のこされし子供達 診療記録

仲仁へび(旧:離久)

01 彼女の診察



 私が受け持つ患者の一部は、特殊な経験をした者達だ。

 きっとこの世界に住む大多数の人間が、そんな事とは無縁の世界で育っているのだろう。


 けれど、彼等はそうではなかった。

 ゆえに、人に悩みをうちあける事がなかなかできなかったのだろう。

 

 患者の一人。

 彼女は大勢の人間によって、身も心もズタズタにされてしまった。

 だからその結果、新しく生まれてきた子供を愛する事ができなかった。


 同じような境遇の友人は、その出来事を乗り越えられたというのに。

 自分は駄目だった。

 そんな思いが、彼女を苛んでいるらしい。


 カウンセリングは思うように進まない。

 医者として私は、患者に何をしてやれるのだろうか。





 カウンセリングを数回経て。

 彼女は決断したようだ。

 その決断を私は尊重しよう。


 辛い思いをした彼女をどうして責められるだろうか。


 彼女は、愛せない子供を友人へ預ける事にしたようだ。

 ズタズタになった心を癒すには、子供の存在がつらすぎたのだろう。


 母親と引き離される子供達には悪いが、共倒れになるよりは。

 きっといいはず。


 この仕事をしていると、時々自信を無くすことがある。

 私は患者の力になれているのだろうか。


 人と向き合うという仕事は大変だ。

 新人時代の私に教えてやりたい。


 これを機に、少しでも彼女の心が健やかになれればよいと思っている。


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