第25話

 高高度から町外れに向けて一気に急降下。僕は流星、僕は光。この加速についてこれるか!


 と、カッコいい風に言いたかっただけで、実際は目立たないように突入しただけなんだけど。備えをしていても、やっぱりPKは怖いからね。殺り合わずに済むならそれが一番。


 フィールドマップに表示されてる名称はジャの町。メイダス側がメイの町で、日本側がジャの町とか安直すぎる。


 町並みや規模は、さしてどちらも変わらない。というか、全く同じに見える。ここら辺もメイダス人の平等精神が表れてるのかな。


「ああっ、ダメじゃん! 妖精族なんだから隠れてなきゃ!」

「はい?」

PKプレイヤーキルされちゃうよ!」

「つか、君も妖精族じゃないか」


 いきなり声をかけてきたのは、茶色いマッシュルームカットの妖精さん。活発そうな女性プレイヤーだ。僕と違ってアゲハ蝶みたいな翅を大きくパタパタさせて浮かんでいる。服装も茶色がベースだから、キノコをモチーフにしてるのかもしれない。


「だから町外れに隠れてるんじゃない。そんなに高いところを飛んでたら私まで見つかるでしょ!」

「ごめん、キノコ」


 どうやら彼女は、PKされないように隠れていたようだ。モチーフだと思ったキノコスタイルは、もしや環境に適応するための迷彩かな。ひとまず高度を下げて僕も隠れよう。


「キノコって何よ、私はテフロン。妖精族プレイヤー最後の生き残り……、だと思ってたけど違ったようね」

「最後のって? あ、僕はこしあんです」

「妖精族は進化するまで弱いから、PKのカモなのよ。もう十人以上殺られたわ」


 視界に映る味方生存数は【88】。それってほぼ妖精族ばかり殺られたってことじゃ……。それにしてもフェアリー大好きだな日本人。メイの町ではひとりも見かけなかったのに。こしあんも妖精族だけど、これは意図してこうなったわけじゃないからね。


「な、なんだってー、よくも同胞をー」

「棒読み」


 雰囲気を出してみたけど見破られた。まあ別に妖精族だからって同胞とか同志とか仲間とか思ってないし。この姿はデータで、本体は人間だし心も同じくだ。


「じゃあテフロンさんも、さっさと進化すれば良いじゃん」

「冒険者ギルドまで行けばPKプレイヤーキラーの奴らに見つかるから、クエストも受けられないし。レベルも上げられないから進化もできないのよ」

「クエストなんて受けずにフィールドの敵と戦えば?」

「妖精族には無理。分かるでしょ?」


 分からなけど、言わんとしてることは何となく理解できる。僕も進化前は弱かった……ような気がするから、モンスターとソロで戦うのは自殺行為なのだろう。


「とにかく! ひとまず秘密基地に行くわよ」


 テフロンさんはパタパタとゆっくり浮かびながら、ここよりもさらに町の外れに向かうようだ。


「何してるのよ、早く早く!」

「あっ、はい」


 半ば雰囲気に飲まれてるのは否めないけど、着いて行ってみよう。秘密基地ってワードにも惹かれるし。


 テフロンさんの速度に合わせて、超低空という名の匍匐前進すること五分。ようやく目的地らしき場所に到着したのか、彼女は動きを止めてこちらに振り返った。


「着いたわ、こしあんくん。ここが私の秘密基地、名称は井戸基地よ」

「テフロンさん、すごいネーミングセンスだね」

「うふふっ」


 褒めてないんだけど喜ばれた。こいつ、もしや皮肉とか通じないタイプか。連れてこられたのはメイの町にもあった古井戸。なるほど、町の造りが同じだとすれば、この下はモンスターのいない安全地帯になってるはずだ。


「さあ、行くわよ。驚かせてあげる」


 結果を知ってるから驚かないと思うけど、テフロンさんの得意げな態度を折るのも気が引ける。ここは合わせてあげようか。


「そうなんだー、ドキドキー」

「なんで棒読みなのよ」


 古井戸を降りると案の定、横穴があった。そしてそこを進むと見慣れた迷宮の扉。メイの町、それとフィールドにもあった迷宮、そしてここで三箇所目か。一体全体、本当にここは何の施設なんだろう。


「こしあんくん、扉を開けてみて。うふふっ」

「じゃ遠慮なく。お邪魔しまーす」


 カラカラカラ……


 勝手知ったる引き戸の向こうは、やはり迷宮だった。


「ちょっと、ちょっと! 普通、押したりガチャガチャしたりするでしょ」

「え、でも引き戸だし……」

「なんで知ってるのよ! 引き戸よ! ドアノブがあるのに引き戸なのよ!」

「僕の田舎では、こんなのがデフォルトなんだ」

「そ、そうなんだ……すごい秘境に住んでたのね」


 どんな秘境でもドアノブありきの引き戸はないと思うけど、納得してくれたのなら良しとする。テフロンさんがちょっと残念な人で良かった。


「ここはもう探索した?」

「ウロウロはしたけど、マップを完全に埋めたりはしてないわね」

「だったらマッピングしてきて良い?」

「それは自由にすれば?」

「じゃあ行ってくるよ」


 まずは直進して、突き当りのワープポイントから転移。後ろから「早めに帰ってくるのよー」とテフロンさんが叫んでるけど、お前は僕の母親か。


 この迷宮も他の二箇所と同じく、やたらと通路がワープポイントで分断されている。凝った作りなのに敵もいないし宝箱も皆無。電光石火で完成させたマップは、やはりほぼ正方形だった。意味はあるんだろうけど、それが分からないからムズムズする。


「ただいま」

「早かったわね、ご飯にする? おやつにする? それとも外食?」

「じゃあ外食で、ってどんな設定なの?」

「フードファイター夫婦の新婚さん」

「斬新だけど止めとこう。ここからの展開が読めないよ」

「そうね、私も面倒くさい設定しちゃったな~と思ってたの」


 じゃあ最初からするなよ。まあフレンドリーな感じは嫌いじゃないけど。


「もう分かったと思うけど、ここにはモンスターがいないから安全よ」

「でもレベル上げができないね」

「今は試練のときよ。しばらく身を隠してPKが去るのを待ってるの」

「去るの?」

「多分……どうかな。そのうちきっと」


 希望的観測すぎて説得力に問題がある。そもそもRPGなのに、ずっと隠れてるのは違うと思う。……かくいう僕も、掘ったり飛んだりしかしてなかった。


「テフロンさん、僕とパーティを組んでレベル上げしようよ」

「でもここから出たら、見つかっちゃう」

「そこはほら、この迷宮の最奥から地上に穴を掘ればフィールドに出るんじゃないかな」

「迷宮は破壊不可能オブフェクトよ。そんなことできるわけないじゃない」


 え、そうなの? 普通にできたけど。こうやって壁に手をかざしながら、インベントリに収納するようなイメージで……。


「ええっ!? 壁が、壁が、穴が壁に」


 驚きすぎて語彙力が低下してる彼女には悪いけど、できちゃうんだな、これが。この方法が使えなかったら、スタート直後に詰んでたからね。もしかして、僕が大地属性の妖精なのが関係してるのかもしれない。


「さあ、フィールドに出かけよう!」

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