第31話 西田 3 

ウチが50万に上げたことで、追随してくる業者がボチボチ現れだした。まぁ勝手に保証人は付けてないだろうと思ってるんだろうけど。店長は問い合わせがあっても、保証人を付けたとも付けてないとも明言はしていない。まぁそれをどう感じるかは、そこの番頭さんの器量だろう。




西田は順調(?)に借り入れ金額を増やしていってた。ウチからしてみれば、借り入れてるとこが協力業者多めってのはありがたいけど。動向がつかみやすいからね。まぁ仕事してる感じもしないから、敬遠する業者も多いとは思う。母親の職業を見る限り、全部ダメになるか、全部払ってくれるかの二択だからなぁ。なかなか博打には出れないんだろうな。




ある日、仕事終わってパチンコに行った。いつものようにシマを見回ってると、西田がいた。まぁ今週分の支払いはしてもらってるから、何の問題もないし、話するつもりもない。俺はいつものようにスロットへ座り打ち出した。しばらくすると肩を後ろから叩かれた。振り向くと西田が思いつめた顔で立っていた。何か用?と聞いたら、ちょっと話があるから時間取れませんか?と言う。俺は邪魔されたくなかったんで、打つのが終わるまで待てるならいいよと返して、何もなかったように打ち続けた。パチンコ屋がタバコ臭くてよかったと安堵したのは言うまでもない。しかし西田は、後ろの席に座ってずっと待ってるのだ。少々気味が悪い。俺はパチンコ屋で知り合いに声を掛けられると、だいたい負けるジンクスを持っている。あと肩を触られるのも嫌である。そういったジンクスを持ってる人も多いだろう。西田に声を掛けられたことでイライラした俺は、案の定負けた。まぁこんなことで他人を怒ったとこで仕方ない。俺はさっさと帰ろうとして店を出たら、そこで西田に声を掛けられた。負けただけでもイライラしてんのに、まだイライラさせんのか?と思ったが、まぁそこはビジネス。どうしました?と応じると、西田がお金を貸してくれませんか?と言い出した。




よくよく訳を聞くと、もう来週から支払うお金が無いと言う。なんじゃそりゃ。まぁ行き詰るのはわかってたが、案外粘らんかったね。これからどうするの?と言ってはみたものの、仕事してなけりゃどうにもならんしな。おまけにシクシク泣きだした。お前の匂いで泣きたいのは俺の方だ。パチンコ屋から出てくるやつに、女の子泣かしちゃったみたいな感じで見られるのも腹立つし。俺はパチンコに負けたのも相まって、相当イライラしていた。




あのね、シクシク泣いても始まらんのよ。泣いたら許されるとでも思ってるの?そこまで世間は甘やかしてはくれんのよ。自分はもう30をとうに越えた大人でしょ。それにお前仕事してないやろ?仕事もせずに借金だけで暮らしていけるやつなんざ、世界中ドコ探してもおらんわい。自分でなんとかせずに、周囲がなんとかしてくれるとでも思ってんのか?甘えるのも大概にしとけや。言っとくけど、お前が支払わなけりゃ、保証人に行くからな。そのこと頭に置いとけや。だいたい金貸してくれと言われて、お前に何の担保があるの?仕事もしてないやつに金なんか貸せるわけないやろが!なんでも仕事してからモノ言えや!




そう言うと俺は自分の車を置いてるとこに向かって歩き出した。クソ!腹立つ。まぁ車に帰ったら店長に報告しとかないかんな。まぁ保証人いるし大丈夫だろうから、ゆっくり攻めたらいいし。




ところが西田は後を追いかけて来た。まだ何か用か?と言ったが、西田のボソボソいう声が聞こえない。余計に腹立って、ボソボソ言うても聞こえんわ!と怒鳴ると、ちょっとだけ大きな声で話してきた。




私を一晩買ってもらえませんか?




