第二章 インターンシップの収穫

2-1

「えーインターンの学生諸君、Win-tecウィンテックへようこそ! CEOの勝俣かつまた優平ゆうへいです」


 くせっ毛なのかパーマなのかくるくるとねじれた髪に、彫りの深い浅黒い顔。瞳はギラギラと強い光を放っている。実際に会ったことはないが、ネットニュースなどで見慣れた勝俣の顔がスクリーンに大写しになった。


 今日はWin-tecのサマーインターンの初日、大学生の阿倍野あべの基季もときは、他の十人弱の学生と一緒に、冷房がキンキンに効いた大会議室でビデオを見せられていた。


 さりげなく周囲を見回すと、男女比は半々くらいで、事前に私服で良いと通達されていたにも関わらずスーツを着てきている者もいる。


 隣の女子もその一人、白いシャツに黒のタイトスカートという定番のリクルートスタイル。椅子の背もたれを使わず良い姿勢で座っていて、やる気満々な様子だ。


 その奥には司会者からほど近い席なのに、堂々と居眠りしている男子がいた。不健康そうな小太りの体型にピチピチの黒いTシャツ姿。足元はまさかのサンダルだ。


 いろんな奴がいるなぁ。


 基季はうっかり頬杖をつきかけて、寸前で止めた。


「就活とは見合いのようなものだと思う。何より大事なのは相思相愛であること。どちらかが片方だけが求めてもダメということだ」


 ビデオの中の勝俣の熱弁は続いている。


「君たちは会社に何を求める? 高い給料? 良い職場環境? ステータス? 我が社に就職すればそれらは全て手に入るだろう。ではWin-tecが君たちに求めるものは何か」


「ーーそれはズバリ、バイタリティだ。Win-tecは日本で業界一位の会社になったが、ここで止まるつもりは毛頭ない。これからはもちろん世界にも打って出るし、国内でもどんどんビジネスの枝葉を広げていくつもりだ。欲しいのはその推進力となってくれる社員だーー」


「ーーだからリスクを過度に畏れ安定を求める人、日々の業務を無難にこなしていればいいと思うような人は、我が社にはエントリーしないでもらいたい。そういう人は私が一番かかりたくない病気の元凶となるからだ。その病気というのは大企業病といって、かつて栄華を極めた日本のブランド企業をことごとく衰退させた恐ろしい病で……」


 さすがはカリスマ経営者、話は端的で分かりやすく人の心をつかむのが上手い。先に見せられた平凡な会社紹介のビデオよりずっとインパクトがある。


 ビデオが終わると部屋が明るくなり、司会の女性がマイクを握った。


「これで全体の説明会を終わります。この後は各部署で実際の業務に就いてもらいます。ここまでで何か質問ありますか?」


「はいっ!」


 隣の女子が手を上げた。耳の後ろからピンと垂直に、まるでお手本のような手の上げ方だ。


「このインターンでの成績は、本選考でどの程度考慮されるのでしょうか?」


 女子はいきなり手品の種明かしを求めるような質問をした。



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