第10話

 


 すっごく、すごーーーーーく失礼な上にとっても偏見なんだけど。


 ギャルって、大体の人が頭悪そうじゃない?


 あっ、この場合の頭悪そうっていうのは勉強が出来ないってことね。

 今まで出会ったギャルに直接聞いた訳ではないよ。陰キャの僕が、そんな命知らずな真似出来る訳がないからね。じゃあ何でギャルが頭悪そうかって思うのかというと、アニメやマンガやラノベに登場するギャルキャラが、揃いも揃ってお馬鹿キャラだからだ。


 派手な見た目でウエーイウエーイ!と騒ぎ立て、男に媚びへつらい、主人公を貶めたりちょっかいをかける。知能が低く成績が悪いっていうステータスも、かなりの高確率で付属されているだろう。

 そんなオタク知識しかない僕は、ギャルは頭が悪いという勝手なイメージを抱いていた。

 でも、それは二次元オタクの世界のギャルの話だ。では、三次元リアルの世界のギャルは一体どうなのだろうか。


 見た目は派手でも、ウエーイウエーイ!と騒ぎ立ていても、退屈凌ぎに陰キャラをイジったりしていても、実はバリバリ頭が良くて勉強が出来たりするのだろうか。


 何故、そんな事をふと考えてしまったのかというと。

 僕の周りを取り囲んでいる三ギャルが、珍しく静かに机にかじりついていたからだった。


「あーもう!この英文、どうやって訳せばいいんだし!」

「ブツブツブツブツ」

「あーっ、教科書なんて放り投げて思いっきり走りたい!!」


 ……そんなに静かでもなかった。

 安藤さんは英語の教科書を読みながら頭を抱え、夢野さんはノートにひたすら漢字を書き連ね、七瀬さんは数学の教科書を持ち上げて窓の外に投げようとするがなんとか踏みとどまっている。

 いつもギャハハハ!と笑って騒いでいるギャル達が、眉間に皺を寄せ険しい顔で勉強していた。


 五月も下旬に差し掛かろうとしていて、じゃあその時期に何があるのかというと。

 高校生になった僕達の、一番最初の中間テストがあるのだ。

 この中間テストの内容は高校に入ってからの授業と、中学で習った勉強の復習といった内容になっているらしい。なんかの教科担当の先生がそう言っていたから、多分合ってる。

 正直に言えば、そんなに難しい内容ではない。高校に入学したばかりで授業もそれほど行っていなし、中学でちゃんと勉強している人であれば七・八割は簡単に取れるだろうと、なんかの教科担当の先生が言っていた。夏に行われる期末テストに比べれば、今回の中間テストは小テストと変わらないレベルだろう。


 では、何故僕の目の前でギャル達が鬼気迫る気迫で勉強に取り組んでいるかというと、絶対に赤点を取りたくないからであった。

 テストが簡単ということは、学年全体の平均点も上がる。平均点が上がると、必然的に“赤点のアベレージも上がる”ということだ。平均点を取れなかった生徒、赤点未満になってしまった生徒。そんなお馬鹿な生徒は、放課後の居残り補修が待っている。


 ここで面白いのは、この学校は服装とか髪染めとか外見に関しては意外と甘く緩い校風なのだが、赤点を取った生徒には容赦なく厳しいらしい。

 放課後は毎日居残り勉強して、多くの課題を出される。そんなの、遊び盛りの高校生にとっては地獄という他にないだろう。

 “別に見た目は好き勝手していいよ?バイトもしてもいいよ?でもちゃんと勉強はしてね?赤点取ったら……分かるね?”

