一方その頃─③ 魔女子さんとゴブリンさん。
一方その頃。
この世界で最弱と呼ばれる森では今日もいつもと変わらぬ日常が流れていました。今日のお仕事がお休みだったしろうさぎさんの元へ一人の小さな訪問者はゾロゾロと仲間を引き連れやって来ます。
「おいっち、に。おいっち、に。……おいっち、に。おいっち、に。……はーい、ぜんたーい、止まれ!!」
──ザッ、ザ。
「ばんごう」
「ゔぁ(いち)、ゔぁ(に)、ゔぁ(さん)、ゔぁ(し)、ゔぁ(ご)……」
魔女子さんの掛け声に従い奇怪な点呼を披露したのはゴブリンさんの皆さん達。その統率の取れた動きにはどこか迫力めいた力があり、突然目の前でそれを見せつけられたしろうさぎさんは圧倒されると一歩後ずさりをします。
「す、凄い迫力……」
そんなしろうさぎさんの事はさておき、魔女子さんはゴブリンさんの皆さんに向かって指示を出します。
「では、
「ゔぁゔぁゔぁゔぁ、ゔぁ(こんにちは、主)!!」
「あ、ああ、はい。皆さん、こんにちは」
最近のスライムさんの一件やリリパットちゃんの一件も含め立て続けに何かを自分に見せて驚かせようとしてくる魔女子さんの行動に、しろうさぎさんは今日はどんなものを見せてくれるのだろうと内心若干の期待を込めた眼差しで彼女の顔を見つめます。
「はい。それでは、ここで
「え、ぇ、も、問題!?」
まさかの角度の内容にしろうさぎさんはその目を丸くします。
「じゃじゃん!!
「わ、私がゴブリンさん達にやらなければいけないこと!?」
「はい、そうです!!」
「え、えぇと、やらなければいけないこと、やらなければいけない……」
「チッ、チッ、チッ、チッ、チッ……」
「あ、あぁああ、ちょっと、待ってください。え、えぇえと、だから……」
魔女子さんに煽られるかたちでまんまと焦るしろうさぎさんを見て魔女子さんは不敵な笑顔を浮かべます。
「へ? 魔女子、さん……?」
「ふふーん。
「ヒ、ヒント? あ、はい。是非、欲しいです」
「もぉ、仕方ないですねぇ。じゃあヒント。それは、ピクシーちゃんからのアドバイスです!!」
「ピクシーさんからの、アドバイス……?」
その言葉にしろうさぎさんはスライムさんとリリパットちゃんの事を思い出します。確かに最近自分の前にやって来た二匹は何やらピクシーさんから助言らしきものをもらっていて、スライムさんは水に弱い、リリパットちゃんはスタミナが無いという自身の弱点を克服する事に取り組んでいたのでした。しろうさぎさんはそれならとゴブリンさん達の弱点について考えます。
「──えっと、ですね……ゴブリンさん達の……」
「はい、ブブー。時間終了でーす」
「えぇえええ、そんなぁ……!?」
しろうさぎさんが何か言おうとした瞬間、魔女子さんの口から即座に告げられる終了の合図。その合図を受けていつの間にか本気で悔しがる程にクイズにのめり込んでいたしろうさぎさんを見て魔女子さんは笑顔を浮かべるとこう言ったのでした。
「
「ア、アドバイスは……」
「特にありません!!」
「と、特にない!?」
「はい。そうです。
そう言われゴブリンさん達の姿をよく見たしろうさぎさんはその服がとても泥だらけになっている事に気がつきます。
「え、えぇと、とても……泥だらけになって……って、うん。とても一生懸命頑張ってくれてるなって感じます」
「はい、
「え? それ!?」
そして魔女子さんはしろうさぎさんにその想いを伝えます。
「
その言葉を聞いて、しろうさぎさんはようやく問題の答えに辿り着きます。
「……答え、わかりましたよ、魔女子さん、それにゴブリンさんの皆さん」
すると、しろうさぎさんはゆっくりと丁寧にお辞儀をしながら心を込めて言いました。
「ゴブリンさんの皆さん。いつもいつもこの森の為に頑張ってくれて、どうもありがとう」
そんなしろうさぎさんの言葉にそこにいる全員は目を輝かせると大声で叫びます。
「ゔぁ、ゔぁゔぁゔぁゔぁ、ゔぁ(いいえ、主。そう言っていただけて嬉しいです)!!」
「あははは、やった、良かったね、ゴブリンくんのみんな!!」
「ゔぁああああーー(うん!!)」
調停者アナスタシアとくろうさぎさんのクロエがこの世界の『違和感』と対峙している頃。
この森では満面の笑みを浮かべる魔女子さんの姿があり。
その目の前ではそれに負けないくらいの満面の笑みで大はしゃぎするゴブリンくんの皆さんの姿があったのでした──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます