Xenonem Saga Ⅱ ~クアルニィグの瑠璃鳥~
海部野 アリス
1
──ここは……。PAじゃない。
「よお、目が覚めたか」
大地が声のした方を見ると、口元に気のよさそうな笑みを浮かべた長身の男が立っていた。ゆるく波を打つ長い紫紺の髪は、額に巻き付けられたヘッドバンドで止められている。どこか違和感を覚えたのは、聞こえてくる男の言語のせいだった。異国の言葉を話しているのに、大地の頭の中では日本語で理解している。
──いったいどういうことだ。あの光に包まれて、それから俺は?
大地は座っていた椅子から立ち上がり、周囲を見回した。宇宙船の中だということは理解した。移住プロジェクトではこんな内装の宇宙船はなかったはずだ。
「ここは?」
大地は男の方へ歩み寄り訊ねた。
「
ランスと名乗った男は大地の左手首に装着されていた銅の色をした幅広の金属のようなものを指さし、続けた。
「そいつはこの船の持ち主の物だから自由に使っていい」
「あ、ああ。ありがとう。君たちの船籍はどこなんだ?」
プロジェクト公用の英語を彼は話していない。どこかの財閥のプライベート船だろうか。
「スビニフェニス」
そう答えながら、ランスが大地に見せたものは、気を失っているらしい大地の乗った近距離移動用小型艇PA-002が、初めて見る宇宙船、つまりどこの国の所属かわからない宇宙船に収容されるようすを記録した映像だった。
「ありがとう。助けてくれたのか。スビニフェニスとは聞いたことがないが、君たちはいったいどこの……」
「まあ、驚かずに聞いてくれ」
それから大地はランスがゆっくりと時間をかけて説明してくれた話から、天地がひっくり返るほどの出来事が自分を襲ったのだと知ることになった。
今いる場所が、地球、つまり太陽系が、もっと言うなら天の川銀河の所属する宇宙空間ではないこと。大地が、今はなきスビニフェニス星という惑星が存在していた宙域に突然現れたこと。パトロール艇によって救助されたが、PAは大地の地球への帰還の役には立たないこと。ランスの主である人物の意向でもあり、大地と共に地球へ──その場所は不確かであり、いくつかの候補に向けて模索していかなくてはならない旅路ではあるが──今乗船しているこのシヴァン・アルレットで向かう責務を担ったのがランスであること。
また、それについて大地が責を負うものは何一つなく、提供される一切について遠慮する必要もないのだという。ただ一つ、航海日誌を記録することだけが課せられた。
それから数日、二人で長旅をするには少し大きいのではないかと感じるこの船の内部を大地は確認してまわり、自分に割り当てられた居住区の充分過ぎるほどの広さと機能について少しずつ認識、習得しつつあった。
根っからの好奇心の旺盛さのせいか、自分がおかれたこのとてつもない環境の変化に対しても、大地はほとんど拒否反応を示さず、順応性の高さをランスは喜んでいるように見えた。
<大地、ランス、宙航管制局からハザードが出ています>
シヴァン・アルレット──大地のために用意された地球を探して航行する宇宙船──に組み込まれた人工知能エスネムの音声が船内に響く。日課であるトレーニングを終え、無水シャワー・カプセルで汗を流した身体をベッドの上で仰向けに脱力させていた大地は、室内着を羽織ると階下にあるコントロールルームに向かった。
「まあ、これは仕方ないな」
ランスは警告の内容を確認していたのだろう、大地が降りてきたのを見て両手を広げて見せた。
「何があった?」
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