 この学校は、そんな面白い校風を取り組んでいたのだった。


「いやだぁ~絶対赤点取りたくないよぉ~」

「放課後遊べないとか~……マジ死ぬし」

「私なんて、もし赤点取ったら当分部活禁止なんだから……」


 嘆く三ギャル。

 テスト一週間前になって、どうやら彼女達は危機感を抱いたのだろう。このままでは赤点を取ってしまう、と。それすなわち、放課後の自由が一切合切奪われてしまうことだと。

 この様子から察するに、安藤さん達は余り勉強ができないっぽい。

 ギャルは頭が悪いという僕の偏見は、あながち間違いでもなかったようだ。


(ああ、なんて平和なんだろうか)


 つい、心の中で幸せを噛み締めてしまう。

 テスト週間が始まるまでは、僕はこの三人のギャルから暇さえあればイジり倒されていた。髪長ーよと触られたり、オタクを馬鹿にされたり、意味もなく小パンチや小キックをしてきたり、パンツをチラ見せしてきたり、おっぱいを押し付けてきたりと、心が休まる時間が圧倒的に少なかったのだ。

 ぶっちゃけていうと、彼女達にイジられること事態は全く苦ではない。それどころか、エロイベントをしてきてくれて本当に感謝しているぐらいだ。ただその代わりに、凄く疲れてしまう。特に最近はイジり頻度が激しくなりつつあり、僕は帰ってもオナニー出来ないほど疲労していた。決してEDではないからね。

 たまにはこうして、静かに過ごすのも悪くない。


「ねぇ黒崎、ここの英文分かる?」


 そう思っていたら、隣の席の安藤さんが教科書を見せてきながら尋ねてきた。聞いてきた箇所を確認して、「これはこれこれこうだよ」と教えてあげる。すると安藤さんは、「おお!本当だすごーい!!やるじゃん黒崎!!」と笑顔で褒めてくる。

 うわ~安藤さんに褒められると嬉しいけど、なんだか気持ち悪い感じもあるな~。


「そういやあんた、前にタってた時もすらすら答えてたもんね」

「それはぜひ忘れて欲しいです」

「もしかして、黒崎って頭良いの?」

「自分で頭が良いって言うのは凄く自慢みたいで嫌なんだけど、多少はできるよ」


 無難にそう答えると、安藤さんは「いいなぁ~」とため息をつく。


「ねえ陰キャ君~モモもここ教えて欲しいんだけど~」

「あっあたしも、ちょっとここいい?」


 僕達の会話を聞いていたのか、夢野さんや七瀬さんも質問してくる。ここはこうだよーこれはねーこうなるんだよーとスラスラ教えてあげると、二人は「「おおお!!」」と声を上げて驚いた。


「陰キャ君にも得意なものってあるんだね~」

「ただの陰キャオタクではなかったか」

「ええ……」


 教えてあげたのにめっちゃディスるやん。

 げんなりしていると、何故か三ギャルは物欲しそうな顔で僕を見てくる。えっ、何その顔。陰キャからなにをカツアゲしようというのだ。


 というのは冗談で、僕は彼女達が何を欲しているのか大体見当はついている。なので、待っているだろうその言葉を送ってあげることにした。


「僕でよければ、勉強教えてあげようか?」

「「いいの!?」」


 うわぁ~めっちゃ笑顔。そして、ご飯が出てきた飼い犬の速度で食いついてきたよ。


「う、うん……僕でよかったらだけど」

「すっごいありがたいんだけど、黒崎は自分の勉強があるんじゃない?迷惑じゃない?」


 おいおいマジかよ神様。

 いっつも迷惑かけてるご本人様が僕の心配してきたよ。この冗談は笑えばいいのか?この状況でそんな事したら僕はクズ確定だな。


「今回のテストは多分平気だと思うし、安藤さん……達にはお世話になってるから」


 主に、夜の息子のね。


「マジ!?サンキュー黒崎!あんたマジ神だわ!」

「偉いぞ~」

「頼むぞ黒崎、私の部活はお前にかかってる!」


 安藤さんにアームロックされ、夢野さんに頭を撫でられ、七瀬さんに肩パンされる。

 それぞれのスキンシップを受けながら、早まったかな……と僕は少しだけ後悔したのだった。



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