#05 体育祭と文化祭
体育祭までの期間、僕は放課後も応援団の準備で忙しくしていた。
ミワはそんな僕のクラスに来ては、僕の作業が終わるまで傍で時間を潰して過ごしていた。
体育祭の当日は、僕は朝から黒の学生服とゲタを身に着け、クラスの女子が旗の余った布で作ってくれた「応援団長のアカリちゃんです」と書かれたタスキを肩にかけた。クラスメイトたちから「今日一日ずっとこの格好で過ごせ」と言われたので、出場した競技にもこの格好で出てやった。ゲタは流石に脱いで裸足でだけど。
ミワは暇になると僕達のクラスに遊びに来ては、僕の席を占領していた。
まぁ僕は応援団長でずっと立って応援してたから、いいんだけどね。
僕は走る競技にも出た。
人前でレースに出るのは中一の事故以来初めてだった。
走るといっても障害物競争だったけど。
それでも久しぶりにトラックを走るのは、気持ちよかった。
競技を終えてクラスに戻ると、ミワが後遺症の心配をしてくれたけど、特に問題は無かったから『全然平気。久しぶりに走って気持ちよかったよ』と教えてあげると、ホッっとした表情をしてくれた。
体育祭の閉会式では、僕達のクラスが応援団のコンテストで、1年の最優秀賞を獲得した。
僕が代表で表彰状を受け取りクラスに戻ると、クラスのみんなが胴上げしてくれた。
片付けが終わり、その日のHRで担任から「体育祭だけじゃなくて普段から三上がクラスのみんなを盛り上げてムードメーカーになってくれていたから、今回の応援団も団結して最優秀賞が取れたんだぞ」とみんなの前で言ってくれて、クラスメイト達からも「アカリちゃん、おつかれー!」と声を掛けてもらえて、少し目頭が熱くなった。
この日はミワが迎えに来なかったので僕の方からミワのクラスへ迎えに行った。が、カバンは残ってるのにミワの姿が見当たらず、しばらく廊下で待っていた。
30分ほどでミワが戻ってきたので、その場では何も聞かずに一緒に学校を出た。
駅で電車が来るのを待っている時に、ミワの方から教えてくれた。
「2年の先輩に呼び出されて告白された。でもハッキリその場で断ったんだけど、明日文化祭一緒に周ろうとか連絡先教えて欲しいとか、色々しつこくて遅れちゃった」
『またかー、ホント大変なんだな。大丈夫そうなのか?今度からそういう時は僕も立ち会おうか?』
「心配してくれてありがとう。でも多分もう大丈夫だから」
『そっか。でもホントにピンチになったら遠慮なく言ってくれればいいからな』
「そんなことより、明日文化祭で周るの楽しみ。アカリは劇に出るんでしょ?何の役やるの?」
『なんか執事の役。セリフも覚えさせられた。「旦那さま、ここはわたくしにお任せ下さい。お前たち、早くお嬢様を奥へお連れしろ」とか言うの』
「なにそれ。執事とか応援団長以上に似合わないんだけど」
『そのようなこと仰らないで下さい、ミワお嬢様』と、そこからミワを家に送るまで執事口調でからかった。
「止めて、他の人が見てる。恥ずかしいから」と嫌がっても
『ミワお嬢様には高貴な者としてのお役目がございます。人目など気にする必要はございません』とかずっと執事でやり通した。
文化祭一日目は、体育館での開会式が終わり教室に戻ると、クラスメイト達から一緒に周ろうと誘われた。
でも『ミワと先に約束してるから、ごめん』と断ると、なら劇の宣伝してこいと執事の衣装に着替えさせられた。
昨日使ったタスキの「応援団長」の文字を雑に消して「執事」と書き換えられ、それもかけさせられた。
劇の公演は午後からなので、この日のほとんどを執事の姿で過ごすハメになってしまった。
いつの間にか来ていたミワは、そんな僕の姿を見て爆笑していた。
僕はミワに向かって『ミワお嬢様、そろそろお時間です。わたくしめがご案内しますので行きましょうか』と昨日の帰りの様に執事口調で言うと、周りにいたクラスメイト達にもウケて笑ってくれた。
この日、二人で校内を周っていると1年だけじゃなくて2年や3年の知らない先輩たちからも「アカリちゃ~ん」と声を掛けられた。
昨日の応援団長で目立ってたせいなのか、今日の執事の影響なのかは解らなかったけど、ミワのボディーガードのつもりだったのに、逆にミワよりも色々な人に声をかけられた。
声を掛けられる度に『午後から劇やるんで、よろしくお願いします』と返事を返した。
昼ごはんはミワと二人で中庭に出て、弁当を食べた。
ミワは終始ご機嫌で、楽しそうに話しながら弁当を食べていた。
そんなミワを見ていて
こんなに美少女で本当だったらみんなの人気者になってるはずなのに、クラスメイトに恵まれなかったせいで、ただ同中ってだけの僕なんかとツルむハメになって、なんか可哀相でやりきれないな。とむなしい気持ちになった。
劇の時間まで、そのまま中庭で二人で過ごした。
時間になったら二人で体育館まで移動して、弁当箱をミワに預かってもらい、僕だけクラスに合流した。
劇は、平民の男と貴族の令嬢の身分を超えた恋愛を描いたミュージカル。
僕は、その貴族の娘の執事の役で、表向きは貴族としての立場を弁える様に諌めつつも、陰では二人の恋愛を応援する役柄だった。
出番は少しだけだったけど、僕の出番でセリフを言うと、客席のクラスメイトたちから「いいぞ~!アカリちゃ~ん!」と掛け声が上がって恥ずかしかった。
劇が終わりミワと再び合流すると「アカリ、凄い顔赤かったよ」とからかわれた。
『あんな大勢の客の前で、あいつ等が変な掛け声するからしょうがないじゃん』と強がったが「でも、劇は凄く良かったよ」とホメてくれた。
『てか、顔赤いの解るって前の方で見てたの?』と聞くと「最前列で見てたよ。そんなことより、どっかに行こう」と腕を引かれて、体育館を後にした。
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