は?へ?ちょっと意外な返答にちょっとだけ頭が混乱した。冷静さを取り戻したら、ちょっとだけ興味が湧いた。こいつ、自分の一晩にいくらの値をつけるんだろうと。缶コーヒーを飲みながら、いくらや?と聞いてみた。そしたら3万と・・・・ブホッとコーヒーを噴き出してしまった。ちょーっと斜め上の返答が来たな。ちょっと待ってねと一回車に閉じこもり、店長に電話をかけた。今までの成り行きを報告したが、店長も呆れてたな。まぁしっかりした保証人いるし、一回は親に話行こうと思ってるから、そいつはどうでもいいぞと言われた。まぁそうなるわな。こいついたとこで役に立たんし。まぁヨソで売春でもなんでもして稼いでくるなら、それはそれでいいんだけど、まさか俺に持ち掛けてくるとは思わなんだ。俺は車を降りて、西田を前にして懇々と話をした。




西田さんね、アンタが体を売ってでも稼ごうとする決意は称賛するけど、そういうのはヨソでやってくんない?それに一晩3万って、自分にそこまでの価値があると思う?悪いけどキミに3万出すくらいなら、普通に風俗いくもん。いつも同じ服着て、風呂に入ってるかどうかもわからんし、妙な匂いを振りまいて、垢擦りに放り込んだら3kgくらいは体重減るんじゃねぇかっていうような女より、普通に若くてきれいで、スタイルも良くっていい匂いのする女の方がずっといいわ。さすがに3万は無いわ。2000円でも嫌だけど。自分に値段付けるのは別にいいけど、自分の価値ってわかってないと、鼻で笑われるよ。それにウチには社内ルールがあるから、借主さんとそういうことは出来ないのよね。残念だったね。まぁ来週の月曜日、ちゃんと支払いに来てね。来なきゃ保証人のとこに行くしかなくなるからね。もう少し早く、その覚悟を持つべきやったね。じゃあね。




俺はそう言って車に乗り込み、帰路についた。途中店長にも報告したが、月曜日来なかったら終わりだわなとため息ついとったわ。




まぁこういった話を持ちかけられたのは、この仕事を始めてから一度や二度ではないしね。今の仕事を失ってもいいし、お金をそれほど払ってもいいと思えるような女性には出会ってないかな。もっとも俺の場合、日掛けでお金を借りてる時点でアウトなんだけどね。




さて、月曜日来るかどうかの勝負になってきたんだけど、正直俺も店長も焦りはなかったのである・・・・




パチンコ屋で西田をノックアウトした翌日、店長にもう一度詳細に報告をしたんだけど、溜息しか吐いてくれなかった。まぁそりゃそうだわな。自分とこの客が切羽詰まってるとはいえ、自分とこの従業員に売春を持ち掛けるなんて、溜息しか出ない案件である。店長は俺の好みを知ってるから、手を出さないのはわかってると思うんだけど。店長も興味があったのは、西田を垢擦りに放り込んで、どのくらい垢が出るか試してみたいってくらいか。俺が金出してもいいんだが、さすがに無理かな。




その日は西田の問い合わせも熾烈を極めた。協力業者からひっきりなしに問い合わせが殺到したのである。まぁ今更感もあるからなぁ。あまりオススメは出来んかな。店長もそれらしくオブラードに包んで話はしているが。もちろん貸す貸さないはそこの会社の判断である。




土日を挟んでどう動くかってとこがポイントなんだけど、まぁたぶんこいつは逃げる。間違いなく逃げる。おそらく今までの人生がそうだったように。まぁ自暴自棄になってるような節も見受けられるが、俺には関係ない。粛々とやるべきことをやるだけである。問い合わせの件数からしても、もうリーチは掛かってると判断できるとこまで来てるのであろう。西田本人がこの土日でどういった判断を下すかだけだな。まぁ俺は逃げるに3000点。




