクエストは薬草採取や鉱石採取ばかりだ。Dランクのクエストになってようやく弱いモンスターの素材集めや討伐クエストが入ってくるようになる。


 中学生までの間は保護者の同意がなければそれらのクエストが受けられず、入れるダンジョンも限られるというわけか。うちの親が同意するわけがないし、ここ一年はどれだけ頑張ってもDランクに上がることができないことになる。


「それでも構わない。一年我慢すればいいだけだし」


 この程度のことでは小春の決意は揺るがないらしい。


 それにしても、どうして小春は冒険者になろうとしているんだろうな。聞いたら教えてくれるだろうか。何かと理由をつけてはぐらかされそうだ。


 その後、小春の冒険者登録は滞りなく終了した。あまりにも簡単に憧れだった冒険者になれてしまい、小春はきつねにつままれたような顔をしている。


 それから受付で渡されたガイドラインに沿って冒険者アプリにも登録し、さっそく俺と秋篠さんとチャットの連絡先を交換する。


「これで私も冒険者……?」


「一応はそうだな。けど、まだダンジョンには入れないぞ。武器も防具もなしにダンジョンに入るなんて自殺行為だからな」


「土ノ日くんがそれ言うんだ……」


 秋篠さんが何か言いたそうな目で俺を見てきたが気にしないことにした。


「とりあえず、まずは武器を探しに行くか」


「その前にステータスの確認だよ、土ノ日くん。まずは初期ステータスからどんな武器と相性がいいかを考えるの。もちろん、武術の習い事をしてたら扱いなれている武器が一番だけど……」


 小春は首を横に振る。確か中学では部活に入ってないんだったか。子供の頃に水泳やピアノはやっていた憶えがあるが、武器選びの参考にはならないだろう。


 それなら、と俺たちは上の階のステータス測定室に向かう。


 いつもの機械に小春が入って、ステータスを測定した結果は以下の通りだった。



名前:土ノ日小春

レベル:1

ステータス:HP/100 MP/100 攻撃力/50 防御力/50 魔力/50 器用さ/50 素早さ/50



「これ、なんの武器と相性がいいんだ?」

「さ、さあ……?」




〈作者コメント〉

ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ

♡、応援コメント、☆、フォロー、いつも執筆の励みとなっております( ;∀;)

少しでも面白いと思っていただけていましたら幸いですm(__)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る