第28話 二人用なので少し小さいのですけれど
──昼。
チャイムが鳴り終えると、俺は遥さんが作ってくれた弁当を机の上に広げた。
「はるおみ! 昼めしどうする──って、おぉ。弁当なんだ」
後ろから覗き込んできた翔太に「ここで食べてもいいんだろ?」と、室内飲食禁止なんて校則はないだろうけど、一応確認する。
「教室でも食べられるけど──」
翔太につられて周囲を見るとクラスのほとんどは外で食べるようで、ぞろぞろと教室から出ていくところだった。
鷺沼君もすでにいない。配下たちとお昼休憩なんだろう。
「──陽キャ代表みたいな顔してるはるおみが教室で一人めしって……ちょっと待ってろ。俺も購買でサクッとなんか買ってくるから」
一緒に食べようぜ、と翔太は走って教室から出ていった。
チャラ男顔がなに言ってやがる。
ピアス五つも開けてる男子なんぞおいら初めて見たぞ。
だがまあせっかくの好意だ。翔太が戻って来るまでちょいと待っておこう。
翔太も悪いやつではなさそうだし。
俺は弁当をそのままに、翔太が戻るまでの暇をつぶそうとスマホを取り出した。
と、そのタイミングでメッセージを受信した。
メッセージアプリを開くと戦国武将のアイコンが。
これはまさか十河さんでは。
『お昼、もしよろしければご一緒させていただけませんか』
まじですの?
これは、お、お誘いではないですか! ちょっとときめくんですけど!
なにこの胸の底から湧き上がる歓喜のウェーブは。
え? うそ! これが青春!? 青春なのなの!?
十河さんの席を振り返ると、スマホを片手に持った十河さんと目が合う。
いやでもなんでLICE?
数メートルの距離なんだから直接話しかけてくれればいいのに。
『近藤君も一緒だけど、それで良かったら是非にでも』
俺もLICEでそう返すと、十河さんがスマホを操作する。
返信を打ち込んでいるのだろう。
『近藤君がいるなら結構です』とか、『あのピアス苦手』とか、翔太のせいでNGならアイツとは縁を切る。
『ありがとうございます! こちらもレコちゃんが一緒なので』
おお! ぼっちメシからこんな展開になるとは!
ん? レコちゃん?
ああ、沙月さんか。おや? ということは二人は仲が良いのか。
ちょっと安心。
その沙月さんは──と席を見ると、彼女はスマホの画面に見入っているようだった。
『どこで食べます? どこかいい場所があれば教えてください』
俺がそう送ると十河さんは沙月さんの方をちらっと見る。
少し遅れて十河さんからメッセージが届く。
『それでしたらいい場所がありますので、後ほどご案内します』
あら楽しみ。
俺は十河さんに笑いかけると、弁当を包みにしまった。
オムレツ入ってるかな。
入ってたら十河さんにちょっと分けてあげようかな。
世界一のオムレツを十河さんにも食べてもらいたかったし。
「わっり。お待たせ。お茶買ってきてやったから許せ。んじゃ食おうか」
戻ってきた翔太がペットボトルを机の上にどんと置くと、俺の前の席に反対向きに座った。
「お、気が利くね。っと、あ。いま小銭切らして──」
「いいっての。転校祝い。さあ、食おうぜって、なんで弁当しまってんの? え? まさかもう食い終わっちゃったとか?」
「転校祝いって、初めて聞いたけどサンキュ。ありがたくいただくわ。んで昼なんだけど──」
俺は十河さんの方を向いた。
すると十河さんはすぐそこまで来ていて──
「よろしくお願いいたします。では、行きましょう」
「よ、よろしくお願いいたします」
隣の沙月さんと一緒にお辞儀をした。
「え? え? なに? どーゆー展開?」
翔太が女子生徒二人と俺を交互に見る。
「一緒に食事どう? ってこと。お前も一緒に」
俺は自分の弁当包みと、さっきもらったお茶を持つと席を立つ。
「おいちょっと! 四人で昼飯ってこと? え? マジ?」
「だからそうだって。お前がパン買いに行ってる間に決まったの。構わないだろ?」
まあ勝手に決めたのは俺だけど。
「全然オッケーだけど──」
翔太が俺の顔を寄せると、『──つか、沙月さんは大丈夫なの? ほら……』耳打ちしてきた。
そういえばそうだな。
というか、翔太も気づいてるのか。
「んと、どうだろ」
俺は沙月さんに確認する。
「沙月さんは翔太──近藤君が一緒でも大丈夫?」
もしダメだったら翔太と縁を切ろう。
「は、はい。春臣さんが一緒なら大丈夫……だと思います」
「私も一緒だから、ね」
十河さんが沙月さんの腕を組む。
仲が良いようでなにより。
さては女神の聖力にあてられたな?
わかるぞ。俺にはとってもよくわかる。
「んなら行きますか。っと、十河さん、案内お願いしていいですか?」
俺が主導したところで行先がわからない。
なので俺は十河さんに先導をお願いした。
「行くぞ、翔太。ほら、早くパンを袋に入れろって」
クラスにまだ残っていた数名の生徒が口をぽかんと開いている中、俺たち四人は昼食の場へと移動した。
◆
「ここです」
十河さんと沙月さんが案内してくれた場所は、学校の敷地を出てすぐのところにある公園だった。
「なるほど。ここならうちの生徒はほとんど来ないね」
翔太の言うとおり、周りに制服を着た生徒は一人もおらず、サラリーマンやOLがベンチや噴水脇に腰掛けてランチを楽しんでいる。
まさに都会のオアシスといった感じだ。
「私たち、ここでよくお昼を食べているのです。ね。レコちゃん」
空いているベンチに向かいながら十河さんが沙月さんに同意を求める。
が、さっきから沙月さんは無言だ。
「でも学校の外に出ても平気なの?」
中学時代は学校の敷地から出るには先生の許可が必要だった。
そういうところ、高校はあまり厳しくないのかな。
「公園の利用は担任の小坂先生に確認したので大丈夫です」
十河さんが俺の疑問に答えると
「特進クラスは成績さえ上位を保っていればあとはユルユルだからね」
翔太もそう付け足した。
ということはほかのクラスの生徒はアウトってことか。
まあ普段勉強頑張ってるし、ご褒美ってところなのかな。
天気もいいし、ランチには最高の場所だ。
「それではこのあたりで」
十河さんはおもむろにバッグから敷物を取り出すと、青々とした芝生の上に広げた。
ベンチで食べるんじゃないのか。
む。でもこれはこれで──
「お! なんだかピクニックみたいじゃん! やるね、十河さん!」
そう! それ!
俺が思っていたことを翔太が先に言ってくれた。
「二人用なので少し小さいのですけれど」
そして小さな敷物に四人、膝がつきそうな距離で俺たちの昼食は始まったのだった。
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