第25話 兄弟の決着
目の前には、この前俺にいきなりケンカを仕掛けてきたあのおチビさん・・・・・・小蟹の兄、和馬小海老(もはや白海老)がいる。
「チッ 」
小海老は心底気に入らないような様子でもの凄い舌打ちをし、サッと俺たちの前を通り過ぎようとした。
小蟹は焦った様子で小海老に声をかける。
「ちょっと待ってよ兄貴。 少し時間を――
「いいぜ。 ちょうど俺もお前と一度やり合いたかったんだよ」
・・・・・・は?ケンカの話?? 和馬家では時間をとる=ケンカする っつー意味なんですか?
まったく眼中にも入っていない俺がそう思っていたら、小蟹も『はぁ? 何言ってんだよ』と言ったから安心した。
「普通に話をさぁ 」
「うるっせぇ! お前と改まって話すことなんかねぇんだよ」
「そんなことないよ。だって親が外国行ってから、兄貴、全くと言っていいほど家の中で会わないじゃん」
「会いたくねぇからだよ! そんなに俺と話がしたいなら・・・・・・そうだな、ケンカの最中ぐらいだったら話してやってもいいぜ。 明日の昼、屋上でだ。
じゃあな、クソアマ」
「ふぁっ!!? アマじゃねぇっつってんだろチーーービ!!!」
フッと鼻で笑って今度こそ離れていった小海老。くっそムカつくなあいつ。
「え、マキ兄貴のこと知ってたの?」
「え、あ、まぁ・・・うん。 それよりお前、大丈夫かよケンカなんて。あいつ、めちゃくちゃ強いぞ」
「そうらしいね・・・・・・。 あーー俺明日生きて学校から帰れるかなぁ・・・・・・」
小蟹が空を仰ぎはははと乾いた笑いをこぼす。
夕日に包まれた木々に囲まれ、同じく夕日色に染まった小蟹の顔は、哀愁を帯びていた。
「棄権・・・・・・したらどうだ?」
「いや、やるよ。 せっかく全く接点をもってくれなかった兄貴の誘いだもん。
こないだね、マキに『やらない後悔よりやってする後悔の方がいい』って、言ったじゃん?
あれ、自分に言い聞かせているみたいだった。俺もさ、今まで諦めてたこと、もう一度やってみる」
「そうか」
「うん・・・・・・。
だからさ、明日、兄貴との勝負が終わったら――
「やめなさい。フラグを建てるのは」
こうして、再び俺を悩ませる原因ができた長い長い一日は終わったのだった。
さて翌日の昼頃、実に午前中最後の授業のまっただ中、マキは頬杖を付き窓の外を長めながら小蟹の近い未来を心配していた。
そしてチヒロとユウキも、昨日の昼から様子が変で、しかも今も何やら悩んでいそうなマキが心配だった。
チャイムが鳴り、昼休みを告げる。『まぁ小蟹、がんばれ!』となんとも無責任なことを思い、俺は鞄から弁当箱を取り出す。
少し離れた席からユウキが歩いてきて、一緒に食べようと誘ってくれるが、なんとも気が進まない。でもユウキの『うるるんっ』という効果音つきのお願いに負け、表情が硬いながらも俺はチヒロとユウキについて屋上へ向かっていった。
どうしよう・・・・・・。マンガのストーリーを進めたいとかも少しはあるけど・・・ストーリー関係なくチヒロとユウキはきっと思い合っているんだし、俺はめちゃくちゃ二人の邪魔してると思うんだけど・・・・・・。
うっわーー・・・・・・絶対俺、今まで無自覚に二人の邪魔してたよなー。気づいたらキツくなってきた。二人はいつも俺のこと邪魔だと思っていたのかな・・・・・・。いや、二人はそんなことは思わない。きっと。でも思わないだけで邪魔は邪魔だったんだろうなー・・・。今日もユウキは誘ってくれたけど、本当は二人きりで食べたかったはず。だけど優しさで誘ってくれたに違いない。
俺、断るべきだったのかな・・・・・・?
「おうお前ら。ちょうどよかった。俺も今そっち行こうと思ってたところだ」
俯いて歩いていたら、階段の上から八の声が聞こえた。
「別に来なくてもよかったけどな」
「はっ、俺はお前に用はねぇよ!」
八・・・・・・、お前は強いな。あんなあからさまに拒絶の言葉を受けて、こんな強くいれるなんて!!
