第四音④
「後は、過去問をやる日と目標点数だね」
鈴は今回、この過去問をやる日程と目標点数を事前に木村へと報告するつもりでいた。そんな鈴の意図をくみ取ったカノンと琴音がスマートフォンを取り出し、カレンダーを出して日程を決めようとしたのだが、
「やべっ! 下校時刻、過ぎてる! 三人とも、帰ろう!」
大和のこの言葉で、四人は
帰り道の話題ももちろん、過去問のテストをいつやるか、と言うものだった。四人はそれぞれスマートフォンを取り出して、カレンダーと睨めっこしている。
「テスト週間の最初の日がいいかなぁ? 応募締め切りのことを考えると、テスト週間が始まる頃がちょうど締め切り一週間前でしょ?」
「そうね。過去問の結果と一緒に、テスト週間の過ごし方とかも伝えると、先生も納得してくれるかも」
「カノンちゃん、それ、いい!」
こうして三人のテスト対策が決まった。
テスト週間が始まるまでは各自、苦手な教科を重点的に勉強していく。そしてテスト週間が始まった初日、大和が借りてくれた過去問を解き、その結果を基にテスト本番までの過ごし方を木村に報告する。
更に、以上の内容は明日の放課後、木村に直接宣言するのだ。
「うんうん! 完璧な作戦!」
鈴は今回の作戦に満足そうに頷いた。これなら木村も、大会出場への許可を出すしかないだろう。
三人は明日の放課後を楽しみに、それぞれの電車に乗って帰っていくのだった。
その日の夜。
鈴は宣言通りギターの弾き語りではなく勉強配信を始めた。
「えー、今日からテストが終わるまでの期間、私は勉強配信を行います! ちなみに教科は数学です。数学、嫌いなんだよなぁ……」
そうは言いながらも、鈴の配信画面はしっかりと机の上を映し出している。口ぶりはいやいやではあったが勉強へのやる気はあるようだ。リスナーから『やる気があるね』と言うようなコメントが流れると、鈴は照れくさそうにこう言った。
「今回だけだし! バンドのためにやるだけだし!」
鈴のその言い草にコメント欄ではニヤニヤが止まらない。『ツンデレ』、『絵に描いたようなツンデレ』と言うようなコメントを無視し、鈴はとりあえず課題から手をつけることにした。普段は課題提出日の当日に、クラスの友人から答えを写させてもらっている。そんな鈴は久々に自力で数学と向き合うことになった。
「何これ、全然わかんないんだけど……。そもそも数学って日本語じゃないよね? これもう、宇宙の言語だよね?」
教科書とノートを机に広げ、うーん、うーんと唸っている鈴を、リスナーは生温かく見守っている。そうして一時間が経過し、何とか自力で数学の課題を終えた鈴は、
「うわーん! もう無理! 集中力の限界!」
そう言うと手に持っていたシャープペンシルを机の上に投げ出していた。今まで静かに見守っていたリスナーからは『お疲れ様』と鈴を労うコメントが投げられる。ぐったりとした様子の鈴ではあったが、そんな暖かいコメントに、
「ありがとう」
と、律儀に返事をする。無意識にこう言う気遣いができるため、鈴の配信は人気があるのだ。それから鈴は赤ペンを取り出して自分の解答の答え合わせを始めた。
「嘘でしょ……。半分しか合ってない……」
鈴は自分の正解率に愕然としたのだがコメント欄では『逆に考えるんだ』、『半分も正解したんだ! 出だしは好調』と鈴を励ますコメントが並んでいる。
「ありがとう、みんな……。はぁー……、もう終わろうかな……」
鈴の言葉にコメント欄が湧く。『もう少し頑張れ!』や『何が悪かったのかを知るところまでが勉強です』など、鈴の背中を押している。
「マジかぁ……。頑張る、かぁ……」
鈴はコメントに後押しされる形で、間違った問題とその問題の解説を見比べていく。すると一つの共通点を見付けた。
「なんか私、計算ミスが多くない?」
それは鈴にとって大きな発見だった。公式の使い方や数学の問題自体への考え方ではなく、ただの計算ミスが原因で赤点になりかけているのなら、そこに気をつけたら良い。
「もしかして私、数学ができる子だったりする?」
鈴が小さな希望を見いだした。これなら期末テストは楽になるかもしれない。
「でももう、今日はこれで本当に終わり! つっかれたー……」
鈴の言葉にコメント欄が『お疲れ様』で埋め尽くされていく。鈴はぐったりした様子で、
「今日はありがとうございました。こんな感じで勉強していくので、明日からもよろしくお願いします」
そう締めの言葉を口にすると配信を切った。
配信を切った直後に鈴のスマートフォンがメッセージの受信を知らせた。今夜のメッセージは琴音からだ。
『お疲れ様、鈴ちゃん。私も一緒に英語の勉強していたよ! 明日からも一緒に勉強、頑張ろうね』
琴音からのメッセージに顔を緩ませながら、鈴は眠りに就く準備をする。
こうして作戦一日目は過ぎていった。
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