第19話立ち向かう『人』
影が集まり狐か狼のような姿を現す、痛みを堪えながら立ち上がる。
「茉希ちゃんさぁ、いい加減にしないとオジサン怒るよ!」
返事は無い、自我がもう無いのか?塚田さんの方を見る。鷲尾さんが肩を貸している、取り敢えず全員生きてはいるな。
「ホントに怒るよ! 良いの!」
ヤエからバケツを受け取り、ヒエに慈光寺のお手水を注いで貰う。霊峰白山のお手水を女神様のご利益のおまけ付きだ。
「これぶっかけるよ良いの!」
返事が無いもういいか
茉希の顔面? にぶっかけた瞬間
絶叫が響き渡った
「もう一回かけるよ! 良いの!」
七転八倒している、鷲尾さんと塚田さんが離れたのを確認すると
「さっさと起きろクソガキ!!」
更にぶっかけた、そろそろか?
茉希が苦しんでいる、その目は俺を睨み続けている。
「悪いな」
近付いて三角剣を刺して終わる筈だった。
一瞬だった、胸を斬り裂かれた
「がっぐっ!」
後ろに飛び退る、傷を確認する骨まで行って無いが激痛が走り膝を付く。ここまで痛いともう声も出せない。
「健! 今……」
「来るな!」
「オジサマ可哀想に、そんなにボロボロになっていい気味だわ」
「最高ねこの力! 一晩で街中のニンゲンを殺してみせるわ」
「でもその前にオジサマ死んでくださいね?」
「最初の生贄にしてあげる!!」
「断る」
そう言い三角剣を付き出す、まだ終わってない。まだ動く……身体は動く…動かすんだよ!
「うわああああああああああ!!!」
叫びながら向かって行く
「可愛そうなオジサマ身体をバラバラにして食べてアゲル」
前脚を振り上げて薙ぎ払う脚に向けて、三角剣を盾の様にして受け止めるが吹き飛ばされる。
防ぐ事はできた防ぐ事は出来た、じゃあ後は……立ち上がり剣を突き付ける。
「意外とシブトイのねオジサマ」
「悪いね……」
剣を振りかざし、勢い良く振り下ろす!
茉希の右前脚が消し飛んだ、ざまあみろオッサンをナメんなよ
「何でよナンデワタシの右ウデが何をシタ!!」
「悪いね企業秘密だ……行くぞ……覚悟は良いか?」
今俺の三角剣は刀身の先から、光を放ち一本の大剣となっていた。
茉希が素早く動き始める
「このハヤサなラどうオジサマ!」
「無駄だよ……」
「サア引き裂イテアゲルわ」
俺は剣を振り下ろし茉希と交差する。今度は左前脚と後ろ脚を切った。
「キャああああァアアアア!!」
「安心しろよ……本体は……無事だろう」
多分な
「もう……動けな……いか?」
そう言って足を引き摺りながら近付いていく
「チッ近づカナイで」
足は止めない
「悪いな……近付かないと……」
救えないからな
茉希に近づく、足は切り飛ばした。暫く動けないだろう、彼女の頭に手を載せて意識を集中する……
彼女の思いが見える、2ヶ月前の事件で祖父が入院した事、父が辞職に追い込まれ鬱病でアルコール依存症になった事、そしてそれらが原因でクラスで虐められた事、どれも辛いものばかりだ。
「そんなとき『カレ』とあったの」
「こんばんわ渡辺茉希ちゃん。悪いけどお話聞かせてくれる?」
「はい」
「『カレ』って多分、力の事だよね?」
「お爺ちゃんの御見舞に行った時に、声が聞こえたの。お爺ちゃんの身体から這い出して来て、私の腕に絡み付いたの」
「それが見えたのかな?」
「うん、そして私に優しくしてくれた、そしてお爺ちゃんと、お父さんを不幸にした人間がいるって言って」
「それで俺を?」
「でも、ちょっと違う気持ちもあったの。この人じゃないっていう気持ち」
「でも、でも気が付いたらもう……」
「そっか、もう大丈夫!」
「もう戻りなよ、後悔する気持も分かるよ、でも後悔してたら前に進めない」
「人間てさ、色んな感情を持ってるじゃない?だから俺を恨んでくれていい。それで生きて行く事が出来る人もいる」
「でもこれで力を使うのはもうやめよう?」
「私戻れますか?」
「これから戻してあげるよ、ちょっと痛いかもね。でもそれは、今迄して来た事に対する罰だと思ってね」
「あの……痛いですか」
「歯を食いしばって待ってて!」
「ちょ……」
朝焼けが見える。俺は、ゆっくりと立ち上がり、彼女の頭部に三角剣を突き刺す。もう一本の三角剣で腹を割く。彼女がいた、ヒエとヤエに頼んで呪いと切り離してもらう。
鷲尾さんと塚田さんがなにか言ってる、聞こえないよ。もう少し大きな声で喋ってよ
ヒエとヤエに、この呪いをどうするか相談する。元々はヒエの産み出した呪いだろ?
