第10話 老騎士と姫と転生鬼
角がある生き物は限られてくる。
一つは魔獣だ。
魔獣は、野生動物が魔素の影響により凶暴化したものと、魔力溜まりから勝手に発生する霊体が存在する。
その中でも、牛やウサギ、オオカミなどの猛獣が魔獣化したときに角ができやすい。
『角持ち』は魔獣の中でも特に危険視される。
もう一つは、魔物。
ゴブリンの上位種やオーガ、オークなどの『鬼』系統。
それにリザードマンやミノタウロスなど、魔獣化したものが進化したもの。
こちらも『角持ち』は危険なので、見つけ次第すぐに討伐隊が組まれる。
要するに角を持つ生き物はほかの生物に比べ、強く危険なものなのだ。
だが、今、魔獣化した熊に向け、絶え間なく矢で攻撃している男の額部分に立派な角がついている。
魔物や魔獣は理性がほとんど無い。
しかし、『角持ち』である男はどう見ても理性をきちんと持っている。
熊の弱点部分と思われる鼻や目を攻撃している。
男は角が無ければ人にしか見えない(髪の色は特徴的だが)。
この男が敵であり、味方であり、は今はいい。
ともに同じものと敵対する者同士だ。
ちょうど、男の矢が尽きたようだが……
ほう、剣もできるか。
しかし、弓の実力に比べたら一歩劣る。
男の方が優勢だったが、今は押され気味だ。
「少し加勢してくる。ここで待っておれ」
「……わかりました」
「一応、周りに注意しとくのじゃぞ」
少女をその場にまたせ、剣を鞘から抜き、加勢にでる。
「そこの者! 手助けは必要か!」
「⁈⁈ ああ! 頼む! 特別製の矢が1本残ってる。それを引くまで時間を稼いでくれ!」
「あいわかった!」
意思疎通ができるなら大丈夫だろう。
しかし、今はそんなことを気にする暇はない。
熊は魔獣化せずとも凶暴だ。それが魔獣化したなら気を引き締めないと少しきついだろう。
熊をこちらに引き付けるため、まず無防備な後ろ脚を狙う。
ザシュッ!
浅いか!
切れはしたが、傷は浅い。
しかし、熊の注意をこちらに向くことはできた。
グアォォォォ!!!
地面が震えるほどの威嚇じゃ。怒っておるのぅ。
しかし、このくらいなんともない。
今までにどんな修羅場を切り抜けてきたか!
老騎士をナメるでない!
「ハッ!」
ザシュ
つぎは腹。
ザシュザシュ
腕、背中。
次々に傷を増やしていく。
脇、尻、首、顔。
「グォォゥ……」
熊もそろそろで……
「準備が整った! いける!」
そんな声が聞こえ、わしは熊と弓兵の射線から離れる。
もちろん熊はわしを追いかけてくるが、
「《ノヴァブレイクキャノン》!」
ドゥ! ゴォォォォォォォォン!
目の前で、熊が高出力の何かに飲まれた。
はて? 矢が放つ音ではないし、矢が出せる威力ではない気がするのじゃが……。
そう思い、原因を見ると、驚いた顔をしていた。
「い、いや! お、俺もこんな威力が出るとは……」
……やはり、『角持ち』は危険だ。
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「さっきは助かった。ありがとう。俺はヘルワルド・ライトウェル。一応、ゴブリンの村長の息子だった」
「なに、気にすることはない。わしはエドワード。こっちがサンティーラじゃ。わしらはゴブリンの調査に来ておってな。ゴブリンの巣が既に襲われておったのでその原因を代わりに調査しておったのじゃ」
「倒してしまったが、大丈夫なのか」
「問題ないじゃろ。……しかし、ほかに調査せねばならぬものが見つかった」
「! ……俺のことか……」
「ああ。おぬしは何者じゃ? 『角持ち』におぬしのような種族はおったかの?」
「……俺は、元1匹のゴブリンだ。この熊に同じように巣を壊され、家族を殺された。俺が狩りに行っている間に……。戻って来たときには……この熊が……父さんを食っていやがった。怒りで攻撃したが、軽くあしらわれてしまって、気絶したんだ。とどめを刺されなかったのが救いか……」
「今は力を持っておるようじゃが?」
「ああ。目を覚ましたら、進化していてな」
「もしや……! おぬし……転生者か⁈」
「……一発で当てられるとはな。ああ、気絶している間に前世のことを思いだしたのさ。死んだ後に、天国みたいなところで神様と話して。そこですごい能力をもらってな。目を覚ましたら、その力を使うことができたんだ。だから、熊のとどめは俺が打ちたかったんだ。力も確認できたし」
「『チート』というやつじゃろ、それ」
「! 爺さんも⁈」
「いんや。わしは違うぞ。昔仕えていた者が異世界人じゃったんじゃ。それでその力がさっきのか?」
「ああ、『魔弾の射手』っていう、弓や銃、魔弾を生成することができる能力だ」
「なかなかに使える能力じゃの」
「そうでもないさ。使える能力には間違いない。でもな、魔弾一発撃つのに使う魔力の量が桁違いに多いんだ。今はまだ一発撃つのが精いっぱいだし」
「やはり元がゴブリンじゃからかのぅ。今の種族はなんじゃ。こちらから鑑定できんでの」
「爺さんも鑑定スキル持ってたのか。今の種族は……、『鬼人・射手』? ってなってるぞ?」
「「!?」」
「『鬼人』じゃと⁈ 伝説の種族ではないかっ!」
「そ、そうなのか?」
「はい。伝説で鬼人は、魔王の右腕に位置してまして、それが唯一の個体だったのです。その鬼人は武を重んじる方だったようで、魔王の元へと向かう勇者一行を止めるために戦い、そして、立ったまま亡くなられたようです。亡くなる前に子供を作らなかったようで、そのため子孫はおらず、絶滅したと考えられてきました」
「で、その絶滅した鬼人がここに蘇った、と。……ハァ、俺にそんな肩書はいらねぇよ~。力もらってもね~。することないし」
「……ふむ。なら、わしらと一緒に旅でもするか?」
「旅か~。ん~、いいかもな~。前世では休み少なかったし」
「それじゃ、まず、組合のゴブリンと魔獣のことを報告と、ガイウスの冒険者登録かの」
「角、どうする? 隠す?」
「ああ、そうじゃの。角隠せるのか?」
「ん? ああ、ほいっ」
シュン
一瞬で角が消えた。
残るのは渋い緑色の髪。
どっからどう見ても普通に人だ。
「これでバレないと思う」
「よし。行こうかの」
「はい」「おう」
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