【非公開】6月14日 ”蛍さん”からの初コメントの翌日

 文芸部員以外で、僕の書いている日記に星をつけて、コメントしてくれたのは”蛍さん”が初めてだった。


 僕の日記は、面白くもおかしくも無いうえに、文芸部内の掲示板と化した代物だった。コメントを書き込む人なんて、今から思うと、いなくて当然だったと思う。

 そもそも僕の日記公開は、所属する文芸部の課題“小説その他の文芸作品を世に公開する”をこなしていただけで、その部活も、地元の県立高校に入学した直後、偶然出会った作者名“咲耶さくや”こと木花きはな部長に、学校前の自販機で無理矢理ジュースをおごられ、断りきれずに入部したもので、僕自身、日記の読者を増やしたいなんて、全く望んでなかった。


 “蛍さん"がコメントを書き込んでくれた翌日は、普通に平日だった。だから僕は授業の間中、どうして”蛍さん”は僕の日記にコメントをくれたんだろう、と考えた。

 何が面白かったんだろう。そもそも本当に面白かったんだろうか。何か他の目的があってコメントをくれた可能性は無いだろうか…。


 僕は、”蛍さん”からのコメントに翻弄ほんろうされた。望んでいないといえ、やはりそれなりにコメントをもらえて嬉しかったんだと思う。


 帰宅してからは、”蛍さん”がどんな人物なのか気になって、”蛍さん”が公開している文章を手あたり次第に読んだ。


 ”蛍さん”が公開している小説、日記、レビュー、コメント。

 その量は膨大で、”蛍さん”の自己紹介、「長い間入院していて、ベッドの上にいる時間のほとんどを、ネット小説サイトで過ごしている」という言葉を信じるしかないと感じてしまう程だった。


 高校1年生の僕は、ネット上の”蛍さん”の記述を、鵜呑うのみにするほどの世間知らずでは無かった。

 だけど、”蛍さん”の書いた物を読んでいるうちに、僕は、”蛍さん”、君自身の事を、信じるようになっていた。

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