土日を挟んで、月曜日が来た。朝から俺は親のとこに行く気満々で、書類も鞄に詰めて準備万端にしてた。そして、昼ご飯を食べて眠気に襲われる14時頃、会社のドアが開いた。そこには西田の姿が・・・・。なんと一日分だけだが払っていったのである。これには俺も店長もビックリした。少し時間を置いて店長が方々に電話をかけ始めた。西田についての問い合わせの為だ。確認できる協力業者のとこは、全部支払っていったとのことだ。俺も店長も考え込んだ。どうやって金かまえたんだろうな。まぁ順当に考えれば売春なんだけど。その時は出会い系なんかが全盛期だったので、相手探すのには苦労しないはず。にしても、あの容姿を見たらさすがになぁ。今日の支払いの時も服は変わってなかったし。が、事務員さんがあることに気づいてた。そういえば、髪がサラサラだったと。マジカー。やっちゃったのかー。出来れば西田を買った男性と少し話をしてみたいと思ったほどだ。まぁ何にせよ、どんな手段を取ったにせよ、入金にはなったんで今日の騒動はお預けだな。




なんやかやで毎日毎日遅れずに支払いに来る西田。恰好はともかく、体臭がしなくなったな。毎日風呂入ってるおかげか?毎日風呂入るってことは、毎日アレしてるんだろな。想像はしたくないが。その覚悟は認めよう。しかし、その覚悟はもっと早めにするべきだったなぁ。時すでに遅しってとこなんだろうけど、西田はどこまで持つかな。




水曜日、木曜日と一日分ずつながらも西田は払って行った。母親に泣きついたら早いんだろうけど、今までやり切ってきたなら捨てられる可能性も高いだろうしな。まぁどっちにしても、母親に話が行くのは時間の問題だな。




そして金曜日、西田は時間ギリギリで一日分を払いに来た。なんか疲れてんなぁって印象はあったけど、まぁ慣れない仕事(?)で疲れてるんだろな。それでも一週間とはいえ、一日3万という金額を払ったのは凄いな。店長との賭けもドローだし、来週こそは逃げるに3000点。しかし、心のどこかではこのまま払いきってくれないかなぁという、淡い期待があったのも事実である。他の業者からしてみると、一週間ずつ払っていたやつが急に一日分の支払いになると、末期認定しちゃうからなぁ。さっさと動いといてよかった。




そして週が明けて運命の月曜日。土日に稼いでれば、たぶん今日も支払いに来るはずであると、俺はちょっぴり期待してた。出社して普段通りに業務を捌いて、ふと時計を見るとすでに15時。店長との話も自然と西田のことが多くなっていった。刻一刻と時を刻みながら、俺は17時を待った。そして17時になる数分前、エレベーターが動く音がした。俺はまだ心のどこかで、西田が払いに来てくれると思ってた。そして、エレベーターが止まり、会社のドアが開いた。



そこには・・・息を切らし、ハゲ散らかしたおっさんが立っていた。




いやー、間に合ったー。よかったよかった。んじゃこれ今日の分!




クシャクシャの千円札を一枚置いて帰った。俺はつい、




なんや、お前かーい!




っとツッコんでしまった。店長は裏で椅子からずり落ちそうになってた。そして時計は静かに17時を刻んだ。




とりあえず西田に電話をしてみたが、鳴りはするものの取らない状況が続いた。店長はその最中にも協力業者に連絡を取り、これからどうするかの協議中。今回は一緒にまとめて動いた方がよさそうだという結論にいたった。まぁウチは他がいるからどっちでもよかったんだけど、これからのお付き合いを考えて、たまにはいいだろうということで。俺としては1人で好き勝手動く方が好きなんだが、一緒に行って他のトコがどういった話をするかを見るのも勉強だな。先輩方もいるんで、まぁなんとかなるだろう。




そしてウチを含む5社連合は、2台の車に分乗し、片道1時間はかかるであろう西田の実家に向けてドライブを始めた。道中はあまり仕事の話をしなかった。大半が下ネタだったな。




そして俺たちは西田の実家に辿り着いたのである・・・



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