冴えないおじさん

 日曜日。

 アラサー独身の自分に予定はない。

 だが、なんとなく家で引き籠るのも勿体ないと思い、散歩に出かけた。


 夕方。

 郊外の住宅地。田舎なので田んぼがある。

 あぜ道には彼岸花が咲いている。


 もう秋になるんだなぁ・・・と思っていると、向こうから小学生低学年くらいの男の子が歩いてくるのが見えた。


 少年はうつむき気味でとぼとぼと歩いている。

 気になって、声をかけてみた。


「ねえ、君。どうしたの?」


 すると少年は、こちらを見る。

 顔が赤く・・口の端がひくひくしている。

 まるで、泣くのを耐えているみたいだ。


「え・・・と・・道が・・・わかんなくなって・・・」


 どうやら迷子のようである。

 少年の前でかがんで、眼を見て話してみる。


「どこに行きたいんだい?」

「・・・・駅・・・・」


 なるほど。

 残念ながら、こっちは反対方面だ。


「駅はね、反対方向だよ。反対方向の、あの交差点を左に曲がってしばらくすると大きな通りに出る。それを右に曲がってしばらく歩くと駅に着くよ」


 指さして教える。

 少年はそちらを見る。少し安心したようだ。


 そういえば・・・・


 パーカーのポケットに入れていたコーラ味の飴玉を思い出した。

 それをポケットから出して、少年の手に握らせる。


 驚いた顔の少年。


「はい、これあげるよ。途中、車に気を付けて行くんだよ」

「あ・・・ありがとうございます!」


 ペコっと頭を下げて走り出す少年。

 立ち上がって、見送った。

 ちゃんと交差点を曲がるのを確認して、反対方向に歩き出す。




 ふと・・・思い出した・・・・・



 慌てて、振り返る。

 もう少年の姿は見えなくなっていた。


 交差点まで走って行き、見回すが少年の姿は無い。




 思い出したこと・・・それは。


 子供の頃、迷子になった。

 その時、冴えないおじさんに道を教えてもらい飴玉をもらった記憶がある。

 その飴玉の味を鮮明に覚えている。


 それは、コーラ味だった。


 では、さっきの少年は・・・まさか自分だったのか?




 夕暮れの中、夢か幻をを見た気分。




 それよりも、とても気になることがある。

 少年の時の記憶の、道を教えてくれたおじさんの姿。

 小太りの冴えない貧相なおっさんと記憶していたのだ。




 ため息をつく。

 そして、自宅に向かって歩き出す。


”・・・俺は、いつのまにか冴えないおっさんになってしまっていたのか・・・”


 ちょっと悲しくなった。


 ジムにでも、通おうかな?

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