第五章(3)
「──起きてください、フェルにゃん?」
耳を揉みしだかれて、ボクは悲鳴を上げた。
「にゃ~~~!?」
イタズラしている誰かの手を払いのけ、がばっと寝台から跳ね起きる。
ごづん! と、おでこに何かがぶつかって、ボクは再び寝台にひっくり返るハメになった。めちゃ痛い。
「~~~!?」
おでこを押さえて悶絶するボクのお尻を、ぺちんと誰かが叩いた。
いや、声からしてエシュネなんだけど。
「ヒドいじゃないですかフェルにゃん、せっかく起こしてあげたのに頭突きをかましてくるなんて……」
「いきなり耳なんて触るからにゃー!」
ボクは涙眼で、寝台の横に立つエシュネを睨み上げる。
エシュネは赤くなったおでこをさすりながら、
「もう夜が明けますよ? 東門の前に集合する約束です」
「にゃ!? もうそんな頃合い……」
ボクは眼をこすりこすり起き上がった。
「酒場から宿までどうやって帰ったか覚えてないよ……」
「ここ、宿屋ではありませんよ? 酒場の二階、キーヴァンさんの姪っ子さんのお部屋です」
「……にゃ!?」
慌ててボクは寝台の周囲を見回す。
言われてみれば知らない部屋だ。寝台と小さな書き物机と、物入れであろう木箱が一つ。窓は雨戸が閉められており、机の上に置いた燭台で室内は照らされている。
「どうしてボクがここに?」
たずねるボクに、エシュネは肩をすくめて、
「それはもう、キーヴァンさんも店じまいだからと在庫の酒をありったけ出して来て、みんなへべれけになってしまって。女性陣は二階の家族の部屋を貸して頂いて、男のヒトたちは一階で雑魚寝です」
「みんな起きて来られるの?」
「起きられそうなヒトは半分もいないかもしれません。みんなを調子に乗せた反省だと言って、ユーヴェルドとルスタルシュトが代表して武器や防具を回収して回るそうです」
「ご苦労だねえ……」
ボクは、あくびした。
「じゃあボク、まだ寝てていい?」
「起きられるヒトは起きて集まってくれって、ユーヴェルドの頼みです。どうも街の中の様子が、おかしいらしくて」
「おかしい?」
きき返すボクに、エシュネはうなずいた。
「門の向こう側が妙にざわついているそうです。おそらく衛兵を増員して開門に備えているのだろうと、先に様子を見に行ったルスタルシュトからの伝言です。どうやら夜の間に、街にも悪い知らせが届いたようですね」
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