えっ二人の力では無理?そっかじゃあさ三人ならどうかな?うん多分大丈夫三人でやろう、さあヒエは右側ねヤエは左側ね。もう少し奥そうそこ、ちょっと待ってて今神気を開放するから……
◇ ◇ ◇
「じゃあ力の一部を解放と言いましたが全力解放する事は出来ないんですか?」
『その方法はこれから一部解放する力を、上手く操れれば可能ではあります』
「方法だけ教えて下さい、後は自分の意志で判断します」
『人の身で神気を使えば、上手く使いこなせれたとしても……もしくは自ら人である事を捨てる事で、恐らく神気を開放する事が出来るとだけ言っておきましょう』
『その覚悟はありますか?』
◇ ◇ ◇
覚悟は出来ましたよ。神様、この呪いは俺が持って行きます。
俺の腹を三角剣で貫く、もう痛くないよ。ヒエ!ヤエ!そこを動くな!こんな時ぐらい言うこと聞いてよ、そうヒエ俺の右手を、伸ばして俺の神気を受け取って。ヤエ左手伸ばしてこっちに来ないで!腕だけ向けて、そう俺の神気を受け取って。最後だよヒエとヤエで力を結んで……ほら綺麗な三角形の結界が出来たね。さぁこれでもう……俺が一緒に行ってあげるよ……もうこんな悲しみはやめようね…………
◇ ◇ ◇
朝焼けが見え始めた、彼はさっき迄動かなかった。ゆっくりと立ち上がり頭部に三角剣を突き刺して、次に腹の部分を割いていく、女の子がズルリと引き出される。
「終わったのかい?」
「いえまだ呪いを浄化出来ていません」
私と鷲尾さんで彼の名前を呼ぶ返事がない
。ヒエ様とヤエ様が渡辺茉希を、呪いと切り離していた。
「京子この娘お願い」
「わかりました」
そしてヒエ様とヤエ様が
「私はこっちね、ヤエは左側。あんたも少しは動きなさいよ」
「はぁ奥?」
「誰と会話しているのだろう?」
「ちょっとまって何しようっての、そんなの駄目よ! やめてよ、ねぇお願いだから!」
ヒエ様が取り乱している
「お願い! それだけは駄目! もうあんたは十分に……やめてってたら!」
ヤエ様も
次の瞬間、女神様達が動きを止める
彼を見るぐったりと倒れ込んでいる腹部から血が出てる!
鷲尾さんが気付き近付こうとすると。
「近づかないで!」
その一言で強制力を感じて動けなくなる
「こう……うん……分かるよありがとう届いたよ」
ヒエ様と八神さんの右手を結ぶ光が繋がる
「もう少し……ちょい右、届いたよ」
ヤエ様と八神さんの左手を結ぶ光が繋がる
最後にヒエ様と、ヤエ様の手を結ぶ光が繋がり三人が繋がって、呪いを中心に三角形の結界が出来上がっていた。
朝焼けより眩しい光を放ち、地に落ちる。そこに呪いは無かった。私達の身体も動くようになり、八神さんの元へと向かう、鷲尾さんも向かうが走り出せない。足が上手く動かない。ヒエ様とヤエ様が彼の体を起こしている逆光で上手く見えない、そして仰向けに寝かせる。
ハッキリと見えてきた、こんな姿が、こんな現実が受け入れたくなくて、きっと足が上手く動かなかったのだろう。
「もう逝ったわ」
ヒエ様とヤエ様が涙を流している。
そんな……でも、その身体を見る。薄汚れている、顔も酷く汚れている、腹部に綺麗な三角剣が刺さっているのを見て。現実なのだと知った。
「何気持ちよさそうな顔して寝てるんですか?」
「八神さん…………嘘でしょう?おっ起きないとまた……ぅう三人で……引っ叩きますよ!」
「京子……ごめんね……私達が駄目な神で」
「私が産み出した呪いを、あのバカが持って逝ったわ……本当に……何が……何が神よ」
「八神よお、お前なに成し遂げたみたいな顔してんだよ! ふざけるなよ! 女三人も泣かして……バカ野郎が……」
朝日に照らされながら彼は旅立った。
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