第30話 王子に助けられる
「マキ!!!!!!」
「マキくん!!!!!!」
落ちていくとき、チヒロもユウキも泣きそうな顔をしていた。
ありがとう。俺のためにそんな顔をしてくれて。
高い場所がこわいはずなのに、なぜだか心は穏やかだった。
本当ははやいはずのに、なぜだかゆっくりに感じる。
下ではより騒ぎが大きくなり中には悲鳴も聞こえてくるが、なんだかぼんやりと聞こえる。
ああ、母さんと父さんには、申し訳ないな・・・・・・
そう思いながら目を静かに閉じた。
ガシッ!!
そのときを待っていると、いきなり全身を包まれて、落下が止まった。
「真柴っ!! 大丈夫かっ!!?」
周りでワーワーと騒がしい声が聞こえる。
間近で声をかけられ、恐る恐る目を開くと、そこには王子様――
ではなく鷹ノ爪先生の顔があった。
首と頭を手で守りながら、上手く抱き留めてくれたのだ。
今も頭を抱えられたまま、顔を近づけて俺の様子を見てくれている。
俺が目を開け鷹ノ爪の目を見ると、彼はふわっと安心したかのように顔を緩め、笑顔を見せて『よかった・・・』と言ってくれた。
か、かっこいい・・・・・・!!!!!
「あっ!!ユウキとチヒロはっっ!!?」
2人は無事なのかと思い上を見上げると、ユウキはちゃんと引き上げられたようで、2人とも屋上でこちらを見て安心した顔をしていた。
よかった・・・・・・・・・!!! 本当によかった・・・・・・
2人の無事を知って気が抜けると、今になって恐怖が一気に押し寄せてきた。
身体がブルブルと小刻みに、そして足もガクガクと震えてくる。
ああ~~・・・・・・こわかったんだなー・・・・・・
じわじわと涙も出てきて、俺は思わず鷹ノ爪に抱きついた。
けっこうガタイがよく、回した手が重ならない。
「うう~~・・・・・・」
でかくて安心する。
温かい・・・・・・。
そう思って頭をぐりぐりとしていると、背中を支えていた大きな手が優しく頭に触れ、ゆっくりと撫でてくれた。
小さく『無事でよかった』と呟いており、また泣きそうになった。
はぁ~・・・・・・居心地いい~~・・・・・・
このほどよいムッチリ感と包容力。体温もあったかくてお日様の匂いもする。
なんか、心の底から安心できたら、眠たくなって、・・・き、た・・・・・・
「鷹ノ爪先生、いつまでそうしているおつもりですか?」
違う世界へ行こうとした瞬間、後ろから冷え切った鋭い声が聞こえてきてビクッとする。
というか、今俺って・・・・・・
目を開け自分の状態を見てみる。
と、今俺は鷹ノ爪にお姫様抱っこ・・・ではなく赤ちゃんみたいに抱っこされて・・・いた。
鷹ノ爪に身体の正面を預け、頭とお尻らへんを支えられている状態だ。
俺の顔が徐々に熱をもってくる。湯気が出そうだ。
バッと後ろを向くと無事扉が開いて下りてきたらしいチヒロとユウキが、氷点下零度の目でこちらを見ている。
は、はずかしー・・・・・・
「みっ、みないでっ!!」
たまらずまた鷹ノ爪の胸に顔を埋める。
「ちょっ、マキくん!?
楽良せんせー、鷹ノ爪先生がセクハラしてまーす」
恥ずかしくて鷹ノ爪の胸で顔を隠していたけど、なんだか後ろでユウキがどえらいことを言った。
「おい鷹ノ爪、訴えるぞ」
「えっ、俺ですかっ!!?
あっ、うわっ! ごめん!真柴!!」
「うひゃあっ!」
俺の抱え方に今更気づき、慌てて動いた鷹ノ爪の大きな手がふにゃりと尻を触る。
変な声が出てしまった! もう誰かどこかに穴掘ってきてくれ~!!
周りにいるみんなが黙ってしまった。
絶対今の声が気持ち悪かったからだ。
「おい鷹ノ爪」
「ふぁい!! ちょっ、楽良先生!? こわいですこわいです!!」
「はやく下ろせよ」
チヒロの鉄の一言で俺はようやく下ろされた。
けっこう居心地良かったのにな・・・・・・
「マキ・・・!!」
下ろされた途端、チヒロに思いっきり抱きしめられた。
「もうあんな無茶なことすんなよ・・・・・・馬鹿野郎・・・・・・」
「チヒロ・・・・・・」
しばらくぎゅ~とした後、身体を離すとチヒロの目が少しだが潤んでいた。今までチヒロが泣いたところを見たことがなかったから、それだけ心配させたのだ。
「マキくん・・・・・・!」
今度はユウキに抱きしめられた。ユウキの身体が小さく震えており、小さいが嗚咽が聞こえてくる。肩がじんわりと温かくなってきた。
「ユウキ・・・ごめんな
ありがとう 」
「マキくん・・・!!無事で、よかった・・・・・・!!!ほんとうに」
俺の目も涙で膜が張っている。
「うん、うん、ありがと。ありがとうなっ・・・」
顔を離したユウキはいつも通り眼鏡をかけていたが、顔が少し赤らんでおり、鼻もズビズビ鳴らしている。
俺も目の周りが赤くなってしまい、2人で笑った。
チヒロはそんな俺たちのことを、口の端を緩めながら眺めていた。
無事で良かった。本当に。
だが俺には、心の中にあと一つのわだかまりがあるのだった。
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