第19話 友達の名前、「小蟹」って・・・



「お前、クラスに友達いねぇのか」






 昼休み。俺たちはいつも通り眺めが圧巻の屋上にて昼食を取っていた。歓迎会から1週間後に委員会決めや仮入部期間が始まるから、今この時間教室では大勢の先輩が勧誘のため1年生のクラスに顔を出すのだが・・・・・・、俺たちはここにいるので全く関係がない。


ちなみに俺は部活のことはまだ考え中だ。




 八は早々に食べ終えて寝転びうとうととしており、残りの3人はまだ食事中。


 あの謎のチビ(3年生なのが謎)の謎の襲撃から数日経ったが、あれからは平和が続いている。


 本当になんだったんだあれは。




 ぽかぽかする春の日差しを浴びてユウキと談笑しながらおいしいご飯(自作)を食べ、時々おかずを交換しつつ日々の平和をかみしめていると、無言でお好み焼きを食していたチヒロがぼそっと言い放ったのが先ほどの一言。






 寝てたかと思ってたらちゃんと聞いていた八が上半身だけ起き上がる。




 「おるわ!  おいユウキお前そんな哀れな者を見るような目をやめろボケ。 


 あとマキ吹き出すな・・・・・・」




 めちゃめちゃ不機嫌になった。おもしろっ。




 「いやー、でもチヒロは見た目一匹オオカミっぽいけど意外にも俺とかユウキと一緒に居るじゃん? 八も・・・まあどっちかというと一匹オオカミっぽいから・・・・・・俺たち以外に友達居ないかと思ってた・・・ごめん」




 「そうそう。 だって休み時間もほとんど僕たちのクラスに来るからクラスで1人なのかな?ってずっと思ってました」




 ねー!とユウキと首を傾ける。ユウキきゃわいい・・・




 「おいチヒロ笑ってんじゃねーよお前!




     ・・・・・・つーか友達・・・友達って・・・・・・


 俺は諦めないぞ。マキの夫になることを・・・






 んで、ダチだったっけか・・・・・・。そういや、こないだクラスで初めて話が合う奴見つけたわ」




 「へぇー、良かったじゃん。高校での友達第1号か! 


で何?趣味とかが一緒とか?まさか青い髪仲間とか・・・・・・」




 「ちげーわ。普通に趣味だよ趣味。ほら、俺昔から『P of P』好きじゃん?その話。なかなか好きな奴いねーんだよなぁ」




 「なにそれ俺知らんけど。P of Pって、プリン・オブ・プリン? プリンの商品名?」




 「ちっげーよ!!『Pride of Pain』! 音楽グループの名前!! つーかこの説明5回目なんだけど!!!忘れすぎだろ!!!」




 「えっ!?初耳なんだけど俺。チヒロこの話八から聞いたことある?」




 「いや、初耳だな」




 「おいーー!!!お前にも3回説明したぞっ!!マジなんなの!!?」




 「興味ねぇからな」




 「そんなはっきり言わんでも・・・・・・ひでぇ」




 「ユウキは知ってる?このバンド」




 「はい。名前は聞いたことがあります。なんか、かっこいい感じがしますね。僕、ちょっと興味あるかも」




 「へぇー。俺も今度聞いてみよっかなー」




 「おい。俺が散々勧めても話題すら忘れるくせになんだこの扱いの違いは・・・・・・


 あっ、そうそう。でよ、話が合う奴の名前が超ー笑えるんだぜ!!最初聞いた時、思わず飲んでた茶ァ吹き出しちまった」




 「え、失礼じゃん。どんな名前?」




 「『小蟹こがに』」




 「「ブッフォ」」




 俺とユウキは盛大に吹き出した。『小蟹』という名前が頭の片隅に引っかかったけれど、とにかく吹き出した。吹き出さなかったチヒロはすごいと思う。本当に。でも肩は震えてるけどね。




 「な?吹き出すだろ? そいつ名字も『和馬かずま』つって名前共々変わってんだよなー。つーか最初和馬が名前かと思ったー」








 ――ん? 和馬? なんか聞いたことがあるよう・・・な・・・・・・


 って、あのクソチビ(3年生(笑))もそんな名前名乗ってなかったか!?




 いやまて、まずさっきの小蟹とかいう名前もどっかで聞いたことがあるぞ。










  ハッ! 漫画で八の次に出てくるキャラじゃん!!






 








 和馬小蟹。1年生で八巻と同様8組に属する生徒。紺色の髪を首元まで伸ばし両耳にはシルバーのピアス。背は八と並んでも負けないくらい長身で(クッソー・・・羨ましい)特徴的なのが、見るものに甘さを感じさせる垂れ目。あとチャラくてムカつく(←個人的意見)。コンプレックスは自身の名前。


容姿端麗、運動神経抜群、そしてチヒロなどと違いフレンドリーで接しやすい雰囲気のため入学早々様々な運動部に入部を迫られる。だが本人は根っからの飽き性、また面倒くさがり屋であることから毎日勧誘してくる先輩たちから逃げ回る。ある日帰宅する際しつこい勧誘に捕まり若干イライラしていた時に、たまたまそこを通りかかったユウキ(チヒロとマキが委員会のため先に帰宅するところ)を捕まえ『こいつと帰る約束してたから』とだしにしてその場から逃れる。八と仲良くなって『P of P』のグッズを身につけていたユウキに“同士”だと嬉しくなった小蟹は、それからユウキを見かける度に声をかけるようになる。


