第3-3話 急襲、謎の刺客!(前編)
「まったくレン! アナタのいたずらはいつもやりすぎです!」
「せっかく来て頂いた客人に挑みかかるとか……バツとしておやつ抜きですっ!」
「のおおおおっ……セリンせんせぇ~、許してくださいなのだ~!」
グラウンドで行われた心温まる?ふれあいの後、慌てて回復魔法で獣人族の女の子であるレン・パウエル……レンちゃんを手当てしたわたし。
「……ししょーって呼んでいいか?」
「わたしはまだまだ未熟なので師匠呼びは少し……おねーちゃんって呼んで」
「らじゃ~なのだ!」
と、すっかり借りてきた猫のようになったレンちゃんを連れて院長であるセリンさんにご挨拶に伺ったのですが……。
彼女の悪戯好きはいつもの事らしく、ひとしきり院長先生に叱られた後、床に正座をさせられています。
レンちゃんは正座が苦手なようで、ぺたんと垂れた犬耳とぴくぴく震えるしっぽが……レンちゃんには悪いですがとってもかわいいです。
「ふふっ……あの、院長先生……レンちゃんの攻撃があまりに鋭くて、おもわず故郷的通常対応をしちゃいました」
「わたしの方もやりすぎだったと思いますので、そろそろ許してあげてください」
「ミアさんがそうおっしゃるなら……レン、ちゃんとお礼を言うのですよ」
「はうっ! ミアおねーちゃんは優しいのだ! ありがとうございますなのだ!」
しょうがありませんね、と院長先生の許しが出て、パッと笑顔になるレンちゃん。
ぺこり、とわたしに対してお辞儀をしてくれます。
その拍子にピコピコとモフモフな犬耳が動いて……。
くっ……なんてかわいいんだっ!
愛らしい反応にハートを撃ち抜かれてしまったわたしは、レンちゃんの頭を撫でながら優しく語り掛けます。
「ふふっ……いい子のレンちゃんにはあとでお菓子作ったげる」
「わたしの故郷名物、パンナコッタは絶品だよ?」
「にゃんとっ! 神が……女神さまが降臨されたのだっ……!」
わたしの申し出に耳と尻尾をぴ~んと逆立て、興奮の面持ちを浮かべるレンちゃん。
ふふふ……こうやって胃袋を掴めば……可愛いレンちゃんはわたしのモノなのだっ!
「ふふっ! 微笑ましい姉妹愛だね! 僕も妹の事を思い出すなぁ……本国でいい子にしてるかな?」
「……カンタスのアレはもう少し邪な気がするがな」
モフモフのレンちゃんの髪を撫でてテンションマックスのわたしの耳には、レナードさんのツッコミは聞こえないのでした。
*** ***
わああああああっ!
「おねえちゃんかっこいい~!」
「こうたいしさますてき!」
「すごっ! この間怪我した脚が治っちゃった!」
「ふふっ、みんな聞いてくれてありがとうっ!」
孤児院の講堂で開かれたミニライブ……予定していた曲を歌い終え、わたしは子供たちに手を振ります。
流れ落ちる汗と共に、講堂にきらきら満ちる白魔力……みんなとても楽しんでくれたようで、子供たちの笑顔が弾けます。
ああ、いいなあこの空気……王子のお妃さまになっていたら、味わえない体験だったかもしれません。
アシュリーさんがわたしにもたらしてくれた幸運を噛みしめつつ、子供たちに手を振り続けるのでした。
*** ***
「ライブの後は……ごはんですっ!」
「ミアちゃんすーぱーピッツァ焼きモード!」
楽しいミニライブを終え、わたしの調子は天元突破絶好調です!
子供たちに晩ご飯を食べさせてあげると約束しましたので、ここは村一番のピザ焼き職人と呼ばれた
わたしの腕前を見せるときっ!
「たあっ!」
ドンッ!
街から買い付けてきた数十キロの小麦粉にオリーブオイルと塩、水を混ぜ、渾身の力で生地を練ります。
傍らにはカットサラミ、モッツァレラチーズ、バジルが戦闘準備完了……これから焼くのはもちろん、わが故郷の誇るマルゲリータですっ!
十分に練った生地を寝かしている間、石焼き釜に火を入れます……ピッツァは火力が大事……火力イズパワーです。
「むむっ……100枚は焼くから、もう少し薪が欲しいかな……レンちゃん、取って来てくれる?」
「らじゃ~なのだ、ミアね~ちゃん!」
わたしの指示に、びしりと敬礼で答えるレンちゃん。
その拍子に、年齢の割に豊かなバストがぷるんと揺れます。
くっ……最初会った時にも思いましたが、レンちゃんはなかなかご立派なものをお持ちのご様子……冷静に観察するとわたしのアレと同等……いや2割……ううっ、5割増しのボリュームがあるでしょう。
思わず齢16にして、世界の不条理を感じてしまいましたが、ひとまずこの憤りはピザ生地にぶつけることにします!
「秘儀! 鳳凰の舞いッ!」
「なっ……5枚のピザ生地を同時に回すなんて……凄いよミア!!」
「……正直マジで一度カンタスの故郷に行って周辺調査をしたいんだが」
わたしの秘奥義にアシュリーさんたちが歓声を上げます。
「にはは、さすがね~ちゃんなのだ」
「おっと、急いで薪を取ってくるのだ~」
がちゃん!
わたしの視界の端で、ミアちゃんはドアを開け、夕闇迫る外へと飛び出していきました。
*** ***
「ぬおっ!? 昨日こっそり友達と超火力焼き芋づくりに薪を使っちゃったので、残りが少なくなっているのだ……」
「エリンせんせーにバレないうちに……薪割りしちゃいますか!」
校舎裏にある薪置き場……そこに走ったレンが見たのは、すっかり量を減らした薪の山。 昨日しでかしたいたずらで大量の薪を使ったことを思い出した彼女は、薪を補充しようと孤児院の裏にある倉庫から彼女の得物を取り出す。
「にしし、やっぱレンちゃんはこれだよねっ!」
子供たちの私物の山から取り出されたのは、彼女がとても扱えるようには見えない刃渡り2メートル以上はある巨大なグレートソード。
筋骨隆々の戦士でも持ち上げるのに苦労しそうなそれを、片手でひょいっと持ち上げると、森の奥へ走り出すレン。
そんな彼女の様子を、孤児院の屋上から見上げている男が一人。
漆黒の髪を風になびかせ、夕闇の中やけに目立つ赤い瞳を持つ男はレンの後を静かに追うのだった。
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