第2話 目覚めろ!眠れる獅子!

新クラスには大抵、いきなりクラスの中心となり、学級委員立候補するんだろうなぁと周囲に思わせる謎のカリスマ性を持ったポジションの生徒がいる。この3年2組では、

盛上優作(もりあがりゆうさく)がそのポジションを担っているといっても良いだろう。


「うおーい!一中君、笑田君よろしく!」


「おいおい、盛上がいんのかよこのクラス。てかライト、また同じクラスだったな!3年2組!」


まさかのまさか。6年連続同じクラスになろうとは。内心嬉しさが爆発しているが、ライトは少し照れた様に笑田とは反対の方向に顔を向けた。


「あーあしょーがねぇ。たくさん笑わせてくれよな。」


ったく。高校3年生にもなって小っ恥ずかしい。ライトはそう思いながらも笑みを浮かべている自分にきづくと、再び恥ずかしさを感じた。正確に言うと、恥ずかしさの他にもう1つ。ホッとした様な感情もあった。

笑田と同じクラスだったからだろうか。

それは確かにあるだろう。だがそれだけでは無かった。心の中で、ポツリと呟く。


アイツとは同じクラスじゃ無いらしい。



教室移動も終わり、始業式が始まるまでには幾らか時間があった。改めてこれから共に1年を過ごすクラスメイトの面々をじっくりと確認する必要があったが、ライトは自分の趣味である漫画やアニメなどを語り合うために利用しているSNS、「トゥイッター」の趣味アカウントに熱中していた。


(マリさん、またイラストがレベルアップしている...さすがこの界隈でトップを張っている絵師...!)


「ブレイブ藤谷さんリア友に垢バレ!?そんな馬鹿な...」


リア友に垢バレというのは、現実の友人や知人に自身の趣味アカウントの存在を知られてしまう事である。

基本的に趣味アカウントは自身の素性を隠して活動している人が多く、その人々にとっては垢バレする事などトゥイッター上での活動終了を宣告された様なものである。


「何ブツブツ言うとんのや?」


ここの辺りじゃ聞き慣れない関西弁、センター分けされた髪型、ニカッとはにかんだ際に見える白い歯。この男が何谷誉(なんやほまれ)であるという事を認識するまでに時間はかからなかった。


「あっ...俺何か独り言言ってた?」

(やべ...声に出てたかな)

「ああ、ブレイブ藤谷さんがどうたらとか言ってたで」

(よりによってブレイブ藤谷さんの下りかよ!)


自分の心の声が漏れていた事に動揺しつつも、


「てゆーか初めましてだよね?俺ら」


「そやそや!いきなり馴れ馴れし過ぎたか!すまんな!」


悪い奴ではなさそうだなと、ライトは笑う何谷に対してそう感じた。


「何谷君だよね?よく前から学校で見かけること多かったよ。イベントじゃいつもクラスの中心にいるなぁってイメージだったし。話しかけてくれたって事は同じクラス?」


「おいおい、初対面で照れるやんか。そうやで!折角同じクラスになったんやし、誉って呼んでくれや。俺もライトって呼ばせてもらうわ!よろしくな!」


「こちらこそよろしく、誉。」


なるほど、こりゃモテるし人気者な訳だ。

そういや彼女もいるんだっけか。改めて誉の社交性に感心していると、チャイムが鳴り響いた。


「うおーい!一中君、何谷君。そろそろ始業式が始まるぞ!ささ、体育館へ急ごう!」


「さすがラグビー部部長。仲間思いやな。行こかライト。」


まさか新しい友達が初日で出来るなんて。これはライトにとって嬉しい誤算だった。

ひょっとしたら、自分が思っているより良い1年になるのかもしれない。

そんな期待をしつつ、ライトと誉は盛上を追うようにいつの間にか誰もいなくなった教室を飛び出していった。



「で〜ありますので〜我が浅山高校は〜」


新学年の始まりという事もあってか、校長の話はいつにも増して長く感じる。


(名前の順、1番前だからこっそり携帯も見れないし寝る事も出来ないのよねぇ。でも今日は「お手洗いはどちらにありますか」の最新話だからうかつにSNSも開けないし...)


新3年1組になった朝日麻衣もライトと同じく漫画やアニメを見るのが趣味だった。

麻衣は容姿も悪くなく、クラスでは毎年一目置かれる存在であり彼女に好意を寄せる男子生徒も少なく無かった。

だが、昨年から男性恐怖症である自分にはとても恋を楽しむ気にはなれず、周囲には秘密でSNSに浸る毎日を送っていた。


「え〜以上で〜」


校長の話が終わりそうになるのと同時にサッと顔を上げる。


(やっぱネタバレ見よう...!)


謎の決心を固め、式が段々と終わりに近づいている事をかんじていると、隣に1番前にも関わらず思いっ切り下を向いて爆睡をしている男子生徒の姿が目に入った。


(隣のクラスの男子か...よくあんな1番前で爆睡できるなぁ。名前なんだっけ...確か...)



「一中来飛!」


そう呼ばれてハッと目が覚める。

名前を呼ばれたのが夢か、はたまた現実か、どちらか分からないまま声のする方へ顔を向けると、隣の3年3組を挟んだ先に吉成知恵(よしなりちえ)先生の姿があった。


吉成先生は昨年まで2年連続でライトの担任を務めており、今年30歳を迎える独身女性教師だ。(本人は独身なのを気にしている)

こんな式の最中に、大声で生徒を名指して注意できるのは彼女ぐらいのものだろう。


(やっべー寝てたぁ...そんな大きな声で叫ばなくても...1番前だから後ろからの視線が痛い)


学年やクラスの人気者であれば、たちまち笑いが起こるものだが、そうではないと全校生徒の前でただただ公開説教をくらうだけになってしまう。

かたや、ライトの様に光と陰を彷徨う微妙な立ち位置だと所々から笑いが聞こえるという恥ずかしい空間が一瞬にして完成してしまう。

ライトはその空間が出来たのを確認すると、ただその重い空気を吸い続ける事しか出来なかった。



【筆者から】

ナベコウです!第2話という事で、何谷誉という重要なキャラを登場させました!

関西弁が売りの彼ですが実は...


第3話もお楽しみに!!



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