フンッとチヒロから目をはずし、俺の所まで下りてきてくれて頭を撫でてきた。
「どしたマキ?なんか、元気なくね?」
バッと顔を上げると、八の眉が久しぶりに八の字になっており、いつも元気な彼には似合わない顔をしていた。
ああ、八。俺、お前の良さに今気づいたかも・・・・・・。
お前は強い。いい男だ。いつの間にかユウキへのアプローチはなりを潜めたが、今でも一途に思っているに違いない。ユウキのナイトであるチヒロにひどいことを言われても、意中の相手にそっけない態度をとられても、へこたれることなく腐ることのないお前は真の男だ!
八さん・・・・・・どうか今の俺にそのあまりある元気を分けてくれ~・・・・・・今の俺はいつもの笑顔すら作ることができないんだ~。
八は、2人が正式にくっついたらどうするのだろうか・・・・・・。ああ、八には小蟹がいるからな。きっと2人で楽しい学校生活を送るんだろう。
・・・ハッ!! てか、2人が正式に付き合い始めたら、俺の日常生活どうなんのっ!!?あの楽しい学校生活がっっ・・・・・・
1人ぼっちなんて嫌だよぅ・・・・・・
俺はしょぼくれて、思わず八の腕にひしっと捕まる。
「!!! マキ・・・?」
「はち・・・・・・ずっと、いっしょに、いてね・・・・・・」
情けないことに、そう呟いてしまった。
八にだって、こんなお荷物嫌だよな・・・・・・。現に八は固まってしまったし、前では2人とも上るのを止めたまま無言でこちらを見ている気配がする。きっと呆れてるんだ・・・でも、なんでか腕を放すことができない。
しばらくの間そうしていたら、八に腕を捕まれた。引き剥がされるのだろう・・・
予想通り八は俺の腕を自分の腕からやんわりとはなした。しかしそのまま俺の手を握ってきた。
「マキ、俺・・・・・・
「もう、早く行きましょうよ!ね!?」
八が何か言おうとしたとき、ユウキが八の手を俺の手から外してにこりとしながら言った。
なんだか、その笑顔がすごく怖かった。
『せっかく誘ったのにのろのろしないでよ』とか思ってたんかな?いや、そんな口悪いことユウキは思わない!!絶対!
ユウキの冷たい笑顔を初めて目した俺たちは揃って『はい』とだけ答え、大人しく後について行った。
屋上のドアが開いた音がしたが前にいるユウキとチヒロの足が止っている。どうしたのかと思い中を覗こうとすると中から『だからっ、それは誤解だって!!』と大きな声が聞こえ、そこには小蟹の背中が見えた。
「お、小蟹じゃんか! なんだお前、今日もクラスの奴らから逃げてきたのか?」
後ろから同じように中を覗いた八が小蟹の背中だとわかると、『なんで2人止まってんだ?』と言いながら前の2人を押しのけいつもの調子で声をかけた。
ちょっ、とおおおおぉおおお八ぃいいいい?!
俺も八に習って声をかけようと前に進んだが、小蟹の背中の向こうにちんまくて白い存在を見つけ、必死に口を閉めて声を出さずにすんだ。
あれだ!!昨日言ってた兄弟ケンカ(意味が違うような気もする)だ!!
八、気づけ!!いるの小蟹だけじゃないぞ!!
小蟹がこちらに振り返り、『あ~そうだったぁ~』と言いながら額に手を当て脱力した。
話の途中だったのか、向かい側の小海老はムスッとした顔でこちらを睨み付けている。
「おっ、なんかちっさいのがいる・・・・・・あ、ああ!!あんたが小蟹の兄貴の!」
八は小海老が小蟹の兄だと繋がったようで、ペロリと舌を出し得意げな顔で腕まくりをしながら2人の元へ勇んでいった。
その顔は――、小海老にケンカを売る気だな。
「ちょちょちょちょ八っ!やめとけって!!今小蟹たち大事な話をしてるんだよ。なっ、小蟹!
っつーことでチヒロ、ユウキ、教室戻ろうぜ!」
やる気モードに入った八の腕を両手で掴み、全力で引っ張って戻ろうとする。八は俺に腕を掴まれた途端急に大人しくなったから、力を入れていた俺が逆にガクッとなる。
大人しくなったのをいいことにそのまま入り口まで引っ張っていって、一部始終を黙って見ていた2人とともにまとめてあちら側へ押し込もうとする。
「それでは俺たちは退散するので、続きをどうぞ~。お邪魔しました~」
「おい」
ヒエッ!! 今までムス顔で黙っていたチビにいきなり声をかけられたっ!
