第8話

 一仕事終えて、はじまりの街に戻ってきた。フィールドだと戦闘が発生してしまうので、考えをまとめられない。


 こしあんのスーパードロップ率でも、ゴブリンリングを入手するまでに何時間もかかってしまった。ユニークスキルとジョブスキルが仕事してないように感じる。


 きゅぅうううぅ。


 もしかすると、ゴブリンリングはドロップ率【-50%】くらいの設定なのかもしれない。こしあんがユニーク特性で【アイテムドロップ率30%アップ】を引き当て、なおかつシーフを選んで【アイテムドロップ率20%アップ】のジョブ特性だったからこそ入手できたアイテムだとしたら……。


 アイテムドロップ率が合計【50%アップ】なので【-50%】と相殺されてゼロになり、幸運の数値である【2.6%】だけが仕事したと考えれば……。


 もしこの仮定が本当なら凄いことだ。


 きゅぅうううぅ。


 レアアイテムを超えた激レアアイテム。僕だけが入手できる、僕だけが知っている、その存在。考えれば考えるほどワクワクしてきた。ためていたSPを全て幸運につぎ込んで、もう一度検証してみようか。



 キャラネーム こしあん

 ジョブ1 シーフLV6

 ジョブ2 なし

 HP 35

 MP 20

 物理攻撃力 7+16

 魔法攻撃力 2

 物理防御力 5+6

 魔法防御力 2+3

 速度 20+1

 幸運 39+1

 ジョブ特性 アイテムドロップ率20%アップ

 ユニーク特性 アイテムドロップ率30%アップ

 ジョブスキル スチールLV3 罠解除LV1


 武器1 鉄の短剣 物理攻撃力+8

 武器2 鉄の短剣 物理攻撃力+8

 頭防具 革の帽子 魔法防御力+3

 体防具 革の胸鎧 物理防御力+5

 足防具 革の靴 速度+1

 装飾品 ゴブリンリング 物理防御力+1 幸運+1


 SP 0ポイント

 所持金 4430G



 嗚呼、勢いで本当にやってしまった。これで幸運だけのアイテムドロップ率は【4%】。何をしてるんだ感が強いけど、これはこれで面白いから良しとしよう。どうせモンスターの殲滅速度はファイターやメイジに負ける。それなら誰もやっていない一芸特化で遊ぶほうが潔い。


 きゅぅうううぅ。


 ……一旦、ログアウトしようかな。脳は良い感じで覚醒してるのに、腹の虫が鳴きやまない。自炊するのも面倒だし、コンビニ弁当でも買ってこよう。


 二階建てアパートの一階右端。そこが僕の部屋だ。玄関を出てすぐの道を東に進めば、五分ほどでコンビニに到着する。近くにはスーパーや本屋もあって、立地条件はとても素晴らしい。ボロいけど。


 夜空には三日月が朧気に浮かんでいて、星もちらほら輝いている。実家から見上げたときは星がもっとたくさん見えたのに、都会だとコスト削減されているようだ。


 町内会の掲示板には、『国軍士官候補生募集』と『求む! ダンジョン探索者』のポスターが貼られている。こんな平和な御時世に、好き好んで戦う人の気がしれない。戦闘なんてゲームの中だけで充分だ。


 コンビニの前には何台もの車が止まり、入口の自動ドア付近には男女がたむろしていた。コーヒー片手に、あることないことを大声で喋り、活き活きとしてとても楽しそうだ。


 そんな、お兄さん、お姉さんの間を会釈しながらくぐり抜け、外気温と隔絶された自適空間に足を踏み入れる。めっちゃ涼しい。


 ふと雑誌コーナーに目をやると、見知った顔がニヤニヤしながら立ち読みしていた。僕はそっと背後から近づき声をかける。


「岩ちゃん、何読んでるの?」

「わっ、びっくりした。木下かよ」

「こんな夜中にエロ本ですか?」

「ち、違う! これだこれ」


 雑誌のタイトルは、月刊エモいMMORPG。特集されていたのはレガリアワールドオンラインだった。


「岩ちゃん、レガリアやってるの?」

「始めたところだけどな」

「僕も昨日からプレイしてるんだ」

「へぇ! ならパーティ組むか?」

「いやいや、検証したいことがあるから今はやめとく」

「木下って検証厨なのか」

「検証厨じゃなくて検証班……見習い」

「ちょっとよく分からんけど頑張れよ」

「ありがとう。落ち着いたら一緒にプレイしよう」

「ああ、俺はナイトだから防御は任せとけ」

「オッケーオッケー、じゃあまた」


 岩ちゃんこと岩井くんも上京組で、同じアパートの二階に住んでいる。クラスは違うけど、時間が重なれば一緒に登校することも多い。夏休みに入ってからは初めて出会ったけど、元気そうでなによりだ。レガリアワールドオンラインもプレイしているようだし、仲間が増えた気がして心強い。


「納豆サンドとトーストインサンドしか残ってない……」


 弁当コーナーの前で現実を目の当たりにして、思わず声が出てしまった。他のものは売り切れで、その二種類だけいくつも残ってる。奇麗に陳列されているので、ここに並べられてから誰も手を伸ばしてない気がする。こんな攻めたもの、誰が食べるんだろう。


 ……選択肢のない僕が食べるのか。


 お金を払って罰ゲームを受けるのも嫌なので、ペットボトルの炭酸飲料だけ購入した。冷蔵庫に実家から送られてきたキュウリがあったはずだ。キュウリしかないけど。今日の主食はキュウリで決まり。キュウリがあれば生きていける。


 あとでまたコンビニに行くのも面倒なので、ご飯も炊いておこう……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る