第七章『第5種接近遭遇』

1、『最高軍事機密』

 「こんにちは」 …銀嶺ぎんれいを駆け抜ける涼風すずかぜか、あるいは春の訪れを告げる小鳥のさえずりのやうな玲瓏れいろうなること朝露あさつゆごとき声が、せつの耳朶を優しくきてさうらふ…


 こ、これは夢かまぼろしか!? あのうるわしの鷹音ようおんさんが、俺に会釈し微笑んでいる…!


…なんて美しい …天使だ。 このすさんだ大地に、天使が舞い降りたんだ。 もう大好き!


 「先日は私の不在中、七夕飾りをお手伝い戴いたそうで、ありがとうございました」 …と、また軽く会釈をくれた。


 「いえ… とんでもない。」『貴女あなたの短冊を探すためですからぁ』…というのは、それこそ最高軍事機密だ。


 すると、彼女が俺の横に移動し、そっと桜の花弁はなびらのような小振りな唇を近づけた…

 

 な、何で? 鼓動が高鳴り、心臓の位置がわかる。 パニック寸前、このまま限界突破して天国へ行っちゃうんじゃないか?


 ま、まさか、はん衛鬼兵団えいきへいだん組織が、司令官の俺をものにすべく差し向けた暗殺者アサシンなのか? そうなのか!?


 「たいらさん大評判ですよ。 直向ひたむきにお仕事に取り組む姿が素敵だ…って」彼女は、そう耳打ちした。


 ああ、確かにあの時は必死だったからなあ。


 「いや、それは逆に驚きました。 いつも通りにしてただけなのに…。」と、犯罪者がインタビューを受けた時のような受け答えをする。


 「だから素敵なんですよ。」 …そう言ったのち、俺から離れた。 


 「…本日のご要件は?」 わざと澄ました顔で聞いてくる彼女に、「…そうでした。 この前、短冊を戴いたので、飾って頂こうと思いまして…」と、彼女に短冊を渡す。


 彼女は茶目っ気たっぷりに「拝見して、良いですか?」と聴く。 「もちろんどうぞ! ご高覧こうらん下さいっ」…っと、こちらもわざと仰々ぎょうぎょうしく言った。


 彼女が短冊を裏返す。 短冊には…


 「アティロムのご発展と、皆様のご健康をお祈り申し上げます」 …の文字が。


 彼女が俺の左腕をつつき、「また、お上手ですね!」と言ってくれた。 今、突かれた場所は絆創膏を貼って、例え親にも触らせないようにしよう。


 「どこに結びます?」 …短冊が随所に結んであり、中々場所が無い。 二人並んで良さそうな所を探す。 


 …そうだ!今がチャンスだ!


 「鷹音ようおんさんの短冊はどの辺りですか?」


 「さあ…不在だったので…。」 しまった! 失言!! 「そ、そうでしたね。」


 …結ぶ場所を探しながら、さり気なく

 「鷹音ようおんさんは、なんてかいたんです?」


 少し間をおいて彼女は恥ずかしそうに、こう言った…


 「…ないしょ、です」

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