小蟹には2つ離れた兄がおり、関係はよろしくない。自分には原因が思いつかずなんとなくいつも心にはわだかまりがあった。また原因がわからず兄に嫌われていることから、人との接し方について自信をなくしてしまう。さらに昔から顔が良く運動もできていたことから周りから尊敬され、勝手に完璧というイメージを持たれていた。本当の自分を出しにくいのと人付き合いが面倒なのとでいつもヘラヘラとするようになっていった。


しかしユウキは本当の自分を見てくれる。反対に、ユウキの前だと本当の自分でいられるということからユウキに執着心を抱くようになる。ある日ユウキを昼ご飯に誘いに行くと、チヒロたちと共に屋上に向かうところを目撃する。ユウキと会うのはいつもなぜかチヒロたちが近くにいないときばかりだったことから、初めて嫉妬心を抱きチヒロたちに突っかかる。




 と、こんな感じだ。で、八が『お前俺と同じクラスの小蟹じゃねーか!チヒロの前に俺が相手してやんよ!!』的な感じのこと言って突撃していったんだよな。


 そんでほぼ互角で最後は相打ちみたいになって、小蟹も何か吹っ切れて最終的には和解に落ち着く。当然ユウキのことは諦めてないんだけど。そして、八とは波長が合い、非常に仲良しになる。






 うん・・・・・・で、八はもうその彼と交流を持っていると・・・・・・。ん?作中ではユウキ仲介なしに八と小蟹は接する機会がなかった気がするけど。ふ~ん。何、もう仲いいんだ。




 小蟹は最初は頑なだったけど、ユウキを通して俺たちと交流するようになって初めて心から楽しい高校生活を送れるようになるんだけど。もう八と話してるって・・・・・・ここでもうすでにストーリー通りではないんだが。




 あと、展開早くね!? 確かに八の登場シーンは端折はしょってるのは承知してるけどさ?!その後!その後登場の小蟹くんまで登場する時期早いよ!!




 どんどん話の流れが変わってきてる!大幅な変化はないし、出てくるはずの人もちゃんと出てきてはいる。でも、スピードが速すぎる。








 と、ごちゃごちゃと考えたのは刹那の間。その間にも会話は続いている。






 「和馬もめちゃケンカ強いらしくてさー、一回手合わせしてくれって頼んでんだけど全っ然受けてくれないの! つまんねー」




 「お前みてぇに暇じゃねーんじゃねーの」




 「なっ、俺も暇じゃねーよ! ほんっとに失礼な奴だなチヒロは。親しき仲にも礼儀が必要だぞ」




 「親しくねーだろ」




 「おまっ・・・・・・泣くぞ  てかユウキ笑うなこの野郎」




 「くっ・・・ごめっ・・・・・・ははははっ!」




 「お前全然謝ってねーだろそれ!!」




 なんとも平和。俺もその会話に溶け込もうかと思ったが、その前に考えなくてはいけないことが残っていた。


 そう、あのクソチビ(3年生らしいよ(笑))のことだ。


 嫌な予感がする・・・・・・。たぶんあのチビっ子、子蟹の兄だ。




 「なあ八、その和馬っていう奴に兄弟っているのか?」




 「ん? ああ子蟹か・・・・・・うーん。家族の話はしなかったからわからねーなー。今度聞いてみるわ。


てか何で?」




 「え・・・・・・いや、あの・・・・・・」




 3人がじ~と見てくる。 えっ、何でもよくない?理由なんて。




 「あーーもうほらっ、こないださぁ、屋上でチビっ子に襲撃されたの話したじゃん?


あのチビもその・・・・・・和馬って名乗ってたし・・・・・・3年って言ってたし・・・・・・もしかしたら子蟹って奴の兄弟だったりしてって思って・・・・・・」




 「そうですね。いきなり名前を言うのも変だし、その『和馬』も名字だと思えますね」




 「だろ?そこんとこ気になるからさ、よろしく八」




 「ああ。次和馬に会ったらお前にチビな兄貴いるかって聞きゃあいいんだろ」




 「そんな露骨に聞くなよ、絶対! もしあいつ経由であのチビにその言葉が伝わったら・・・・・・・・・・・・俺、あのチビに今度『チビ』っつったらぶっ殺すとか言われてんだぞ!!」




 「へぇー・・・・・・マキビビってんだ。そんな強かったのか?そのチビ」




 「今度会ったらお前が戦え。そしてお前が戦ってるのみてクセとか見つけるから」




 「それはいい考えですね!」




 「おまっ、俺を身代わりみてぇにすんじゃねぇ! てかお前ら俺に対してなんでそんな辛辣なの!?」




 「お前はそういうポジションだろ」




 「チヒロまでっ!!? 俺マジ泣いていい?」




 「「「いいよ」」」




 「ぐすん・・・・・・」






 肌も髪も白く極めてチビ、しかもかなり強いはずのマキよりも強い“和馬”という、作中には登場しなかったキャラに若干緊張しつつも、今日も平和な昼休みは過ぎていったのだった。


























































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る