「なななんでしょう・・・・・・?」
ビクビクしながら振り返ると、小さい身体のくせにどんどんと近づいてくる。間近に迫ってきて何されるんだろうと思っていると、小蟹も怪訝な顔で小海老の動作を追う。
「ちょっ、兄貴なにやって――
小海老が俺に手を伸ばそうとすると小蟹は焦ったように小海老の手を阻止しようとするが、その前にチヒロが小海老の腕を掴んだ。
それに少し驚いた風の小海老は次にはフンッと鼻をならして、チヒロの手を振り切る。
「小蟹、お前に勝ったらこのアマは俺のモンってことにするから」
「はいいいぃいいいいいい!!!?なんだってぇええぇえええ!!?」
「はぁああああ!?」
俺と八は同時に叫んだ。
チヒロとユウキは俺を庇うように小海老との間に立つ。なんかっユウキが最初に比べて男らしくなったような・・・・・・。
「なに勝手ほざいてんだ?」
「そうですよ! それに、マキくんはまず小蟹くんのモノじゃないですから!」
「そうだぞ兄貴!マキは今は俺のじゃないぞ」
「おい『今は』って何だ」
「え・・・小蟹もマキを狙ってる・・・の、か・・・・・・?」
チヒロとユウキ、それに小蟹が変な誤解を解こうとしてくれている。
八は論外だ。
「ごちゃごちゃうるせーーーんだよっ!!じゃあ小蟹の後にお前ら潰してやるよっ
おらやるぞ小蟹ぃっ!!」
今まで蚊帳の外にされていた小海老は『心底うぜぇ』を体現したかのような顔面でケンカを続行させようとした。
小蟹は必然的に潰されるらしい・・・・・・。こっわ。
「わかったよ兄貴・・・・・・俺が負けたらマキは兄貴のだ
その代わり俺が勝った場合も何か条件つけていいよな?」
「ああ。なんでもいいぜ」
またまた、はいぃいいいいいいいいいいいいいいい!!?
ちょぉっと小蟹くぅん!?今なんて言ったぁ!??なんか俺の所有権勝手に決めたことない今?
えっ、どゆこと・・・・・・?なんで勝手に小蟹が決めるの?なに、意地悪か?
「じゃあ俺が兄貴に勝ったら・・・・・・ 」
俺の鬼のような形相を完全にスルーし、小蟹は彼が勝った際の条件を生き生きと話す。
「兄貴を抱っこさせてくだひゃいっ!!! あ、噛んじゃった・・・」
小蟹は最後を噛んでしまったことに恥ずかしくなり顔を赤く染めた・・・・・のだが、恥ずかしいのは噛んだことか?
内容じゃね。
ほ~ら見ろ。みんな固まってんじゃねぇか。君の兄貴なんてまるでゴミを見るような目で・・・・・・て、
なんだその可愛い顔は。
ポカン としてる。マジでそんな効果音。『ポカン』顔よ。
いつも眉間で存在感を醸し出しているしわが一本もなく、キリキリとつり上がった目は驚きからか本来の大きさなのか大きくてくりっくりしてるし、いつもへの字の口は少し開いて小さい歯が見えてるし。
めちゃくちゃかわいいんですが。
「兄貴なにその顔、めちゃくちゃかわいいんだけどーーーーーーーーー!!!!!」
そう思ってたら同じ事を小蟹が叫んだ。
いつも完璧王子様みたいな彼が、取り乱して自分の兄に向かって『かわいい』と叫ぶ。
これは・・・・・・ギャラリーがいなくて本当よかった。
チヒロとユウキ、それに親友ポジションの八も小蟹のいきなり見せたこの姿に若干引いている。若干なのが3人のすごさだ。
「ああ、かわいい・・・兄貴めっちゃかわいい・・・・・・兄貴のイラついた顔以外の顔なんてすごくレアだ・・・・・・。
兄貴、抱っこ、してもいい・・・・・・??」
小蟹は何かが抑えられなくなったのか、じりじりと小海老に近づいていく。
小海老は未だなお何が目の前で何が起きているのかわかっていない状態だ。さっきのかわいい顔のまま固まっている。
これは、助けた方がいいのか?小蟹の様子がおかしいし。
でも助けた後で小海老に何か文句言われるのも嫌だから、やめよ。
俺は傍観することにした。
小蟹は小海老のすぐ近くまで迫っている。
小海老は少し前からスンッとした顔になっており、間近まで迫り手を伸ばしてきた小蟹の横っ面をパァンッと跳び蹴りした。
すごい強烈な音が、俺らだけしかいない屋上で響いた。
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